上 下
7 / 85

p6

しおりを挟む
「つ、疲れた……」
 特別編成の秘書課勤務一日目にしてすでに心が折れそうな陽菜は、帰宅した瞬間にベッドへダイブ。
 体力的な疲労ではない。精神的疲労だ。世話人の澤永は優しい口調でかなりキツイことを言ってくる才色兼備だ。
「秘書課として必要なスキルはいくつかありますが、山下さんは英語はもちろん出来ますよね?」
 出来る事前提で話をされたので、「あまり……」と正直に言った。
「では大学の時に第二外国語は何を?」
 いろいろ質問されたが、どれも陽菜のスキルにはないものだ。
「この秘書課にいるのでしたら、英語は出来て当たり前ですよ。後は露、中、仏、西、印辺りも出来る人はここには多いですよ」
 さすが精鋭部隊。陽菜には一つもないものだ。
「まぁ、伊澄室長からはイレギュラーな事があってここへの配属になったと聞きました。出来ないにしても、出来るように努力なさい。特に英語は。ここに来るメールや電話は全て外国語ですよ」
 ひぃ!っとなる陽菜を余所に、澤永は秘書課において必要なスキルなどをズラズラと話した。
「ヒースルーCEOが帰国なさった後も、あなたは秘書課に在籍すると思いますからね。しっかり勉強するように」
 そう言ってわたされた語学系の本から経済誌に至るまで、やっていけるのか不安でしかなかった。
 疲れ果てもう今日はこのまま寝てしまおうかとうとうたしていた時だった。家のチェイムが鳴った。
「誰よ……まったく」
 重たい体を起こし、苛々しながら玄関へと向かった陽菜。いつもなら誰なのか確認して開けるが、疲れのせいかそれを怠りドアを開けてしまった。
「はい……どちらさ……」
「ヒナ!」
 ドアが開くなり陽菜に抱きついてきた痴漢。もといアレンに陽菜は「離れて下さい!」と言った。
「酷いよ!先に帰るなんて……」
「はっ?」
「帰りはシャトーブリアンの美味しいお店でディナーとって、一緒に帰る予定だったのに」
 アレンの勝手な予定には陽菜の予定が一つも擦りもしないのだが、今更言っても通じないのはわかっているのでツッコまない。
「あの、CEO……」
「NO!アレンと言って下さい」
(言えないよ!)
 自社のCEOに対して、しかも今は直属の上司に当たる人物にそんな事できるわけがない。
「とりあえず帰ってくれますか?今日はいろいろあって疲れたので」
「あぁ、ヒナが僕のお世話係なんだよね。いつもは伊澄があれこれ口出しして煩かったけど、これからヒナならとっても嬉しいよ!」
 満面の笑顔でそう言ったアレンの背後から「そこはこれまで通り、私がやります」と聞こえ、伊澄が咳払いをしながら背後から姿を見せる。
「い、伊澄室長!」
「わがままな主が大人しく部屋に入るまで見張っていようとしていたのですが」
 有能すぎる秘書だが、気苦労も絶えないのかな。それとも普段から厳しくしているからストレスにはなってないのか?
「とにかく、今日は澤永さんから厳しくし指導を受けていたでしょうから、山下さんを休ませてあげましょうね。CEO」
「そんな!ヒナ~」
 首根っこを引っ張られ隣の部屋へと連行されたアレン。嵐のようにやって来て、嵐のように去ったアレンを見て、なんだか疲れが増した。
「私も伊澄室長を見習ってあそこまで大きく出た方がいいのかな?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

異世界で出会った美少年が劣化しててがっかりなんですけど ~聖女が舞い戻ったのは20年後の世界でした~

このはなさくや
恋愛
かつて聖女として世界を救ったあかりが再び降り立ったのは、20年後の世界だった。 「え? この人があの天使のような美少年だったアル……? うそでしょう!?」 「なんだこの失礼な女は」 天使のようだった美少年がくたびれきったおっさんに!しかもなんか首に鎖がついてるんですけど! 王子にかけられたのはちょっぴりエッチな呪い。果たして恋愛初心者のあかりが解くことはできるのか。 愛される小動物系主人公のあかりが聖女として過ごす異世界生活。 かるいノリでゆるーくお楽しみ下さい。 ムーンで公開している同タイトルの作品を一部改稿、修正しております。 [注意]タイトルの横にある※は18禁シーンありの表記です。ご注意ください。

結婚三年、私たちは既に離婚していますよ?

杉本凪咲
恋愛
離婚しろとパーティー会場で叫ぶ彼。 しかし私は、既に離婚をしていると言葉を返して……

【R18】悪役令嬢(仮)、豪華な牢屋に監禁される-男性視点-

たかはし
恋愛
意識が浮上すると同時に「婚約破棄だ!」とイケメンに罵られた私は、1時間後には豪華な部屋へと監禁されてしまいました。 窓と唯一の出入り口である扉の前に鉄格子の柵があるけど豪華は豪華な部屋ではある…。でも明らかにここ牢屋じゃない?! その上、王弟殿下がハイドワーフの姫である私は秘宝のありかを知ってるはずだから、それの在処を話すまで監禁しておきますねって微笑まれてしまって?! …は?そんなの知らないんですけど! ・性行為をする話には#がついています 【R18】悪役令嬢(仮)、豪華な牢屋に監禁されるhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/205245899/756335882 の男性視点のお話になります こっちの方がR18要素が多いかも…? 第13回恋愛小説大賞に参加しています。よろしくお願いします。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

【R18・完結】お飾りの妻なんて冗談じゃありません! 〜婚約破棄するためなら手段を選びません〜

野地マルテ
恋愛
王城で侍女として働くマイヤは幸せの絶頂だった。王立騎士団軍部司令官リュボフとの結婚が決まり、「あの王立騎士団のエリート騎士の妻になれる」と彼女は毎日浮かれていたのだが、ある日婚約者であるリュボフの秘密を知ってしまい、不幸のどん底に突き落とされる。 リュボフはなんと自身の副官(男)と密かに交際していたのだ。彼は部下とデキていることを周囲に隠すため、マイヤとの結婚を望んでいた。 お飾りの妻になど絶対になりたくないマイヤは婚約破棄しようとしたが、リュボフは取り合わない。困り果てたマイヤはなけなしの貯金をかき集め、特務部隊の戸を叩いた。 王立騎士団特務部隊は、金さえ払えばどのような汚れ仕事でも行うと別の意味で評判の部隊。マイヤは特務部隊の力を借りてなんとかリュボフと婚約破棄しようとするが、マイヤの依頼を引き受けた特務部隊伍長レジナンドは、いかにも遊び人風のチャラついた男だった。 ◆R18回には※あり。ほぼR18回です。 ◆一応ハッピーエンドですが、ありとあらゆる性的な表現が詰めに詰められています。エロければ何でも許せる方向け。ノーマルな性表現しか読めない方はご注意ください。

【完結】私を虐げた継母と義妹のために、素敵なドレスにして差し上げました

紫崎 藍華
恋愛
キャロラインは継母のバーバラと義妹のドーラから虐げられ使用人のように働かされていた。 王宮で舞踏会が開催されることになってもキャロラインにはドレスもなく参加できるはずもない。 しかも人手不足から舞踏会ではメイドとして働くことになり、ドーラはそれを嘲笑った。 そして舞踏会は始まった。 キャロラインは仕返しのチャンスを逃さない。

処理中です...