花が招く良縁

まぁ

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 家に戻ると、縁側には風香と慶がいた。昨晩の事を思いだした美奈穂はドキッとしたが、慶は何事もなかったかのように「おかえりなさい」と言ってきた。意識しているのはやはり自分だけのようで、相手は気にしてない。むしろ慣れているのだろうかと思ってしまった。
「すぐに夕飯の支度しますね」
 相変わらずの主夫は健在。美奈穂自身もただのじゃれ合いと思う事にして部屋に戻って着替えた。とは言ってもいつも以上に何を話していいのか困ってしまう。食卓テーブルの目の前にいる慶はもくもくと夕食を食しているし、美奈穂はたまに目が合うとドキッとしてすぐ目を反らしてしまう。
 夕食を終え風呂に入ってから部屋でじっとしていようと思ったのだが、事もあろうに慶は出先でケーキを買って来たようで、縁側に座ってケーキを食べながらお茶を飲むという、ここで暮らし始めてからよくあるシュチュエーション。今日ばかりは本当に勘弁してほしいと思った。
 夏の縁側は虫の鳴き声が聞こえ、少し涼しい風がぶら下げてある風鈴を鳴らしている。美奈穂の隣では一日中寝転がっている風香もいる。
 おそらく自分はチョコレートケーキを食べているのだろうが、まったくその味がわからない。何故昨夜の今日で隣に平然と慶が腰を下ろしているのだろうか?ラフなスエットにTシャツ姿の慶だが、やはり手はとても綺麗だ。そして夏だからこそわかる。見た目が細いのはわかるが、二の腕などほどよく筋肉が着いてる。
(たるんでない!)
 自分が情けなくなってくる。ついつい表にため息が漏れてしまった。もちろん慶には丸聞こえだったので、すかさず慶が口を開いた。
「どうかしたました?もしかしてここのケーキ美味しくないですか?」
「いえ、全然!美味しいです!」
 実際は味などわからない。今はそれよりも別の事に意識が集中してしまっている。
「美奈穂さん…昨晩の事、怒ってますか…?」
「へっ?昨晩…」
 昨晩と言われ、慶が言っているのはキスの事だろう。それを思いだした美奈穂は身体中がかぁっと熱を帯びてくるのがわかった。
「べべ…別に!」
「そうですか?なんか顔赤いですけど…」
「なな夏ですからねぇ…あぁ、暑い…」
 本当に熱い!この場から早く退場したい一心で美奈穂はケーキを食べた。
「ホント気にしてないんで!それじゃ片づけてもう寝ますね!」
 一分一秒もこの場にいたくないと思った。正直いろいろと気が気がじゃない。そう思っていたのもつかの間、立ち上がろうとした美奈穂の手を慶が捕まえる。
「慶さん…あのぉ…」
「俺は嫌じゃなかったですよ…むしろ言いましたけど、あの時本当にかわいいと思いましたし…」
「と…年上の女捕まえてかわいいなんて…」
「美奈穂さん…」
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