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第二話

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「あ、雨……」
「本当だな。通りで寒いわけだ」
 手際よく薪を暖炉にくべ、火を起こしたカイは窓の外を見て言う。雨は次第に強くなり本降りになる。それよりも気になったのはカイの手際の良さだ。
「カイってこういう火おこしとか得意なの?」
「よく家族でキャンプ行ってたからな。ほら、小さい頃真樹の家族とも行っただろ?」
「覚えてない……」
 いつの頃の話なのだろうか。全く記憶にないが、カイがそう言うなら行ったことがあるのだろう。きっと小学生低学年頃で、まだスクールカーストも存在しない無垢な頃。あの時はカイといつも一緒で仲も良かった。いつの間にか二人の間には開きが生じた。
(離れたのは僕の方だけど……)
 なんでも出来て、親からも先生からも生徒からも尊敬される人気者のカイ。自慢の親友と言ってみた所だが、そんな事をいえば「調子に乗るな」「お前と全然違う」と言われるのがオチだろう。
(本当はもっと一緒にいたかったのにな……)
 小さい頃の思い出を巡っていると、真樹はウトウトし始める。
「おい、真樹。寝るなら横になった方が楽だぞ」
「うん……」
 どこから持って来たのだろうか。カイはマントを敷いて真樹を横たわらせると毛布を真樹にかけた。
「カイは本当に優しいね……」
「別に誰にでも優しいわけじゃないよ」
「そうかな?こんな事されたら普通の子だったら惚れるんじゃないかな?」
「普通ねぇ……真樹はどうなの?」
「僕?僕は見ての通りモテとは無縁のキモオタでチビでどんくさくて……」
「そうじゃないよ。真樹はオレの事どう見てるの?」
「自慢の幼馴染……本当はもっと仲良くしたかった……」
「幼馴染ねぇ……」
 どうしてそんな事を聞くのだろうか。頭が回らない真樹は徐々に意識を手放していく。そしてついに意識はプツリと途絶えた。
(そう言えば中学の時、カイってサッカー部のマネージャーと付き合ってたよね?)
 ふと記憶の断片が夢として現れる。カイは小学の頃からサッカーをしていた。もちろん中学高校とサッカー部に入部していたが、何故か中学の頃、カイが彼女を連れて下校しているのが印象的に残っている。
(眼鏡をかけた黒髪のロングで、清楚系かわいいだった気もする……)
 印象深い光景なのだが、彼女だった子の顔はあまり思い出せない。ギャルっぽい子よりも清楚系の方がカイとはお似合いだ。確か美男美女みたいなくくりで周囲に言われていた気もした。
(あの時カイが遠い人に見えたんだよなぁ……カイの隣にいた子は嬉しそうで……本当ならそこは僕がいるのに……)
 その瞬間、真樹の脳裏に「ん?」と疑問が浮かんだ。
(えっ?何女の子と自分比べてるの?それよりもカイの隣にいるのは自分って……おかしいじゃないか!)
 パッと目が一気に覚めた。なんという夢を見たのか。変な感じで覚醒してしまったので、カイの隣云々の記憶は鮮明に残っている。
「いやいや……おかしいから」
 変な夢を見た。そう思って起き上がろうとした時、自分の体ががっちりホールドされている事に気が付く。腰に巻き付いた腕。その腕を辿った時、真樹は「ひぃ!」と奇妙な声を漏らした。真樹をホールドしたまま横でカイが寝ている。
「ど、どういう事?」
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