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 翌日の仕事では、澤永の用意した服(ブランドのワンピースにジャケット)と昨夜アレンから貰ったペンダントを着けて出社する。ペンダントに関してはアレンが着けて欲しいとのご要望だ。
「あら、いきなり出来る社員って感じにはなったわね。化粧だけはあまり気に入らないけど」
 陽菜の事を頭の先から足の先まで見た澤永はサクりと言う。化粧は自前のものだ。何故それだけでわかるのだろうかとも思ったが、陽菜からしたらブランドに自分が負けているのはわかっている。
「そのネックレス……」
「あぁこれ、昨日いただいて……」
「あら、金持ちの彼氏がいていいわね。さっそく自慢かしら?」
「いえ、彼氏ではないですから!」
「でもティファニーなんて本気の証じゃない。それにそのネックレス四十万は普通にするわよ」
 その話を聞いて陽菜は身震いがした。それはたしかに一般人からしたら本気の証みたいな値段だ。ブランド自体もそういうブランドだが、アレンからしたら野菜買って来たレベルの感覚だろう。
「えっと……澤永さんは貢いでくれる彼氏さんは……?」
「今はいないわね」
 今はということは、もちろん以前はいたという前提なのだろう。さすがはバリキャリ女子だ。
「まっ、あなたが戦う相手は若くてかわいいが売りのアイドルですからね。年齢は無理でも大人な自分をアピールしてかないと敵わないわよ。まぁ、そんな事しなくてもCEOはあなたを選ぶんでしょうけど」
 つまりこれまでのブランド作戦は笹川なのかと対峙したとき恥ずかしくない恰好というわけだ。所詮若さには敵わないなら、大人の余裕を見せつけろというのが澤永の言い分だ。
「さすがです。でもお金だけで言うなら、澤永さんはアレ……CEOの事は狙わないんですか?」
「お金は好きだけどCEOはさすがにね……規模が大きすぎて私の手には負えないわよ」
 それを言われてしまったら元も子もない。陽菜はまだ受け入れていないとはいえ、受け入れてしまえばヒースルー一族、財閥などと肩書がチラついてしまうのだ。一般人には到底担いきれない。
(な、なんだかアレンを受け入れられない気持ちは何故かって部分がわかってきたかも)
 要はアレンの肩書が陽菜にとっては恐ろしいものなのだ。だから受け入れられない。そう澤永との会話で見つける事が出来て、なんだかすっきりはした。
「さぁ、話は終わりよ。今日もしっかり働いてもらいますからね」
「……はい」
 初めこそは怖い感じの人かと思った澤永だが、案外面倒見も良く、話をするといろいろと話題も豊富で、陽菜の相談にも乗ってくれるいいお姉さん的な人物だ。ただ逆に澤永についてわかった事もある。それはスペックが高い故に同レベルの相手、それ以上を求める傾向と、愛よりお金優先だという事だ。
(金銭感覚のズレさえなければいいんだけどね……)
 一部欠点を除けば、澤永のような人になりたいと陽菜は思ったのは事実だ。


 こうして一日を終え、言われたように本日はアレンと共にホテル十階にあるフレンチのお店にやって来た陽菜は、まず第一声は昨日貰ったペンダントについてだ。
「アレン!このペンダント高いんだけど!」
「あ、今日着けてくれてるんだ。似合ってるよ!」
「そうじゃなくて!お金!」
「お金?そんなの気にしなくていいのに」
 この話をしてもこういう返ししか返ってこないのだが、とりあえず言っておかないとと思った陽菜の努力の訴えはもちろん無駄に終わった。
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