花が招く良縁

まぁ

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「美奈穂さん…」
 二人っきりになり俯いたままの美奈穂は、慶に名前を呼ばれビクッと肩を震わせた。
「とりあえず座ろう…」
「…はい…」
 大人しく台所にあるダイニングテーブルの椅子に腰かけた二人は、しばらく沈黙のままでいた。もう一人の同居人である風香は、二人の事情を察したのかその場にはいなかった。沈黙のまま時計のカチカチという音だけがその場に響いた。
「…あの…」
 沈黙に耐え兼ねた美奈穂が口を開こうとした時、慶が弱々しい声で「すみません…」と謝ってきた。
「あの事件の事、事実なのは事実なんですが、ずっと黙っていてすみません…」
「あ、の…その事なら泉川さんから聞きました。本当は婚約者がいて、でも慶さんはその気がないって…」
「その気がないのは事実です。けど…麗子さんの方は絶対に結婚すると言って聞かなくて…ずっと話が平衡状態だったんです」
 そもそもの話は親族間で勝手に決めた事らしい。そして名のある西園寺家は昔ながらの家で、家同士の繋がりを大切にしていた事も…慶は一つ一つ丁寧に話してくれた。
「後もう一つ…これも謝らなくてはいけません…」
「えっ…?」
「俺が何で美奈穂さんに同居を進めたのか…」
 やはり同居を進めた理由は存在したのだと思い、美奈穂の胸がチクリと痛んだ。
「俺は元々、大学卒業後は本家で華道をするつもりでいたんです。けど、麗子さんが執拗に追いかけるので、逃げるようにこっちに来たんですが…それでも麗子さんは毎日メールやら電話やらをしてきて…正直困り果てていた時、洋二から適当に彼女でも見繕ったらどうかって言われて…」
 それで全てが納得した。自分は麗子を遠ざけるために慶と付き合っていたのだ。だから慶自身は美奈穂に対し何の感情もない。今日までやってきた同居は、ただの恋愛ごっこだったのだと理由がわかった。
「そっか…私って魔除け替わりだったんですね!」
 懸命の笑顔を浮かべた。だがその笑顔を浮かべても口元がふるふると小刻みに揺れる。目尻は痙攣し、涙が溜まって行くのがわかる。
(泣くな!)
 そう言い聞かせたが、目尻に溜まった涙は満杯となり頬を伝った。
「慶さん…そういうのはちゃんと警察に届けた方がいいですよ。立派な犯罪ですし…それに…」
「美奈穂さん…」
「理由がわかったから…もう同居も…終わりにしましょう…」
 これが正しい結末なのだ。
 恋はいつか終わりを告げる。それはわかっていたが、こんな形で終わってしまうものかと美奈穂は十年前の事がふと頭によぎった。あの時もそうだった…相手からあっさりと別れを告げられ、結局恋に溺れていたのは自分だけだった。片思いだったのだと…
「私…一つだけ言わなきゃ…慶さんの事、好きでした…」
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