46 / 50
46
しおりを挟む
「美奈穂さん…」
二人っきりになり俯いたままの美奈穂は、慶に名前を呼ばれビクッと肩を震わせた。
「とりあえず座ろう…」
「…はい…」
大人しく台所にあるダイニングテーブルの椅子に腰かけた二人は、しばらく沈黙のままでいた。もう一人の同居人である風香は、二人の事情を察したのかその場にはいなかった。沈黙のまま時計のカチカチという音だけがその場に響いた。
「…あの…」
沈黙に耐え兼ねた美奈穂が口を開こうとした時、慶が弱々しい声で「すみません…」と謝ってきた。
「あの事件の事、事実なのは事実なんですが、ずっと黙っていてすみません…」
「あ、の…その事なら泉川さんから聞きました。本当は婚約者がいて、でも慶さんはその気がないって…」
「その気がないのは事実です。けど…麗子さんの方は絶対に結婚すると言って聞かなくて…ずっと話が平衡状態だったんです」
そもそもの話は親族間で勝手に決めた事らしい。そして名のある西園寺家は昔ながらの家で、家同士の繋がりを大切にしていた事も…慶は一つ一つ丁寧に話してくれた。
「後もう一つ…これも謝らなくてはいけません…」
「えっ…?」
「俺が何で美奈穂さんに同居を進めたのか…」
やはり同居を進めた理由は存在したのだと思い、美奈穂の胸がチクリと痛んだ。
「俺は元々、大学卒業後は本家で華道をするつもりでいたんです。けど、麗子さんが執拗に追いかけるので、逃げるようにこっちに来たんですが…それでも麗子さんは毎日メールやら電話やらをしてきて…正直困り果てていた時、洋二から適当に彼女でも見繕ったらどうかって言われて…」
それで全てが納得した。自分は麗子を遠ざけるために慶と付き合っていたのだ。だから慶自身は美奈穂に対し何の感情もない。今日までやってきた同居は、ただの恋愛ごっこだったのだと理由がわかった。
「そっか…私って魔除け替わりだったんですね!」
懸命の笑顔を浮かべた。だがその笑顔を浮かべても口元がふるふると小刻みに揺れる。目尻は痙攣し、涙が溜まって行くのがわかる。
(泣くな!)
そう言い聞かせたが、目尻に溜まった涙は満杯となり頬を伝った。
「慶さん…そういうのはちゃんと警察に届けた方がいいですよ。立派な犯罪ですし…それに…」
「美奈穂さん…」
「理由がわかったから…もう同居も…終わりにしましょう…」
これが正しい結末なのだ。
恋はいつか終わりを告げる。それはわかっていたが、こんな形で終わってしまうものかと美奈穂は十年前の事がふと頭によぎった。あの時もそうだった…相手からあっさりと別れを告げられ、結局恋に溺れていたのは自分だけだった。片思いだったのだと…
「私…一つだけ言わなきゃ…慶さんの事、好きでした…」
二人っきりになり俯いたままの美奈穂は、慶に名前を呼ばれビクッと肩を震わせた。
「とりあえず座ろう…」
「…はい…」
大人しく台所にあるダイニングテーブルの椅子に腰かけた二人は、しばらく沈黙のままでいた。もう一人の同居人である風香は、二人の事情を察したのかその場にはいなかった。沈黙のまま時計のカチカチという音だけがその場に響いた。
「…あの…」
沈黙に耐え兼ねた美奈穂が口を開こうとした時、慶が弱々しい声で「すみません…」と謝ってきた。
「あの事件の事、事実なのは事実なんですが、ずっと黙っていてすみません…」
「あ、の…その事なら泉川さんから聞きました。本当は婚約者がいて、でも慶さんはその気がないって…」
「その気がないのは事実です。けど…麗子さんの方は絶対に結婚すると言って聞かなくて…ずっと話が平衡状態だったんです」
そもそもの話は親族間で勝手に決めた事らしい。そして名のある西園寺家は昔ながらの家で、家同士の繋がりを大切にしていた事も…慶は一つ一つ丁寧に話してくれた。
「後もう一つ…これも謝らなくてはいけません…」
「えっ…?」
「俺が何で美奈穂さんに同居を進めたのか…」
やはり同居を進めた理由は存在したのだと思い、美奈穂の胸がチクリと痛んだ。
「俺は元々、大学卒業後は本家で華道をするつもりでいたんです。けど、麗子さんが執拗に追いかけるので、逃げるようにこっちに来たんですが…それでも麗子さんは毎日メールやら電話やらをしてきて…正直困り果てていた時、洋二から適当に彼女でも見繕ったらどうかって言われて…」
それで全てが納得した。自分は麗子を遠ざけるために慶と付き合っていたのだ。だから慶自身は美奈穂に対し何の感情もない。今日までやってきた同居は、ただの恋愛ごっこだったのだと理由がわかった。
「そっか…私って魔除け替わりだったんですね!」
懸命の笑顔を浮かべた。だがその笑顔を浮かべても口元がふるふると小刻みに揺れる。目尻は痙攣し、涙が溜まって行くのがわかる。
(泣くな!)
そう言い聞かせたが、目尻に溜まった涙は満杯となり頬を伝った。
「慶さん…そういうのはちゃんと警察に届けた方がいいですよ。立派な犯罪ですし…それに…」
「美奈穂さん…」
「理由がわかったから…もう同居も…終わりにしましょう…」
これが正しい結末なのだ。
恋はいつか終わりを告げる。それはわかっていたが、こんな形で終わってしまうものかと美奈穂は十年前の事がふと頭によぎった。あの時もそうだった…相手からあっさりと別れを告げられ、結局恋に溺れていたのは自分だけだった。片思いだったのだと…
「私…一つだけ言わなきゃ…慶さんの事、好きでした…」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
【完結】白い結婚ですか? 喜んで!~推し(旦那様の外見)活に忙しいので、旦那様の中身には全く興味がありません!~
猫石
恋愛
「ラテスカ嬢。君には申し訳ないが、私は初恋の人が忘れられない。私が理不尽な要求をしていることはわかっているが、この気持ちに整理がつくまで白い結婚としてほしい。こちらが契約書だ」
「かしこまりました。クフィーダ様。一つだけお願いしてもよろしゅうございますか? 私、推し活がしたいんです! それは許してくださいますね。」
「え?」
「え?」
結婚式の夜。
これが私たち夫婦の最初の会話だった。
⚠️注意書き⚠️
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
☆ゆるっふわっ設定です。
☆小説家のなろう様にも投稿しています
☆3話完結です。(3月9日0時、6時、12時に更新です。)
ワケあり男装令嬢は家督を継いで、死刑執行人になると決めた。
みかん坊や
恋愛
オスカー・アルノルト侯爵と侯爵夫人が暗殺された。
2人のたった一人の愛娘 ラウラ・アルノルトは、齢8歳で天涯孤独となり、アルノルト侯爵の双子の弟 グンター・アルノルト公爵の養女となった。
しかし、双子の兄にずっとコンプレックスを抱いていたアルノルト公爵は、ラウラを使用人同然に扱った。
働けど働けど与えられるご飯は一日一食。服は使用人のお古のお仕着せ。部屋は陽が当たらない物置部屋。
「公爵家に第二皇子との縁談話が来た。しかし私の娘のリアではなく、戸籍上長女である貴様に話が持ち出される可能性が高い。リアとの婚約が上手くいくまで、女である事を隠せ!」
女である事を隠し、挙句の果てにはラウラに相続された侯爵の遺産で、毎夜リアと皇子の婚約パーティーが開かれた。
「あいつら、私が死刑執行人の娘と知った上で父様の遺産で遊んでいるのよね?」
公爵のあまりの傍若無人ぶりに、さすがのラウラも堪忍袋の緒が切れる時が来たらしい。
【完結】旦那様、お飾りですか?
紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。
社交の場では立派な妻であるように、と。
そして家庭では大切にするつもりはないことも。
幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。
そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
あなはにす
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる