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第八章
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「その件については盧眞房でお聞きします」
そう言ってざわつく朝義を無理矢理に終わらせた冠燿は、呉太妃を盧眞房へと招いた。
「叔母上。いきなり朝義の場であのような発言は官吏達を惑わせます。今後はお控えいただきたい」
「これより先、あの場に行く事も、公の面前に出る事もないでしょう。ですがこれで楊莉春の封号には誰も何も言えなくなったはずです」
「それはそうですが……」
むしろそれを狙っての行動なのだろう。これが皇后の候鄭妃だったとしたらあまり効果ないだろう。太妃であり今まで影の存在として表に出なかった人物だ。その効果は絶大である。
「ですが楊莉春のみに封号を与えては少々分が悪いのは確かです」
「ですね。莉春は名家でもない。普通の者です」
「楊莉春と数名に封号を与えなさい。そうすれば少しは周りの目から楊莉春を放す程度にはなるでしょう。貴方が楊莉春以外にも愛を捧いでいるとね」
莉春以外の数名は冠燿に任せると呉太妃は言う。だが、「候徳華は入れてはいけません」と言う。
「あの者は候家。同じ序列に候家は二人もいては後々貴方が大変なだけです。それと楊莉春を守りたいならば、今後も満遍ない寵愛を他にも与えなさい」
莉春の為を思うならばという言葉は聞き飽きるほど聞いてきた。皆が言わんとする事の理解は出来る。そうしなければいけない事も。
「貴方は民ではないのです。一人だけを愛せば国は滅ぶ。そして貴方自身母親と同じ過ちを犯さぬようにね」
母はひたすらに父を愛した。自らの命を断つほどに。
「どうして貴女はそこまでして下さるのです?」
「この国の為です。上紀皇帝が守り抜いたこの国を貴方の代で滅ぼさない為に……」
子の成せぬ体となっても尚、皇后とし後宮を取り仕切り、劉紀清を支え続けた。後宮に渦巻く寵愛争いにいる女達よりも深い愛を紀清に捧げていた呉太妃。彼女を尼寺に送る事なくこの城に留まらせたのは紀清だ。どうして留まらせたのか、なんとなく理由がわかった気がした。
「それと貴方自身の味方を作りなさい」
「はい?」
「後宮の者ではありません。朝廷にです。承大師は貴方の味方ではあります。ですがもう良い歳です。それに大師は上紀皇帝の側にいた者。そうではなく、貴方自身の助けとなる者を見つけなさい。言いたい事はそれだけです」
そう簡単に言うと呉太妃は盧眞房を後にした。
色々言われはしたが、莉春に封号を与える道筋は出来た。むしろここで与えないと呉太妃の面子が立たない。
莉春自身が冠燿に封号を迫った事はない。だが面識のないはずの呉太妃がいきなり告げたと言う事は、莉春自身呉太妃と会っており、地位を望んだのだろう。
「どうしてなのだ?」
その意味を理解するには、直接莉春に聞くしかないと思った。だがまずは莉春含め、封号を与える者を選定しなくてはいけない。
そう言ってざわつく朝義を無理矢理に終わらせた冠燿は、呉太妃を盧眞房へと招いた。
「叔母上。いきなり朝義の場であのような発言は官吏達を惑わせます。今後はお控えいただきたい」
「これより先、あの場に行く事も、公の面前に出る事もないでしょう。ですがこれで楊莉春の封号には誰も何も言えなくなったはずです」
「それはそうですが……」
むしろそれを狙っての行動なのだろう。これが皇后の候鄭妃だったとしたらあまり効果ないだろう。太妃であり今まで影の存在として表に出なかった人物だ。その効果は絶大である。
「ですが楊莉春のみに封号を与えては少々分が悪いのは確かです」
「ですね。莉春は名家でもない。普通の者です」
「楊莉春と数名に封号を与えなさい。そうすれば少しは周りの目から楊莉春を放す程度にはなるでしょう。貴方が楊莉春以外にも愛を捧いでいるとね」
莉春以外の数名は冠燿に任せると呉太妃は言う。だが、「候徳華は入れてはいけません」と言う。
「あの者は候家。同じ序列に候家は二人もいては後々貴方が大変なだけです。それと楊莉春を守りたいならば、今後も満遍ない寵愛を他にも与えなさい」
莉春の為を思うならばという言葉は聞き飽きるほど聞いてきた。皆が言わんとする事の理解は出来る。そうしなければいけない事も。
「貴方は民ではないのです。一人だけを愛せば国は滅ぶ。そして貴方自身母親と同じ過ちを犯さぬようにね」
母はひたすらに父を愛した。自らの命を断つほどに。
「どうして貴女はそこまでして下さるのです?」
「この国の為です。上紀皇帝が守り抜いたこの国を貴方の代で滅ぼさない為に……」
子の成せぬ体となっても尚、皇后とし後宮を取り仕切り、劉紀清を支え続けた。後宮に渦巻く寵愛争いにいる女達よりも深い愛を紀清に捧げていた呉太妃。彼女を尼寺に送る事なくこの城に留まらせたのは紀清だ。どうして留まらせたのか、なんとなく理由がわかった気がした。
「それと貴方自身の味方を作りなさい」
「はい?」
「後宮の者ではありません。朝廷にです。承大師は貴方の味方ではあります。ですがもう良い歳です。それに大師は上紀皇帝の側にいた者。そうではなく、貴方自身の助けとなる者を見つけなさい。言いたい事はそれだけです」
そう簡単に言うと呉太妃は盧眞房を後にした。
色々言われはしたが、莉春に封号を与える道筋は出来た。むしろここで与えないと呉太妃の面子が立たない。
莉春自身が冠燿に封号を迫った事はない。だが面識のないはずの呉太妃がいきなり告げたと言う事は、莉春自身呉太妃と会っており、地位を望んだのだろう。
「どうしてなのだ?」
その意味を理解するには、直接莉春に聞くしかないと思った。だがまずは莉春含め、封号を与える者を選定しなくてはいけない。
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