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 それからしばらく間は笹川なのかサイドからの音沙汰はなかった。
 伊澄から事務所への厳重注意と、これ以上の付き纏いは法的措置を取ると言う旨が相当効いたのだろう。
 笹川なのかの父で、笹川銀行頭取もまた娘の奇行を謝罪して来たので、一旦はこの話題は落ち着いた。
 何もこれ以上はないということで、伊澄からアレンと陽菜の監禁生活も解除され、ようやく自宅に戻る事が出来た。
「久々の我が家!はぁ、懐かしい……」
 寝慣れたベッドにダイブした陽菜。この数日はまるで夢のような暮らしだった。むしろ高級ホテルに連泊などこの先あるわけではない。やはり夢だったのだ。
 現実を受け止めて、今日から庶民生活に戻ろう。そう気合いを入れた陽菜は、部屋が思った以上に片付いているのに気がついた。
「SPさんが掃除してくれていたのかな?有り難いな。今度ちゃんとお礼言っておこう」
 とは言ってもこのSPは基本、アレン(最近ではアンリもだが)を護衛する為の影のような存在で、主人が何か言わない限りは会話すらしない。たまにこのSPは本当に人間なのかと疑うくらいの徹底した人達だ。
「今日はアレンは帰ってこないみたいだから、晩ご飯はカップラーメンでいいかな?」
 この数日はホテル側が提供してくれた体にも良く、胃に満足な料理ばかり食べていたので、カップラーメンのような手軽な物が美味しく感じた。
「そう言えば、アンリはここに戻って来てたんだよね?一人で……」
 もちろんホテルにアンリ用のあてがわれた部屋があるが、アンリは必要以上にそこを使いたがらない。アレンがホテルにいるのでホテルにいるものだと思ったが、プライベートは分けるタイプなのかなとも思った。
 アンリに関しては極度のブラコンである事を除けば一人でわりと何でも熟すし、イギリスから日本に来た際に一緒に来ている彼の秘書ウィードもいるので心配する事は何一つない。
「でも私が見るからに、アレンとアンリじゃアンリの方がしっかりしてるのよね。アレンはどこか抜けてるし……」
 仕事面は言う事なしだが、それ以外はどちらかというとポンコツに近い。
「これがギャップというやつか……」
 萌えの一つはこれかと思いながらも、やはりアレンの肩書きからバックについている物までを考えると、前向きになって好意を受け取れない。それがなければ今ごろは……
 そんな事を考えていると、突然インターホンが鳴った。
「誰だろ?」
 誰と言っても連絡もなしに来るのはアレンかアンリくらいだ。
「ただいまヒナ!」
「アレン?どうして?えっ?今日は仕事でホテルに泊まるはずじゃ?」
「そんなものヒナ会いたさにさっさと終わらせたよ」
 さすが、お見事ですと言いたいところだが、なんだかこうやって連絡なく襲撃してくるのは久々だなと思った。
「はぁ……久々にここでヒナに会える喜び」
「毎日会ってるじゃないですか」
「そうじゃないよ。ここが我が家だと思うとなんだかほっこり」
 またよかわからない事を言い始めたと思いつつ、いつものようにアレンはヒナを抱きしめた。
「わかったから。ここじゃ人目に着くから中に入って」
「えっ?いいの?」
「いいも何も、いつも勝手に入ってくるじゃない」
 そう言うとアレンはニコリと微笑む。なんだかこうして二人でゆっくりするのも久々だなと陽菜は思った。
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