上 下
14 / 23

-14

しおりを挟む


「うん、そう。夕飯は後でちゃんと食べるよ。えっ? だからわかってるってば! …あっすすすみませんっちゃんとわかっておりますお母様っ!! はいっはいそうですっ、大切な話があるためしばらくは二人だけにしてほしいので上の階にはっ…そうですっ、どうぞご理解のほどよろしくお願いいたします!! はいっ、それでは…!! ……ふぅ。ごめんね疾風くん、お待たせしちゃって…」
「……いや、というかオマエの母親…相変わらず強烈なキャラしてるな」
「ほんとにね~、普段は優しいんだけど怒るとアレでして…何であんな濃いキャラの母親から、オレみたいな地味男が生まれたんだか謎にもほどがあるよ」
「……っ、」



……いや、オマエも大概濃いキャラしてるぞ…?
と、言おうとして口を噤む俺に気づかず、いつぐは自分の部屋のドアにカチャリと鍵をかけ、冷たい茶を注いだグラスを二つのせたおぼんを持ちながら、ゆっくりと俺が座っていた自分のベッドまでご機嫌な感じの足取りで近寄ってきた。

おぼんを目の前の机に置いたのち、ギシリ…ベッドから音をさせつつ俺の隣へといつぐが腰を掛ける。
「っ、」それだけで、俺の心臓も一緒に音をたてた。


今現在の時刻は、いつぐの部屋の壁にかけてある時計を見るに午後の七時を少し過ぎた頃。
そう、いつぐの部屋。俺は今、いつぐの部屋……いつぐの『家』にいるのだ。



溢れでる気持ちのまま、いつぐを街中で思わず抱きしめてしまったあの後。


「ああっ、疾風発見! …って、あれ? もしかして藤枝くんも一緒か?」
「わわっほんとです! いっつんもいますっ…!」
「へ…って、ええっもっちー!? それに東堂くんもどうしてっ!?」
「!! りょ、遼太郎…望月…」
「よかったぁ、いくら待っても疾風が戻ってこないって望月から連絡あって、それで二人でこっちまで藤枝くんだけでなく疾風も探しにきたんだけどさ。なんだ、疾風先に藤枝くん見つけてくれてたんだな……ところで、二人はこんな街の往来で何抱き合ってんだ?」
「え……っ!!? なっ、やっ違っ、俺なにしてっ…!?」
「!! …ふ、ふはっ、疾風くん今頃慌ててって…あははっ」
「なっ、おいいつぐ笑いすぎだっての…!」
「ふふっごめんだってあんな突然大胆なことしてきて、なのに急に顔真っ赤にして慌てちゃう疾風くんがかわいすぎてそれで、」
「っ!? ……かわいくねぇし…バカじゃん…」
「可愛いよ、疾風くんはいつだって可愛い♡」
「…い、いつぐ…♡」
「……おーい、だからここ街の真ん中だぞぉ」
「はわわわわっ、人がっ皆さんが見てますぅ…!」


今思うと、マジで街の往来で何してんだよっ!? 正気かっ!? ……なことをしてしまったのち。


「……あ、あのよ、伊波はどうしたんだ…? さっきまで…っ、あのよくわかんねぇ店に一緒にいただろ…」
「えっ伊波くん? 伊波くんとはさっきのお店の前で別れたけど…?」
「え……はっ!? 別れたのか!? 何でっ!?」
「!? え、何でって…もともと今日の伊波くんとのお出かけの最終目的があそこの『party sweet colorful,』だったから、だけど……ん? 待って、というか何で疾風くんがオレと伊波くんがあのお店に行ったこと知ってるの?」
「……あっ!?」
「!! あっ、って…そういえば、何で疾風くんだけじゃなくもっちーや東堂くんもここに…」
「っ……ごめん、いつぐ…俺」
「えっ?」

「俺――…またオマエのこと、ストーカーしてた」
「へ………うええええっ!!??」


いつぐが伊波とすでに別れていたことに衝撃を受けながらも。
俺はいつぐに、また『ストーカー』をしてしまっていたことを正直に告げたのだった。





「えっと、何だかよくわからないけど……とりあえず、家で話そっか?」
とのいつぐからの言葉で、俺は遼太郎ともっちーの二人とその場で別れ……今、こうしていつぐの部屋のベッドの上にいるわけだけどもよ。

帰り際にアイツらは、

「えっ悪かったって…ははっそんな気にすんなよっ。なんか探偵みたいで楽しかったし、あとおれも色々個人的に良いコトあったからむしろラッキーだったぞ」
「あっえと、ボクも驚いたこととかもありましたが、何だかんだと楽しかったですっ…それに、っ……と、とにかく
全然大丈夫でしたので気にしないでください…!」

とは言ってくれたものの、
遼太郎ともっちーには迷惑かけまくったから、やっぱ近いうちに何か礼とかしないとな。
……それにしても、何で最後遼太郎はあんなご機嫌で、もっちーはあんな顔真っ赤にしてたんだ?
まぁ、そこは別にいいか。


それよりも、俺が今優先すべきことは……だから俺はベッドの上、グッと強く拳に力を入れ。


「っ、いつぐ…俺…俺は、」
「! …うん、どうしたの疾風くん」
「俺はっ、オマエと伊波のこと――…」


今日あったこと――今日だけじゃない、ずっと前から感じていた伊波のいつぐへの態度への思いも――全部、俺は嫌われる覚悟で、自分の気持ちのすべてをいつぐにぶつけた



のだが。


「っ……も、無理……オレの疾風くんがかわいすぎて、死ぬっ…今日がオレの命日になっちゃう…うぐぅっ…」
「――は?????」



数分後。
俺のすべての話を聞いたいつぐは――何故だか、自分のベッドの上で両手で顔を隠しながら一人悶えていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ストレスを感じすぎた社畜くんが、急におもらししちゃう話

こじらせた処女
BL
社会人になってから一年が経った健斗(けんと)は、住んでいた部屋が火事で焼けてしまい、大家に突然退去命令を出されてしまう。家具やら引越し費用やらを捻出できず、大学の同期であった祐樹(ゆうき)の家に転がり込むこととなった。 家賃は折半。しかし毎日終電ギリギリまで仕事がある健斗は洗濯も炊事も祐樹に任せっきりになりがちだった。罪悪感に駆られるも、疲弊しきってボロボロの体では家事をすることができない日々。社会人として自立できていない焦燥感、日々の疲れ。体にも心にも余裕がなくなった健斗はある日おねしょをしてしまう。手伝おうとした祐樹に当たり散らしてしまい、喧嘩になってしまい、それが張り詰めていた糸を切るきっかけになったのか、その日の夜、帰宅した健斗は玄関から動けなくなってしまい…?

『俺っグッジョブ!!!』~日々親友兼片想い相手♂を脳内で××しちゃってた俺と、とある夏の日の俺とアイツの話~

そらも
BL
高校一年生の性欲満タン童貞くんな涼一くんは、親友兼片想い相手な平凡少年由麻くんのことを可愛い可愛いと思いながらもほぼほぼ毎日毎夜脳内でやっべぇくらいに好き勝手にえろえろ変換しては犯しまくる、という満足感たっぷりの右手とオトモダチな生活を日々送っていた――のだけれども…? ってな感じのラブコメ話であります♪ タグにもある通り、基本的に攻めくんの受けくんへの暴走えろモノローグで話が進んでおります♡ あと最後の方に若干のファンタジーちっく(?)な要素もございますのでご了承くださいませ! ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

あっくんは、レンくんのおっぱいがお好き♡♡♡

そらも
BL
無類のおっぱい大好き高校生、九重敦矢(ここのえあつや)くんと、コンプレックス持ちマシュマロおっぱい高校生、小笠原レン(おがさわられん)くんが、お家でいっぱいイチャイチャちゅっちゅしてるラブラブ話♡ 今回は物語よりもエロ重視の相も変わらずバカップルな高校生男子のお話であります。 エロ重視と言っても、タイトル通りおっぱいイジイジが中心となりますので、最後まで致してる(実際はその後してるんだろうけども)描写はありませんのであしからずです。 ちなみにレンくんのおっぱいは作中にも書いてありますが、筋肉ムチムチの雄っぱいというより柔らかめのおっぱい仕様になっておりますのでご了承くださいませ。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

逢瀬はシャワールームで

イセヤ レキ
BL
高飛び込み選手の湊(みなと)がシャワーを浴びていると、見たことのない男(駿琉・かける)がその個室に押し入ってくる。 シャワールームでエロい事をされ、主人公がその男にあっさり快楽堕ちさせられるお話。 高校生のBLです。 イケメン競泳選手×女顔高飛込選手(ノンケ) 攻めによるフェラ描写あり、注意。

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

真面目系上司が陽キャ系新入社員に突かれてアヘアヘする話♡

てと
BL
陽キャ系新入社員×真面目系上司。 ♡喘ぎと濁点喘ぎとんほぉ♡な内容のBLです。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

処理中です...