一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第七章

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「勿論。それが難しい事くらいわかるわ。けどあなた。もう後宮にいるのは限界なんじゃない。なら主上に言って出してもらえば……」
「そんな事出来ない。そうすれば確かに楽なのはわかる。けどそうしたら主上はまたあの城の中で一人になるわ」
「ならあなたは後宮にいる意味を考えなくてはいけないわ……」
 わかっている。後宮がどういう場所なのかも。このまま自分がいたとしても寵愛をいつ受けられるのかすらわからず、不安な夜を過ごす。それは他の才人達も同じ。自分一人ではない。そう問答する莉春を見て朱里はため息を漏らした。
「変わったわね……」
「えっ?」
「出会った頃のあなたはお転婆で、何事にも果敢に挑んでいたわ。でも今のあなたは後宮という場所の女達に押されて虫の息。前のあなたならそれでも立ち向かっていたと思うけど?」
「私ってそんな感じだったの?」
「そうよ。もっと前向きだった」
 ここに来てから後宮入りするまでの間、自分はそんなにも変わってしまったのだと思い知らされる。だが莉春の中では何か踏ん切りがついた気もした。
 戦わなくては生きていけない。それが後宮なのだと思い出す。
「ありがとう。なんだか気分が良くなった」
「そう。それはよかったわ」
「ね、ねぇ……またここに来てもいい?」
 困った時に来てもいいかと尋ねると、朱里は首を横に振った。
「駄目よ。私とあなたはもう立場も違う。ここには二度と来ては駄目よ。そして今夜を最後に、私達はもう会う事はないわ」
「そんな……」
「戻ったら主上に奏上なさい。ここと城を繋ぐ道を塞ぐ事を」
「でもそんな事をしたら主上は……」
「だからよ。城と紫水殿が混在していたらまたいつ同じことが起こるか。元々ここは男子禁制なのよ。忘れてるかもしれないけど」
 もちろん忘れてはいない。だが朱里は規律をちゃんと守る事は大事だと言った。盈月自身にもけじめは必要なのだと朱里は言っている。相変わらず朱里はお姉さんらしい性格だなと思った。
「わかった。道を塞ぐことを主上に奏上するわ。それに……朱里に会えなくなるのはとても辛いけど、仕方ない事だと受け入れるわ」
「そうね。もう会う事はないだろうけど、元気で、あなたらしく生きなさい」
 それだけを言い、朱里は莉春を再び城へと通じる道に送り届けた。


「莉春。あなた昨日は随分と遅くまで出ていたようね」
 翌朝になり徳華にそう言われた莉春は、卓の上で筆を執っていた。
「うん。なかなか眠れなくてね」
「何を書いてるの?」
「後宮の奥に紫水殿と通じる道があるのだけど、それを塞ぐよう主上に奏上するつもり」
 一才人の奏上などを受け入れてくれるかはわからない。それにそこは盈月にとっても馴染みある道でもある。それをどう受け入れるかは盈月次第だ。
「よし!これ出してくるわね」
 そう言って葉旬宮を出た莉春は、蘆眞房へと向かう道すがら、この後宮にあるものを一つ一つ見つめた。
 皇帝に召され気に入られ、住まいを与えられ、封号を与えられ、子を成して初めてここに住む事の安泰を見いだせる。ここにいて寵愛と子を成せない女は生きる意味すらない。そういう場所なのだ。
「そうね……昔のお転婆だった私を思い出さないと。まずは第三夫人の席。そこを目指さないと」
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