一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十章

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「主上。この子に名を与えて下さい」
 泣き叫ぶ我が子を抱き上げ、盈月はしっかりと二人の血を引いているなと思った。
 まだ産毛程度の髪は皇族の特徴でもある銀もしくは白。顔はどちらかというと莉春に似ている。
「そうだな。この子の名は炎珠えんじゅだ。朱く燃え盛るような美しい紅玉がこの世には存在する。炎珠はそんな美しく育ってくれるだろう」
 炎珠と名付けられた我が子を抱える盈月を見ながら、莉春は炎珠の名を口にした。


 炎珠出生後、炎珠はすくすくと育っている。後遺症等を心配された莉春も、今のところは健康に問題はない。
 住まいも旭庄宮きょくしょうきゅうへと戻り、日々育児に追われる日々を送っている。
 盈月自身も何の変わりもない日々を送る中で、一つの変化が生まれてはいた。それは今年官吏として入殿した李星永の存在だ。
 星永はその昔、敏腕吏部尚書として活躍していた李星蘭りせいらんの息子である。母親は盈月の母親の妹でもあり、親戚にもあたる。
 また、本人は隠していたのだろうが、その髪は皇族の特徴でもある銀。しかも名も李性なので、古株官吏達にはすぐ知れた。母親譲りの美しい容貌、だがその中に男らしさもあり、父親譲りの知性に丈夫な体躯。女宮達が騒がしかったのはいうまでもない。
「あれでいて文武両道とは出来た人物だ」
 一度同じ時期に入殿した兵士と剣を交わしているのを見たが、その剣も見事なものだった。
「これで息子の方にも見限られたら大変ですね」
 そう言ったのは丞黄だ。確かに二代にわたり盈月の元から離れれば周りも盈月の事を見限るだろう。
「官吏としての星永もいいが、禁軍に置いてもまたいいだろうな」
「と、言いますと?」
「禁軍将軍から星永を寄越せとの文を貰った」
「彼の者は大変有能なようですね」
 皇帝直属の配下でもある禁軍の、しかも将軍からの誘いだ。余程の手前である。どちらに身を置いも申し分ないが、どちらかに置くのも惜しい存在だ。
「我も一度手合わせしてみたいな。最近はずっと卓上での政務ばかりだ」
「でしたらそのように計らいましょう」
 毎日上がる奏上も多く、それらに目を通すだけでも大変だ。運動らしい運動は仁夢殿や後宮の往復くらいだ。
「これを終わらせて莉春の元は向かうか」
 炎珠が産まれて以来、盈月は今まで以上に莉春の元は足を運んだ。だがそれが他の妃嬪ひひん達の反感を買っているのは言うまでもない。特にここ数年は大人しくしていた偉蓮華いれんかは、黙っていただけで、その怒りと反感は他の妃嬪の比ではなかった。
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