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 あすかと別れ、シェリルのマナーレッスンを終えて帰宅した陽菜。こんな一連の行動もまた普通では出来ない事なのだと改めて思った。
「私って知らないうちにセレブに染まってたのね」
 本人だけが気づいていないだけで、周りから見る陽菜は十分セレブなのだ。
「はぁ、なんかそれまで普通と思ってた日常が一気に日常に見えなくなってきた」
 このままアレンと結婚すれば、陽菜の日常はもっと変わる。むしろ本来はイギリスに拠点を置くアレンだ。そうなれば仕事を辞め、国籍もイギリスに移す事になるのではやいか。
「でも結婚するってそういう事よね?」
 日本から離れる。実家を出て親に会うのは年に数回だった事を当たり前に思っていた。だがそれも当たり前ではなくなる。そう簡単に会いに行けないのでは。
 生活拠点が変われば食も何もかもが変わる。それに自分は耐えられるのか。
 これまで思っていなかった事が一気に不安となって爆発している気がした。
「私……本当に結婚するの?」


 あまり気持ちが晴れ晴れとしない中、アレンが陽菜の実家に行くと言い始めた。
「今週末辺り、ヒナのご両親に挨拶行きたいな」
「えっ?えぇ……わかった。連絡しておく」
 ついにこの時が来たのだなと思った。
「ねぇヒナ。なんか最近おかしくない?」
「えっ?そうかな?」
「なんかニューヨークから帰って、心あらずって感じがするんだよね」
 さすがにわかりやすかったのかと反省する。だがこの事をアレンに言ってもいいのかどうかわからない。
「別に何もないよ。まだ疲れが残ってるのかもしれないし」
「そうかな?なんか素っ気無いというか……もしかしてご両親に会わせるの嫌だったりする?」
「そ、そんな事ないよ!うち普通の一般家庭だから、アレンが見たらびっくりするかもよ。とりあえず連絡はしておくから!」
 無理矢理話をしめた陽菜。これではアレンが怪しむはずだ。だがアレンは「わかった」とだけ言った。
「それじゃあ週末楽しみにしているね」
 何かに気がついているだろうけど追求はされなかった。あくまでも陽菜から話すまで待つスタイルだろうなと思った。


 そして気持ちが晴れないまま週末を迎えた。
 陽菜の実家は新幹線と特急を乗り継いで行った場所にある。東京から出て四時間ほどな位置にあり、冬は厳しいが夏は涼しく、避暑地としても有名な場所だ。
「やっぱり新幹線といったら駅弁だよね!」
 いつも通りのアレンは東京駅で駅弁を購入しルンルン気分だ。
 確かに旅の醍醐味と言えば駅弁だが、日本人の感覚ではそれは基本的に買うものの位置付けにあるので、アレンのような反応にはならない。だが外国人のアレンにとって駅弁は斬新な何かだったのだろう。
 アレンが選んだのは季節の野菜をふんだんに使った弁当。一方の陽菜は実家への手土産と、新幹線の中で食べるサンドイッチを買っただけだった。
「ご両親何か言ってた?」
「言ってた言ってた。ビップのおもてなしって何をすればいいのかって困ってたから、普通でいいって言った」
 久々の実家が彼氏紹介となったが、果たしてどうなるのか……陽菜としても緊張する両親が何をするか、未知数な所があった。
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