花が招く良縁

まぁ

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 地方の主な交通手段は自家用車だが、今日はきっとお酒を飲むと思ったので電車で会社に行った。慶が待ち合わせに指定した場所は、この町では名の知れた少しこじゃれたイタリアレストランだった。
「あっ、美奈穂さん!」
 電車とタクシーを乗り継ぎレストランに向かった美奈穂。レストランの前にいた慶は美奈穂を見つけると手を振った。今日は紺のスーツにノーネクタイという長身で細見の彼にはとても似合っていた。
「こんばんは…もしかしてずっと待ってましたか?」
「いや、俺はさっき来たとこですよ。ちょうど東京から帰って荷物置いてすぐだったんで」
 だからスーツなのか…と一人納得した。それにしても目の前のプリンスは衣装一つで様々な見え方がする。そして気品と清楚さ、雰囲気に華がある。店に入ると美奈穂にエスコートしてくれたり、一挙一動が優雅で自分がどこかの国のお姫様になったかのような錯覚を起こしてしまう。
(むしろ男の人ってみんなこうなのかな…?)
 こればかりは大人の恋愛事情を知らない美奈穂には想像でしかものが言えなかった。
 メニューを開き慶が何にしますか?と尋ねてきたので、お任せしますと答えると、慶は店員にコース料理とワインを注文する。しばらくするとワインが運ばれ、店員がグラスにワインを注いでくれた。ワインは白だった。
「女性の人は白の方が好きって聞いた事あったんで白にしましたが、よかったですか?」
「えぇ…大丈夫です」
 ちょっとばかし躊躇したような言い方になったと美奈穂は反省する。実はお酒の部類でもワインは苦手で、飲み会などの席、個人で飲む場合などはもっぱらビールかカクテル、酎ハイなどだった。苦手とは言え、好意を無にしてこのプリンスに恥をかかすわけにもいかない。チリンとグラスを当てグッと白ワインを喉に通す。
「あっ、美味しい…」
 つい本音がボソリと出てしまった。「ん?」と首を傾げた慶に美奈穂は「ここの飲みやすいですね」と知ったかぶりをした。
 食事も運ばれ、食事をしながら美奈穂は慶と話をした。
「そういえば美奈穂さん。あれからいい物件見つかりましたか?」
 よりによってその話題なのかと思ったが、美奈穂の事情を知っているならまずその話題は出るだろう。
「実はまだ見つからなくて…」
「そうなんですかぁ…でも実家暮らしですよね?なんでわざわざ実家を出ようと?」
「独り立ちって…私の歳じゃ遅い気もするんですが、そういう理由と後は両親が今の家を離れたがってるので…」
「へぇ…」
 自分の家の家庭事情を話すのはとても苦手だ。そう思いながらもここまで話したら続きを話さないと不自然だと思い、美奈穂は自分の家について話をした。
「家…持家じゃないんですよ。借家で築何年かわからないくらい古い家で、雨漏りとか酷くて毎年毎年大変なんですよ。それで早く手放してアパートに住むにも、私いたら邪魔なんで…」
「そうですかぁ…すごく失礼かもしれませんが、美奈穂さんっていくつですか?」
「今年二十九です…」
「えっ?全然見えないですね」
 お世辞の常套句だろう。でも結婚もしてない、自由気ままに生きる美奈穂にとって美容維持は欠かせないものだ。実年齢よりも若々しく、かつ嫌味なく大人の雰囲気を…また自身の趣味もあってそういった事にはかなり時間や金を費やす。
「今までそこに住む場所があるって親に甘えてたのもあって…これを機にって言い方はおかしいですが、一人暮らししようかなぁって考えてたんですよ」
 だが現実は甘くなく、今の給料でやりくりするには少し厳しいと考え、安物件を探していのだ。現実話、美奈穂が何かをお金のかかる事を止めれば済む事なのだが…
「だったらホント俺ん家来たらいいですよ」
「でも…っというより、なんで見知らぬ私に住処提供してくれるんです?」
「えっ?」
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