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「それじゃあよろしくお願いします」
「わかりました。それじゃお茶の後にでも行きましょうか」
慶の用意してくれたお茶は渋みも程よい品のあるお茶だった。先ほど買ってきたケーキも出され、美奈穂はお茶とケーキを頂く。途中慶が飼っているという野良猫がやって来た。茶マダラの猫はぶくぶくと丸く、普通の成人猫に比べたらかなり大きい。ちなみに名前は風香と雌らしい。
二人はお茶をしながら他愛のない会話をした。慶は華道を三歳頃からやっていたらしく、華道以外に読書などが好きで、大学は東京の方の文系大学に行ったそうだ。こちらに戻ってく来て父親が癌で闘病し、その後亡くなったので家を継いだそうだ。そんな話を聞いて美奈穂はなんだか自分の人生を話すのがいたたまれなくなった。
美奈穂は小中高と地元で、県内の短大卒業後に中小企業に就職した極々平凡な人生だ。
「それじゃあ美奈穂さんは県外に出た事ないんですね」
「はい…西園寺さんの花やか人生聞いた後なんで、話すのも恥ずかしいのですが…」
「そんな事ないですよ。それに俺、向こうでも親戚の家元で暮らしてましたし。毎日花の修行ばっかでしたよ」
十分エリート街道を歩いていると美奈穂は思った。すると慶がおもむろに時計を見た。時刻は午後三時を過ぎていた。
「そろそろ行かないと遅くなりますね。行きましょうか」
「あっ!もうこんな時間だったんだ!すみません…長々とお邪魔しちゃって…」
「気にしなくてもいいですよ。どうせ今日は来訪予定はないんで」
来訪者とは稽古の御弟子さんだろうか?
それにしてもこんなに広い家に一人と一匹ではとても寂しいなと思ったが、そんな事は口が裂けても言えなかった。
美奈穂と慶が家を出て数分。慶の案内で見つけたアパートを見た美奈穂は絶句してしまった。狙っていた部屋のベランダからは、洗濯物がそよそよと春風に乗せられなびいていたのだ。
「どうやら満室みたいですね…」
「はぁ…何って言うか…タイミング悪いですね…」
こんな事なら下見などせずさっさと押さえておくべきだったと後悔する。また一から探さなくてはいけないと思うと気が重い。美奈穂からしたら、立地条件よりも家賃を優先にしていたので、また同じような条件を見つけるのは骨が折れると思った。
「仕方ない!また探すかぁ…」
ため息交じりに気合いを入れた美奈穂だったが、それを見ていた慶が少し考え込んだ。
「あの…よければ家に来ませんか?家でしたら家賃の心配とかいりませんし。部屋数もかなりあるので…」
「へっ?」
一体何を言っているのだろうかと思った。だが慶は冗談でなく真剣な表情だった。
(何考えてるの?一応…まだ若い部類の女だよ私…)
じとっとした目で慶を見ていると、慶はハッとなって慌てたように訂正した。
「別にやましい事考えてたわけでなく…美奈穂さんが本当に困ってたみたいなので…」
「たしかに…困ってはいますけど…でも…」
若い男の、しかもイケメン華道家の家に住むという事を置いて置いたとしても、家賃の心配がないというのはとてもありがたい事だ。とはいえ美奈穂は女であり、慶の彼女ではない。それを心の中で強く呟く。
「わかりました。それじゃお茶の後にでも行きましょうか」
慶の用意してくれたお茶は渋みも程よい品のあるお茶だった。先ほど買ってきたケーキも出され、美奈穂はお茶とケーキを頂く。途中慶が飼っているという野良猫がやって来た。茶マダラの猫はぶくぶくと丸く、普通の成人猫に比べたらかなり大きい。ちなみに名前は風香と雌らしい。
二人はお茶をしながら他愛のない会話をした。慶は華道を三歳頃からやっていたらしく、華道以外に読書などが好きで、大学は東京の方の文系大学に行ったそうだ。こちらに戻ってく来て父親が癌で闘病し、その後亡くなったので家を継いだそうだ。そんな話を聞いて美奈穂はなんだか自分の人生を話すのがいたたまれなくなった。
美奈穂は小中高と地元で、県内の短大卒業後に中小企業に就職した極々平凡な人生だ。
「それじゃあ美奈穂さんは県外に出た事ないんですね」
「はい…西園寺さんの花やか人生聞いた後なんで、話すのも恥ずかしいのですが…」
「そんな事ないですよ。それに俺、向こうでも親戚の家元で暮らしてましたし。毎日花の修行ばっかでしたよ」
十分エリート街道を歩いていると美奈穂は思った。すると慶がおもむろに時計を見た。時刻は午後三時を過ぎていた。
「そろそろ行かないと遅くなりますね。行きましょうか」
「あっ!もうこんな時間だったんだ!すみません…長々とお邪魔しちゃって…」
「気にしなくてもいいですよ。どうせ今日は来訪予定はないんで」
来訪者とは稽古の御弟子さんだろうか?
それにしてもこんなに広い家に一人と一匹ではとても寂しいなと思ったが、そんな事は口が裂けても言えなかった。
美奈穂と慶が家を出て数分。慶の案内で見つけたアパートを見た美奈穂は絶句してしまった。狙っていた部屋のベランダからは、洗濯物がそよそよと春風に乗せられなびいていたのだ。
「どうやら満室みたいですね…」
「はぁ…何って言うか…タイミング悪いですね…」
こんな事なら下見などせずさっさと押さえておくべきだったと後悔する。また一から探さなくてはいけないと思うと気が重い。美奈穂からしたら、立地条件よりも家賃を優先にしていたので、また同じような条件を見つけるのは骨が折れると思った。
「仕方ない!また探すかぁ…」
ため息交じりに気合いを入れた美奈穂だったが、それを見ていた慶が少し考え込んだ。
「あの…よければ家に来ませんか?家でしたら家賃の心配とかいりませんし。部屋数もかなりあるので…」
「へっ?」
一体何を言っているのだろうかと思った。だが慶は冗談でなく真剣な表情だった。
(何考えてるの?一応…まだ若い部類の女だよ私…)
じとっとした目で慶を見ていると、慶はハッとなって慌てたように訂正した。
「別にやましい事考えてたわけでなく…美奈穂さんが本当に困ってたみたいなので…」
「たしかに…困ってはいますけど…でも…」
若い男の、しかもイケメン華道家の家に住むという事を置いて置いたとしても、家賃の心配がないというのはとてもありがたい事だ。とはいえ美奈穂は女であり、慶の彼女ではない。それを心の中で強く呟く。
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