一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第三章

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 盈月と会う日まで、莉春は下働きと採用試験の訓練を行う。学科面を陵妓が教え、姿勢や所作といった事は妓楼ぎろう揚羽あげはから習う。そんな一週間はあっという間で、今日はついに盈月と約束した日となった。
 いつものように水汲みをしに井戸まで行く。水を井戸から汲みながら、莉春は盈月が来るのを待った。
 しかし盈月は姿を見せなかった。
 きっと盈月は忙しいのだろう。そう莉春は思う事にしたが、翌週になっても姿を見せない。そうこうしているとついに女官採用試験の日になってしまった。
 あまり盈月の事は頭に入れないようにし、今は試験の事だけを考える事にした。
「この紫水殿の女官採用試験へようこそ」
 試験官を務めるのは女官長の景美けいびだ。
「みなさんの努力によって採用されれば、晴れてこの紫水殿の女官となります。しっかり頑張るように」
 大広間には計二十名程の若い娘がいた。どの女子も気品ある感じだ。これは相当の努力をしなくてはいけないと思った。
「それではまずは学科です。紫水殿のみならず世界の秩序、国の成り立ちについてです」
 配られた紙を見て、いくつかの問題はあるが、それらの多くは答えを求めるものではなかった。その場合、あなたならどうするか、どう思うかといった問いばかりだ。
 莉春は自分の考えを紙にしたためる。そしてその後は所作などだ。これは揚羽仕込みなので自身がある。というよりは自身を持つしかない。
 それら全てを終えた時には、自然と大きなため息が漏れた。
「はぁ……予想以上の苦労だわ」
 後は神頼みだ。どうか合格しますようにと、どこの誰かもわからない神に祈った。


 女官採用試験のあった日の深夜遅く、景美の元には冠耀がやってきていた。
「それで?莉春はどうであった?」
「あらまぁ、それを確かめる為にここへ来たのですか?」
 粗茶を出しながら景美はため息を漏らす。そして学科の答案用紙を冠耀に差し出した。
「これがあの子の答えですよ」
「ふむ……やはりなかなかに面白い娘だな」
 莉春の答えた答案を見て冠耀は微笑を浮かべる。
 国とはどうあるべきか。その問いに他の者は皇帝の才を持ってなどとそれらしい事を書いてあったが、莉春だけは違った。
『そんなものは私達が考えるべき内容ではない』
 とても独創的ではあるが、本来このような事を書けば不合格になるだろう。莉春とて不合格になる為にそのような事を書いたのではないだろうが。
「景美ならこれをどうとらえる?」
「生意気な事を言う娘。そしてそれは皇帝陛下を否定する事ぞ……と私なら思いますね」
「だろうな。本来ならそう思うだろう。だが我はこの答えを気に入った」
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