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第一話

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「えーっとあなたは?」
 すかさずカイが男に訪ねた。男はニカっと渡った。
「オレはフェイ。見ての通りの剣士で、傭兵なんてのをやってる」
 本物の剣士。腰の剣やマントに真樹のテンションは更に上がっているが、なんとかそれを表に出さない様に堪える。
 この物語序盤で出会う剣士は陽気なタイプが多い。フェイもまた見た目の雰囲気もテンプレ通りっぽい。
「さっき花屋のおばちゃんの所にいたの見かけて、珍しい服着てるから気になってたんだ。お前達どこかの軍人か?」
「いや、オレ達は普通の学生なんだが……」
「学生?ならこの町の人間じゃないよな。もっと大きい都とかならそういう服着てそうな学生はいるだろうけど」
 こちらの世界から見た制服というものは、軍人の服、もしくは都会の学生風に見えるのだろうか。つまりこの服で歩けば悪目立ちするという事だ。
「それにさっき異世界がどうのこうのって言ってたが、お前達この世界の人間じゃないのか?」
「か、簡単に言ってしまえばそうだ。どうやって戻ればいいか……」
「すげぇ!違う世界の人間と出会うとか、オレってすげぇ!」
「えっ?あ、おい……」
 突然興奮し始めたフェイに戸惑うカイ。そして周囲の好奇な目にさらされる。
「何か凄いな!別の世界からとか、なんかオレ、凄い感動なんだけど」
「わ、わかったから落ち着いてくれないか?それにオレ達は元の世界に戻りたいんだ。その方法をこれから探さないといけない」
 興奮していたフェイがピタリと興奮を抑え、カイの方を見た。
「元に戻る?お前達はその為にここにいるのか?」
「ここにいたのはたまたまだ。だがここからどうすればいいかは悩んでいる」
 それを聞いたフェイがうーん……と悩み始めた。カイは戻りたい。戻る為の方法を探すと言っているが、真樹はそう思っていなかった。
(帰った所で僕は僕のままだ。周りからキモいとか疎まれたりしたりするだけだし……)
 帰りたいカイと帰りたくない真樹。さすがにそれは言えなかった。
「成程な!だったらオレも手伝ってやるよ!」
 軽い。実に軽くパーティが組まれた。さすがジョブが剣士だと仲間になるのは早いなと真樹は思った。きっとこの展開はオープンワールドでストーリーを進めるのだと思った。だがそれをするならフェイとカイだけでやればいい。自分は一人ここで暮らしたい。
「ありがとう。オレはカイ。こっちは真樹だ」
「よろしくな!」
 コクリと頷いただけの真樹。するとフェイが真樹の顎を持ち上げた。
「ちゃんとオレの顔見なよ。感じ悪いぞ」
 目の前にいるフェイと目がばっちりと合い、何故だか真樹は顔を赤くした。
「やめてやれよフェイ。真樹は恥ずかしがり屋なんだ。勘違いしたならオレから謝るから」
「何でカイが謝るんだよ。とりあえずこれから一緒にいるんだし、少しずつでいいからオレに慣れてくれよな」
 一瞬怒らせたのかとも思ったが、フェイは怒っていないようだ。だが真樹の意見に反して強引な二人の間にいて居心地はよくない。
(それに僕が悪いのにカイが謝ってくれた……)
 ありがとうの一言くらい言えばいいのに、真樹はそれが言えなかった。
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