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まったく言葉が返せない。気にしないとは言え、年頃の加奈は女だ。気にする。だが介護すると言っても料理を持って行くなどのデリバリーをするのだろうと考えたが、明人はとんでもない事を言った。
「もちろん住み込み介護だからな」
「な、なに言ってるんですか!住み込みって……!」
「落ちてきたあんたの下敷きになって、俺の生活に欠かせない右腕が骨折……なのに治療費だけ出して逃げるのか?」
「うっ、それは……」
「あぁ、もしかして彼氏いるからそれは無理ってオチ?」
「彼氏はいません!」
発言した直後にハッとした。何を馬鹿正直に答えているのだ!ここは彼氏いますと言えば住み込み介護は逃れられたはずなのに……だがもう後の祭りだ。
明人はくすくす笑っている。加奈は自分の正直な発言が恥ずかしく、頬が火照るのがわかった。
「じゃ、決定だな。とりあえず会社早退しなきゃな。後、自宅で出来そうな仕事とか割り振って……」
「あの、住み込みじゃないとダメなんですか……?」
「当たり前だろ?俺利き手使えねぇし。あぁ、後で保険証病院に渡してきて」
「えっと、私まだ住み込むとか決めたわけじゃ……」
「文句なら後で聞く。とりあえず一旦会社戻る」
短くなった煙草を灰皿に押し火を消すと、明人はスタスタと歩いて行ってしまう。どうやら明人と言う男はとてもマイペースな性格をしているらしく、加奈の切なる願いは綺麗さっぱり無視されてしまった。
会社に戻ると上司に報告をした。同僚達は何があったのかとここぞと聞いてきた。さすがにもう仕事などしている暇がないので、昼からの仕事は休む事にした。ちょうど病院を出る間際に「連絡先教えろ」と明人に言われたので、アドレスと番号を教えていた。
荷物をまとめ退社しようとした時に、ケータイのバイブレーションが震えたので、見てみると明人から「下いる」と簡素なメールが来たので、急いで一階フロアに向かった。
一階に着くとエントランスの椅子に堂々と座ったままの明人がいた。
「すみません。お待たせしました」
「あんた車の免許は?」
「普通免許なら一応……」
「なら、はい」
ポンッと手のひらに置かれたのは鍵だった。そして話の流れからして、これは車の鍵で、加奈に運転しろと言う事なのだろう。直後、加奈は青ざめた顔で首を振った。
「無理無理!無理ですって!私ペーパーですよ!確実に事故します!」
「何言ってるんだよ。俺この状態で運転できないし、会社に置きっぱは嫌だ。って事であんたが運転。あぁ、頼むからもう事故起こすなよ」
(そういう問題じゃなぁい!)
加奈の訴えなど聞く耳持たず。
明人はスタスタとビルの地下にある駐車場へと向かった。ただでさえ運転するのが嫌なのに、これまた車がメタリックブルーのスポーツタイプの高級車だ。余計気を使う……せめて普通のワゴンタイプにしてほしいと思った。
「何してんだ?早く運転しろよ」
「あの、代行とか呼んだ方が……」
「いいから運転。練習だと思え。そして俺が乗っている事を忘れるな」
被害者なのだから偉そうにしていて当たり前なのだろうが、明人はほとんど加奈の意思など無視だった。
「もちろん住み込み介護だからな」
「な、なに言ってるんですか!住み込みって……!」
「落ちてきたあんたの下敷きになって、俺の生活に欠かせない右腕が骨折……なのに治療費だけ出して逃げるのか?」
「うっ、それは……」
「あぁ、もしかして彼氏いるからそれは無理ってオチ?」
「彼氏はいません!」
発言した直後にハッとした。何を馬鹿正直に答えているのだ!ここは彼氏いますと言えば住み込み介護は逃れられたはずなのに……だがもう後の祭りだ。
明人はくすくす笑っている。加奈は自分の正直な発言が恥ずかしく、頬が火照るのがわかった。
「じゃ、決定だな。とりあえず会社早退しなきゃな。後、自宅で出来そうな仕事とか割り振って……」
「あの、住み込みじゃないとダメなんですか……?」
「当たり前だろ?俺利き手使えねぇし。あぁ、後で保険証病院に渡してきて」
「えっと、私まだ住み込むとか決めたわけじゃ……」
「文句なら後で聞く。とりあえず一旦会社戻る」
短くなった煙草を灰皿に押し火を消すと、明人はスタスタと歩いて行ってしまう。どうやら明人と言う男はとてもマイペースな性格をしているらしく、加奈の切なる願いは綺麗さっぱり無視されてしまった。
会社に戻ると上司に報告をした。同僚達は何があったのかとここぞと聞いてきた。さすがにもう仕事などしている暇がないので、昼からの仕事は休む事にした。ちょうど病院を出る間際に「連絡先教えろ」と明人に言われたので、アドレスと番号を教えていた。
荷物をまとめ退社しようとした時に、ケータイのバイブレーションが震えたので、見てみると明人から「下いる」と簡素なメールが来たので、急いで一階フロアに向かった。
一階に着くとエントランスの椅子に堂々と座ったままの明人がいた。
「すみません。お待たせしました」
「あんた車の免許は?」
「普通免許なら一応……」
「なら、はい」
ポンッと手のひらに置かれたのは鍵だった。そして話の流れからして、これは車の鍵で、加奈に運転しろと言う事なのだろう。直後、加奈は青ざめた顔で首を振った。
「無理無理!無理ですって!私ペーパーですよ!確実に事故します!」
「何言ってるんだよ。俺この状態で運転できないし、会社に置きっぱは嫌だ。って事であんたが運転。あぁ、頼むからもう事故起こすなよ」
(そういう問題じゃなぁい!)
加奈の訴えなど聞く耳持たず。
明人はスタスタとビルの地下にある駐車場へと向かった。ただでさえ運転するのが嫌なのに、これまた車がメタリックブルーのスポーツタイプの高級車だ。余計気を使う……せめて普通のワゴンタイプにしてほしいと思った。
「何してんだ?早く運転しろよ」
「あの、代行とか呼んだ方が……」
「いいから運転。練習だと思え。そして俺が乗っている事を忘れるな」
被害者なのだから偉そうにしていて当たり前なのだろうが、明人はほとんど加奈の意思など無視だった。
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