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慶が京都から帰って来たのは金曜の夕方だった。仕事が終わり家に戻ると慶は夕食の準備をしていた。縁側では風香が眠っている。
「お帰りなさい美奈穂さん」
「ただいまです…」
「そこにお土産買って来てるんでよかったら食べて下さい」
「はーい…」
部屋に戻って荷物を置き、服を着替えようとした時、慶が美奈穂を呼び止めた。
「なんだか顔色悪いですね…風邪ですか?」
「風邪じゃないよ!全然元気です!」
「そうですか?クマも出来てるし…ちゃんと食事と睡眠取ってますか?」
京都から帰って早々主夫を発揮させる慶に本当の事は言えない。この二日あまり衣装作りをしていたので寝不足な事など…むしろ帰ったばかりで慶の方が疲れているのではないかと思ったが、慶は疲れた様子など一つも見せない。
(若さか?若さ故なのか?)
独りごちっていると、急に慶の手が美奈穂の頬に触れてきた。その突然の事に美奈穂は驚いて目を見開く。
「うわぁ!」
「ホントに大丈夫ですか?女性なんですからお肌の事も考えてちゃんと寝ないと」
「わわわ…わかってます!」
至近距離にあった慶の顔。美奈穂は逃げるようにして部屋に戻った。
一体今のは何だったのか?
異性に触れられるなど十年程なかった美奈穂は、あまりの状況に対し処理が追いつかなかった。相手はとても自然かつ普通だったのに、こんな風に動揺するなど…アラサ―女子としてかなり痛い…平常心平常心と、荷物を置き部屋着に着替えた美奈穂は風呂掃除をしに風呂場へと向かった。
季節も春から梅雨に移り変わる。あれから慶は出張などでよくいろんな場所に行く。その間に美奈穂はイベント用の衣装作りなどをしていた。そして慶の家に住む事になった初日に来ていたイベントが本日東京で行われるとあって、前の晩から荷造りなどをしていた。
「それじゃ…明日の夜戻りますので」
「わかりました。それにしても…せっかくの東京ならもう少し滞在したらいいのに…」
「そうもいきませんよ。一応平日に休みとって行くので!」
そう言い、家を出て駅に向かった。東京まではのぞみで約四時間半の長旅。こことは違い大都会なので、本当ならばいろいろな店に行きたい。だが戻って次の日は仕事なので、真っ直ぐイベント会場に行き帰るだけの寂しいプチ旅行だ。
「ホント、東京なんて去年以来だから楽しみだなぁ!」
うきうきと心躍る美奈穂。慶と暮らし初めてからはかなり至れり尽くせりで有意義な生活を送っている。実家にいた時など、家族とそう顔を合わせる事もなかった美奈穂は、毎食時に誰かと一緒に食事をしたり、他愛もない話をしたりなど、実に何年ぶりだろうかと思った。
(これって傍から見たら新婚夫婦みたいなもんよね?)
妄想するのは自由だ。だがこんな穏やかな生活をしていて、いざ出て行かなくなってしまった時、自分はどうなのるのか?と少し不安になってしまった。この同棲生活から恋人昇進など自分の中では夢のまた夢と思っていた美奈穂だが、これまでのやりとりなどを考えて、少しは望みがあるのかもなどと思ってしまう。
(いやぁ…ないない。慶さんにとってこれってボランティアでしょ…)
新幹線の窓から見られる景色など、岡山を通り過ぎる辺りまではトンネルだらけなのだが、美奈穂はずっと窓の外を眺めながらそんな事を考えていた。
そして…自分はそんな高望みをしてはいるが、慶の事が好きなのかどうかと問われたら、わからないとしか答えようがない。嫌いではない。だが決してラブの好きでもないのだと思った。
東京駅に着き、取ってあるホテルがある新宿に向かう。イベントは夕方六時からで新宿のホテルである。それまでの時間を観光に使う事にした美奈穂だが、ふと綺麗に生けられた花が目に留まった。作者は西園寺慶。
「お帰りなさい美奈穂さん」
「ただいまです…」
「そこにお土産買って来てるんでよかったら食べて下さい」
「はーい…」
部屋に戻って荷物を置き、服を着替えようとした時、慶が美奈穂を呼び止めた。
「なんだか顔色悪いですね…風邪ですか?」
「風邪じゃないよ!全然元気です!」
「そうですか?クマも出来てるし…ちゃんと食事と睡眠取ってますか?」
京都から帰って早々主夫を発揮させる慶に本当の事は言えない。この二日あまり衣装作りをしていたので寝不足な事など…むしろ帰ったばかりで慶の方が疲れているのではないかと思ったが、慶は疲れた様子など一つも見せない。
(若さか?若さ故なのか?)
独りごちっていると、急に慶の手が美奈穂の頬に触れてきた。その突然の事に美奈穂は驚いて目を見開く。
「うわぁ!」
「ホントに大丈夫ですか?女性なんですからお肌の事も考えてちゃんと寝ないと」
「わわわ…わかってます!」
至近距離にあった慶の顔。美奈穂は逃げるようにして部屋に戻った。
一体今のは何だったのか?
異性に触れられるなど十年程なかった美奈穂は、あまりの状況に対し処理が追いつかなかった。相手はとても自然かつ普通だったのに、こんな風に動揺するなど…アラサ―女子としてかなり痛い…平常心平常心と、荷物を置き部屋着に着替えた美奈穂は風呂掃除をしに風呂場へと向かった。
季節も春から梅雨に移り変わる。あれから慶は出張などでよくいろんな場所に行く。その間に美奈穂はイベント用の衣装作りなどをしていた。そして慶の家に住む事になった初日に来ていたイベントが本日東京で行われるとあって、前の晩から荷造りなどをしていた。
「それじゃ…明日の夜戻りますので」
「わかりました。それにしても…せっかくの東京ならもう少し滞在したらいいのに…」
「そうもいきませんよ。一応平日に休みとって行くので!」
そう言い、家を出て駅に向かった。東京まではのぞみで約四時間半の長旅。こことは違い大都会なので、本当ならばいろいろな店に行きたい。だが戻って次の日は仕事なので、真っ直ぐイベント会場に行き帰るだけの寂しいプチ旅行だ。
「ホント、東京なんて去年以来だから楽しみだなぁ!」
うきうきと心躍る美奈穂。慶と暮らし初めてからはかなり至れり尽くせりで有意義な生活を送っている。実家にいた時など、家族とそう顔を合わせる事もなかった美奈穂は、毎食時に誰かと一緒に食事をしたり、他愛もない話をしたりなど、実に何年ぶりだろうかと思った。
(これって傍から見たら新婚夫婦みたいなもんよね?)
妄想するのは自由だ。だがこんな穏やかな生活をしていて、いざ出て行かなくなってしまった時、自分はどうなのるのか?と少し不安になってしまった。この同棲生活から恋人昇進など自分の中では夢のまた夢と思っていた美奈穂だが、これまでのやりとりなどを考えて、少しは望みがあるのかもなどと思ってしまう。
(いやぁ…ないない。慶さんにとってこれってボランティアでしょ…)
新幹線の窓から見られる景色など、岡山を通り過ぎる辺りまではトンネルだらけなのだが、美奈穂はずっと窓の外を眺めながらそんな事を考えていた。
そして…自分はそんな高望みをしてはいるが、慶の事が好きなのかどうかと問われたら、わからないとしか答えようがない。嫌いではない。だが決してラブの好きでもないのだと思った。
東京駅に着き、取ってあるホテルがある新宿に向かう。イベントは夕方六時からで新宿のホテルである。それまでの時間を観光に使う事にした美奈穂だが、ふと綺麗に生けられた花が目に留まった。作者は西園寺慶。
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