一輪の白百合をあなたへ

まぁ

文字の大きさ
上 下
60 / 105
第八章

5

しおりを挟む
「良い事?これは子を授かりやすくする薬湯です。これを呑んで絶対に主上の子を成すのです」
 照景宮では今宵、冠燿を迎えての酒宴を行う。その前に呼ばれた徳華は、叔母である鄭妃から器を渡された。とても苦味のある臭いが鼻を刺激した。
「確かに主上の子を成したいですが、どうしてそう急くのですか?」
「こうでもしなくては貴女には勝機がないから」
 それは今の寵愛の全てを莉春が得ているからだろう。だが寵愛というのは一時的なもの。いつかは飽きられる。そう徳華は思っていた。だが……
「もし主上が楊莉春を手放さない場合、どうするの?貴女は寵愛を得る権利を失う。せっかく候家の者としてここへ来たのに、貴女は候家の顔に泥を塗るつもり?」
「叔母様!そんな事はありません!私は主上の為、そして候家の為にここにいるのです」
「なら必ず今日、主上の子を成すのです」
 子を成す。まるで呪いのようなその言葉は、今の徳華にとってどんな言葉よりも魅力的だった。
「私は主上の子を成す……」
 その気概で徳華は薬湯を呑み干した。そして鄭妃に子を成すと約束し、酒宴の席に着いた。


「候鄭妃はどうやら楊莉春に恐れをなして自分の姪を使って主上の子を成そうと必死みたいね」
 玉聖宮ぎょくせいきゅうで侍女に足を叩いてもらっている偉蓮華はそう呟いた。
「蓮華様。ですが例え候徳華が寵愛を得たとしてもそれは一時の事。主上の御心は楊莉春にしかありません」
 その言葉に激昂した蓮華は侍女の頬を叩いた。侍女は頭を床に付けた。
「申し訳ありません!申し訳ありません!失言をしました。どうぞ私に罰をお与え下さい!」
「私の前で二度とそのようなことを言うのは許さないわ!けど……楊莉春の存在は確かに目障りね」
 このまま寵愛を得続ければ、いずれは夫人の座も得るだろう。そして子を成せばその地位は確固たるものとなる。
「蓮華様。後宮には暗黙の了解があります。寵愛を一人だけが得れば国は滅ぶと」
「そうね。その伝説もまた然り。この局地をどうすべきか、私自身も考えなくてはならないようね」
 暗躍する蓮華もまた内心焦りがあった。自分の隣に第三夫人として莉春が座れば、皇帝が向ける寵愛がさらに遠くなる。そうならない為にも自身にも協力な手駒が欲しいと思った。


 盈月が莉春を召さなかった夜の翌日、徳華は満面の笑みで帰ってきた。その様子を見てどうやら願いを遂げたのだと理解した。
 ここはそういう場所。自分一人に寵愛が向かう事はない。皆長く寵愛を得ようとしているのだ。その体験を莉春もしている最中だ。
「達観した気持ちでいれると思ったけど……」
 莉春も普通の女子おなごだったというわけだ。それに莉春は若い。まだまだ恋の駆け引きを知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

処理中です...