一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十二章

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 そのしらせが冠耀の元に届いたのは、夜も更けた頃だった。
「星永……それはそなたの意志で決めた事だな?」
 膝をつく星永は、冠耀に「はい、私の意志です」と伝えた。その腰には一本の剣が帯刀されている。一介の官吏が持つには似つかわしくないそれを見て、仁夢殿の大官達は何事かと思い、星永を仁夢殿に入れようとはしなかった。だが少しして周将軍からの文が届き、星永は中に入る事を許された。
 そこに書かれていたのは「李星永を禁軍へ推挙する」という文字だった。そして星永の出で立ち一致した所を見れば、星永は軍に入隊する事を望んだのだ。
「では何故禁軍の門を叩いたのだ?」
「私にも守りたいものがあるからです。しかし今のままでは何も守る事は叶わず。確かに私の父は先帝の御許で有能な官吏としていたかもしれません。しかし私はどの門下にもおらずそれ以上を望んでも叶わぬと判断した次第です」
「せっかく父親と同じ志で入殿したのに、それを捨てていいと申すのか?」
「構いません。私以上に有能な者など沢山います。ならば私は私に出来る最大の地位を望みます」
「その先でそなたが見据えるものは何だ?」
「主上の栄華と、この国の繁栄」
 その目に迷いはなかった。そして冠耀も、星永の意志と周将軍の推挙があるならばもう何も言わなかった。
「周将軍から得た一本を持って、そなたを禁軍中将軍に任ずる。してそなたの守りたいものの一つは何だ?」
「楊夫人が水の都に出立すると聞きました。その護衛の任。私にお任せしていただけないでしょうか?」
 星永の言葉に冠耀は眉をしかめる。確かに星永には莉春の護衛も任せていた。だがここまでの忠誠心を出す理由は何か。その腹を探りたいと冠耀は思った。
「確かに我はそなたに莉春の護衛を頼んだ。だがそれはあくまでもこの後宮にいる間だけの事。それに他国へ行くのならそなたではなくもっと戦地に慣れた者を推挙する。そこまでして莉春を守る理由は何だ?」
「貴方の妻だからです」
「どういう意味だ?」
「私の父は先帝と主上に見切りをつけこの城を去りました。ですが私は貴方自身に賭ける願いと共に、楊夫人の女子ならざる行動と意志に感銘を受けました。ですから貴方と楊夫人を守り、そしてその先を見届けたいと思いました」
 これから起こる苦難。それをこの皇帝がどこまで回避するのか。それとも手が打てず逃げ出すか。それを見届けたかった。そして冠耀を陰ながら支える莉春の冠耀に対する深い愛。それを目の当たりにして星永自身も考えさせられた。
「成程な。そなたは我にとって最も信頼に値するかどうか。よかろう。そなたに莉春の護衛を任せる」
「了解致しました」
「だが一つだけ言っておく。莉春は我の嫁だ。それだけは忘れるでない」
「はい、もちろんです」


 花街「桜楼街おうろうがい」にある一軒の奥座敷で、周将軍は女と共に酒を呑んでいた。
「まったく……この場に私を呼び寄せるなど、一体何の用ですか?」
「おう、やっと来たか」
 杯を卓に置いた周将軍は、側で酌をしていた女を下がらせ、やって来た人物と二人だけにした。やって来た人物は嫌々といった感じで向かいの席に座る。
「ま、酒でも呑めよ」
「結構です。それより話を聞かせてもらいましょうか?」
「本当にお堅い頭は昔のまんまだな。星蘭」
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