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「はぁ……」
 昨日のとんでもない計画を聞いた陽菜のメンタルは、翌日の仕事にもちろん支障をきたす。
「ちょっと……昨日の今日で一体何なのよ。仕事なんだからもっとシャキッとしなさい」
「この状況じゃシャキッと出来ないです……」
 陽菜は昨夜アレンから言われた事を澤永に話た。その話を聞いた澤永は「ご愁傷様」と言って憐れんだ表情を浮かべた。
「イギリスの地が最後の晩餐になるのね」
「や、やめて下さいよぉ!本当になりそうで怖いんですから!」
 ヒースルー一族の大半は財閥が管理する企業事業に携わる何かしらの人物達が多いはずだ。つまり世界の名だたる要人各人と相まみえるわけだが。
「なんだか一気に大統領にでもなった気分です……」
「でも相手の規模を考えたら、早かれ遅かれそうはなってたでしょうね。それが早まったって事だし、いい方に捉えたら?」
「そんなもんですかね?」
「悩んでも仕方ないでしょ?何度も言うようだけど、それを理解したうえで彼と結婚するんでしょ?」
「えっと……まぁ……」
 若干濁し気味な陽菜に澤永が不快そうな表情を浮かべる。
「まさか山下さんの実家にまで行ったって言うのに、まだ決心が揺らいでいるの?」
「そうじゃないんですけど……私肝心のプロポーズまだされてないんですよね?」
「はい?」
 アレンからは時期と場所を決めるからもう少し待って欲しいと言われたわけだが、おそらく陽菜の中の戸惑いがぬぐえないのは、するのかしないのかをはっきりしていない為にけじめがつかないのだろう。
「呆れた……あんだけ時間あってまだされてないの?」
「実際にはされてるようなものなんですけど、言葉として聞かないとなんだか実感とか持てなくて……」
「まぁ、一応する為の計画は練ってるんでしょうけど……CEOの事だし、ヘリに乗って空でプロポーズとか、お金払ってスカイツリーの電飾を替えるとか、公衆の面前でみんなに祝福されながらプロポーズっていうお寒い事しそうだけどね」
 言わんとする事がわかるし、実際にそれをしそうで怖い。個人的にはそこまでされたら逆に怖くなって逃げ出してしまいそうだ。
「ふ、普通でいいです……」
「私もそれは思うわ。ありきたりなちょっといいレストランでっていう流れね」
「それがベストですね。後はさりげなくふとした瞬間に「結婚する?」みたいな言い方でもいいかもしれません」
「あなたも結構ドラマ観てるわね」
「そういう澤永さんも……ネタがトレンディドラマみたいですよ」
 未婚二人の持つプロポーズの価値観は主にドラマや漫画などの印象でしかない。とりあえずアレンがどんな事をしようとするのか、ある意味恐ろしいのだが待つことにした。しかしそんな待ち姿勢の陽菜に澤永が物申す。
「何か仕出かす前に、あなたから逆プロポーズでもしたら?」
「えっ?」
「このご時世。男性からとか女性からとか関係ないのだし」
「私から……」
「それともヘリに乗って空でプロポーズされたい?」
「それは勘弁してください!」
 自分からという発想はなかった。確かに澤永の言うように、アレンが何か仕出かす前に手は打った方がいいのかもしれない。
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