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第三話

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「ちなみに南のオスシリア。ここは昔から王政で、差別や身分制度が強く根付いてる国だよ。同じ人間であっても奴隷制度もある。ホント時代錯誤だよね」
 なんとなくこういう国はどの物語の世界にもあるのだなと真樹は思った。だが今はオルティナの街へ行く事が目標だ。おそらく他国に行く事はないだろう。
「真樹。オルティナの街には変わったお菓子なんかもありますよ」
「そうなの?」
「はい。ファーレン国のように他国からの輸入があるわけではありませんが、他国から伝来してきたものなどもありますよ」
 そう言ってニコリと微笑んだリスティアムに、真樹は目を輝かせる。きっとファーレン国が治るこの辺りの地域はとても平和な所なのだろう。そう考えると真樹もカイもいい所に召喚されたものだ。


 嵐が過ぎ去ったとは言え、オルティナの街までは歩いてニ、三日以上はかかる。一日目はオルティナの街までの道中でお世話になった宿舎で休み、それ以降は野宿となる。だが今回はリスティアム達もいる事もあり、旅は快適なものとなる。
「私達がいる周囲に結界を作っていますので、そこから出ない限りは安全です」
 リスティアムの作る結界は強力で、本当にモンスターを見る事もなかった。それでなくとも真樹達にはルルがいるので、ルルがモンスターの臭いを嗅ぎ分けてくれるので、それを避ける事も可能だ。
 そうして旅も終わりに差し掛かった夜。
 皆深い眠りに入っていたが、ふと目が覚めたカイはむくりと起き上がった。すると夜空を眺めるリスティアムと、夜行性のルルが起きていた。
「ん?なんだ?目が覚めたのか?」
 いち早く察したルルがカイに尋ねる。
「あぁ……ルルはまだしも、リスティアムも眠れないのか?」
「そうですね。久々の外の世界で高揚しているのかもしれませんね。それにエルフはこうして星を見て占う事も得意なのですよ」
 人間よりも秀でた魔力を待つエルフならではなのだろう。
「それで?星を見て何かわかったのか?」
「そうですね。私と真樹はどうなるのかを見てますが……」
 その言葉を聞いたカイがムッとした。この際だから聞いておかないといけない事は聞いておこうと思った。
「なぁ、あんたは真樹の事をそういう意味で好いてるのか?」
「そういう意味とは?」
「つまり……恋心としてだ」
 直球で聞いてみたが、リスティアムはクスリと微笑んだだけだ。
「その答えを知ってどうするのですか?」
「真樹は男だぞ」
「あなたも男ですが?」
「いやそうだが……オレ達はいずれ元の世界に戻る。だからあんたが真樹を好きだとしても、いつか別れる事になるんだぞ」
「もし真樹が残ると言ったら?」
 そうしたら自分も残るだけだ。否、無理矢理でも真樹を連れて帰るかもしれない。
「私と真樹の事は真樹が決める事です。あなたにとやかく言われる筋合いはありませんよ」
「それはそうだが……」
「あなたこそ真樹をどう思ってるのですか?」
「それはあんたには言わない」
「では同じです」
 何が同じなのか。ただ表面的には穏やかであっても、リスティアムはカイに対してはあまり好意的ではない。それだけは理解した。
「まぁ、あなたは私と真樹の事を気にするより、もっと気にした方がいい事もありますよ」
「どういう事だ?」
「それはいずれわかります」
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