73 / 105
第十章
2
しおりを挟む
「主上。この子に名を与えて下さい」
泣き叫ぶ我が子を抱き上げ、盈月はしっかりと二人の血を引いているなと思った。
まだ産毛程度の髪は皇族の特徴でもある銀もしくは白。顔はどちらかというと莉春に似ている。
「そうだな。この子の名は炎珠だ。朱く燃え盛るような美しい紅玉がこの世には存在する。炎珠はそんな美しく育ってくれるだろう」
炎珠と名付けられた我が子を抱える盈月を見ながら、莉春は炎珠の名を口にした。
炎珠出生後、炎珠はすくすくと育っている。後遺症等を心配された莉春も、今のところは健康に問題はない。
住まいも旭庄宮へと戻り、日々育児に追われる日々を送っている。
盈月自身も何の変わりもない日々を送る中で、一つの変化が生まれてはいた。それは今年官吏として入殿した李星永の存在だ。
星永はその昔、敏腕吏部尚書として活躍していた李星蘭の息子である。母親は盈月の母親の妹でもあり、親戚にもあたる。
また、本人は隠していたのだろうが、その髪は皇族の特徴でもある銀。しかも名も李性なので、古株官吏達にはすぐ知れた。母親譲りの美しい容貌、だがその中に男らしさもあり、父親譲りの知性に丈夫な体躯。女宮達が騒がしかったのはいうまでもない。
「あれでいて文武両道とは出来た人物だ」
一度同じ時期に入殿した兵士と剣を交わしているのを見たが、その剣も見事なものだった。
「これで息子の方にも見限られたら大変ですね」
そう言ったのは丞黄だ。確かに二代にわたり盈月の元から離れれば周りも盈月の事を見限るだろう。
「官吏としての星永もいいが、禁軍に置いてもまたいいだろうな」
「と、言いますと?」
「禁軍将軍から星永を寄越せとの文を貰った」
「彼の者は大変有能なようですね」
皇帝直属の配下でもある禁軍の、しかも将軍からの誘いだ。余程の手前である。どちらに身を置いも申し分ないが、どちらかに置くのも惜しい存在だ。
「我も一度手合わせしてみたいな。最近はずっと卓上での政務ばかりだ」
「でしたらそのように計らいましょう」
毎日上がる奏上も多く、それらに目を通すだけでも大変だ。運動らしい運動は仁夢殿や後宮の往復くらいだ。
「これを終わらせて莉春の元は向かうか」
炎珠が産まれて以来、盈月は今まで以上に莉春の元は足を運んだ。だがそれが他の妃嬪達の反感を買っているのは言うまでもない。特にここ数年は大人しくしていた偉蓮華は、黙っていただけで、その怒りと反感は他の妃嬪の比ではなかった。
泣き叫ぶ我が子を抱き上げ、盈月はしっかりと二人の血を引いているなと思った。
まだ産毛程度の髪は皇族の特徴でもある銀もしくは白。顔はどちらかというと莉春に似ている。
「そうだな。この子の名は炎珠だ。朱く燃え盛るような美しい紅玉がこの世には存在する。炎珠はそんな美しく育ってくれるだろう」
炎珠と名付けられた我が子を抱える盈月を見ながら、莉春は炎珠の名を口にした。
炎珠出生後、炎珠はすくすくと育っている。後遺症等を心配された莉春も、今のところは健康に問題はない。
住まいも旭庄宮へと戻り、日々育児に追われる日々を送っている。
盈月自身も何の変わりもない日々を送る中で、一つの変化が生まれてはいた。それは今年官吏として入殿した李星永の存在だ。
星永はその昔、敏腕吏部尚書として活躍していた李星蘭の息子である。母親は盈月の母親の妹でもあり、親戚にもあたる。
また、本人は隠していたのだろうが、その髪は皇族の特徴でもある銀。しかも名も李性なので、古株官吏達にはすぐ知れた。母親譲りの美しい容貌、だがその中に男らしさもあり、父親譲りの知性に丈夫な体躯。女宮達が騒がしかったのはいうまでもない。
「あれでいて文武両道とは出来た人物だ」
一度同じ時期に入殿した兵士と剣を交わしているのを見たが、その剣も見事なものだった。
「これで息子の方にも見限られたら大変ですね」
そう言ったのは丞黄だ。確かに二代にわたり盈月の元から離れれば周りも盈月の事を見限るだろう。
「官吏としての星永もいいが、禁軍に置いてもまたいいだろうな」
「と、言いますと?」
「禁軍将軍から星永を寄越せとの文を貰った」
「彼の者は大変有能なようですね」
皇帝直属の配下でもある禁軍の、しかも将軍からの誘いだ。余程の手前である。どちらに身を置いも申し分ないが、どちらかに置くのも惜しい存在だ。
「我も一度手合わせしてみたいな。最近はずっと卓上での政務ばかりだ」
「でしたらそのように計らいましょう」
毎日上がる奏上も多く、それらに目を通すだけでも大変だ。運動らしい運動は仁夢殿や後宮の往復くらいだ。
「これを終わらせて莉春の元は向かうか」
炎珠が産まれて以来、盈月は今まで以上に莉春の元は足を運んだ。だがそれが他の妃嬪達の反感を買っているのは言うまでもない。特にここ数年は大人しくしていた偉蓮華は、黙っていただけで、その怒りと反感は他の妃嬪の比ではなかった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる