モブだった私、今日からヒロインです！

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　出張二日目。ニューヨーク支社での手答えはまずまずだったかもしれない。
　基本的には会議を中心にしていたので、社員さんとは一部しか触れ合っていない。
　辿々しい陽菜の事は、アレンやエリックがフォローしてくれるなどで、伊澄だったらまず有り得ないだろうが、アレンは「初めてなんだしこんなものだよ」と教えてくれた。
　さて、本番ニューヨーク。観光やグルメなどする暇などなく、本来の目的でもあるウォーキングレッスンをする為、三日目以降、陽菜はとあるスタジオへやって来ていた。
「Ｎｏ！もっと背筋を伸ばして！下を向かない」
　パンパンと手を叩きながら厳しく指導するのは、この道三十年。ハリウッド女優からパリコレモデルまで、美しい歩きを輩出してきたアシュリー先生。
　レッスンスタジオには軽快な音楽と共に陽菜はほぼ貸し切り状態でのレッスンを受けている。
「ヒナ！背筋！日本人はどうしても背が曲がりやすいのだから、意識して！」
「は、はいぃ……」
　私はパリコレモデルと暗示をする陽菜は、背筋を真っ直ぐに、前を向き美しいと言われるウォーキングをこなしていく。
　これを意識して歩き続けるのはかなり大変だ。腹筋にも力が入るので、ジムに通っていて良かったと、その効果は満更でもないなと思った。
「ヒールを履いた時は膝を曲げない事」
「りょ、了解です！」
　ちなみに現在、八センチ程あるヒールを履いてのウォーキングレッスン中だ。こんなに高いヒールを履いた事ないので、履いて立った瞬間、生まれたての子鹿状態だった。だが八センチなどまだまだ序の口。ハリウッド女優などは平然と十三センチを履いたりするのだとか。
(私は一般人なんだけどぉ……)
　とは口が裂けても言えないので、足に負担を入れないよう意識したりなどして約二時間。みっちり歩き切った時にはヘトヘトだった。


「足痛ーい……疲れたぁ……」
「お疲れ様。結局今日もニューヨークの中を観光できなかったりね」
「そんな余裕ないよ」
　疲れてホテルに帰ってきた陽菜。本当は会食的なものはあったのだが、初日を除きアレンが対応してくれた。
　アレンは陽菜の足や背中をマッサージしている。程よい指圧に陽菜は今にも眠りそうだ。
「よく考えたらアメリカ来てるのにハンバーガーとかピザとか食べてない！でも今そんなの入らない……」
　本当の出張すぎて、現地のグルメ的なものすら食べていない気がした。いつも夕食はホテルレストランだったり、有り合わせのものだったりだ。
「はは、ヒナは相変わらず食いしん坊だなぁ」
「いや、旅行とかその土地に来たらその土地の料理食べたいじゃない」
「そうなのかな？」
「そりゃアレンは慣れてるからあまり意識しないかもだけど、私みたいにあまりあちこち行かないとそうなの」
「成程ね。観光客がイギリス来てフィッシュ&チップスにがっかりしてるのは見たことあるけど」
　基本的に白身魚に味付けなしで衣をつけて揚げるので、特に味にうるさい日本人観光客には衝撃なものだとか。
「いやぁ、イギリス料理ってこっちから見たら衝撃的なもの多いし」
「慣れてるから気がつかないのもあるけど、確かに日本は美味しいがいっぱいだよね」
　そんな話をしつつ、ちゃっかりその後サーロインを食べた陽菜の三日目は終了した。