一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十二章

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「とにかく面倒事に巻き込まれたとはいえ、我が家を開ける事の宣言と、貴方に対する恨み言を言いに来た次第です。それでは失礼を」
 普通の者ならば一礼をして去って行くのだが、星蘭はそんな事をしない。自分が仕えるべき相手ならば自然とそのこうべを下げる。それが星蘭の信念だ。相変わらずな星蘭を見て、まだ自分は認めるには程遠い存在なのだと思った。だが今回の事に関しては感謝しなくてはいけない。
「感謝する。星蘭殿」


 そして莉春が出立する日。動きやすい服装に着替えた莉春は、まだ眠る我が子の元に行き、その頬を撫でた。
「莉春様。本当によろしかったのですか?」
「誰かがしなくちゃいけないなら、私がするわ。ここで待っているだけなんて私の性分には合わないもの」
 これが今生の別れというわけではない。必ず戻る。そしてこの手で再び炎珠を抱きしめるまで、莉春は死ぬわけにはいかないと思った。
「風華。この子の事よろしくね」
「承知致しました」
 聞き分けのいい炎珠だが、さすがに母の不在が続けば不安になるだろう。風華にも呉太妃にも迷惑がかかるかもしれないが、それでも莉春はこの子の未来の為にも行かなくてはいけない。
 立ち上がった莉春は名残惜しむように炎珠の眠る寝台を後にした。


「莉春」
「主上……必ず戻ってきます」
「あぁ、朗報を待っている。星永。莉春を守って、必ず国に戻って来てくれ」
「承知致しました」
 見送りは盈月だけだった。だがそれでいい。多ければ莉春の事を伏せている意味がない。
 馬に乗った莉春は盈月を見つめた。盈月もまた莉春を見つめていた。これまでの数年共に連れ添った夫婦だ。少しでも離れる事への不安はもちろんあったが、それ以上にお互いの健闘を祈る事しか出来なかった。それが牽いては国の為になるならと、二人は理解していた。
「それじゃ行ってくるわ」
「あぁ……」
 二人の乗った馬は次第に盈月には見えなくなった。どうか無事で。それをどこにいるのかわからない神へと願った。

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