モブだった私、今日からヒロインです！

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　荷物を陽菜の実家に置くと、そのまま町内会館に連行されて行った二人。
　二人は近所の人が運転するバンに乗って行くが、ここでもまたアレンは目を丸くしていた。
「軽自動車って初めて乗ったよ！」
　それもそうだろう。いつもは黒塗り高級車だが、そんなものはここにはないし、あったら逆に目立つ。田舎の地に強く愛される車は軽トラックやバンなどの荷物わ運びやすいものだ。
　町内会館では案の定、町内の人達がいて、出前の寿司や地域のおばちゃん達が作った料理で長机が埋め尽くされていた。
「陽菜ちゃんと旦那さんはこっちだよ！」
「ちょ、まだ結婚してないから！」
「どうせするんだから対してかわりゃしないさ！ほら、座って座って」
　陽気なおじちゃん達に指示され座った二人。すると次々とビールが注がれ大宴会状態だ。
　表向きは陽菜帰省にかけて結婚おめでとうなのだろうが、実際はこうして仲間内で集まって騒ぎたいのだ。
「これがジャパニーズスタイル」
　いつもの会食やパーティなどと違う、地域住民によるどんちゃん騒ぎを体験するアレンは、初めこそ目を丸くしていたが、すぐに馴染んで町内の人達と楽しそうに会話をしていた。
「成程。ヒナは近所のハイスクール卒業して東京の大学に……」
「そうそう！こんな田舎から東京の大学なんて珍しいからね。当時は天才の子だと騒いだもんだよ」
　自慢げに語るおばちゃんだが、これまた微妙に違う事になっている。たしかに地元の高校は卒業したが、大学は埼玉の方だ。どうしても関東圏の大学と言うと東大一択になっているようだが、そこまでの頭脳はない。就職先が東京というだけなのだが、きっと言っても理解してくれないだろうから黙っていた。
「小さい頃はやんちゃでね。近所の男の子達をよく尻に敷いていたもんだよ」
「へぇ……」
「ちょっとおばちゃん！余計な事言わないでよ！」
「いいじゃないかい！楽しい思い出なんだし」
　近所付き合いの強い地域故、こうした情報はすぐに流れる。陽菜のあれやこれやが露見されるのも時間の問題だ。
「そういや寅さんはどうしたんだい？」
「よく見りゃいないな」
「どうせまだ拗ねてるんじゃないのかい？」
　一部のおじさん達が騒ぐ、寅さんというのは陽菜の祖父の寅吉の事だ。姿が見えない事に周りも疑問に思ってたそうだが。
「ねえお母さん。おじいちゃんどうしたの？もしかして体調悪いの？」
「いやあ、元気元気。あれは刺しても死なないって言われてるくらいだからね。ただ……陽菜の結婚だけはちょっとね」
「あぁ……」
　母親は濁していたが、陽菜はなんだか納得出来た。祖父寅吉は所謂頑固なお爺さんだ。陽菜が関東方面の大学に行くといった時ですら頑なに反対したくらいだ。
「ただの結婚ならよかったんだろうけど、ほら、お相手の方が外国人の人じゃない。それで頑固発動させて……」
　成程と言った陽菜。陽菜とアレンを祝いたくない寅吉は家にいると行って来なかったそうだ。これは帰ってから荒れるなと思った。
　イギリスでヒースルー一族と対峙する前に、こちらでも大きな壁があったのだ。