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足りなさその32、 オレの世界一大好きな人は、

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オレの世界一大好きな人は、カッコよくて優しくて、どうやら眠っているオレにえっちなコトを思わずしちゃうほどにオレのことが好きらしく、

そして「これで全部かな」と言いつつ、2度もオレの身体に精液の拭き忘れの跡を残しちゃう――



『あと少しのところが足りない』そんな男でした。








…カチカチカチ、カチっ、


「………やまっち、お~いやまっちぃ……ふぅ、やっとほんとに寝たみたいだね。布団に入ってから30分って、けっこう長かったなぁ……」



壁に掛けてある時計は暗くてハッキリとは見えないけど、やまっちがお風呂から戻ってくる直前に見た時は午後の11時いったかいってないかぐらいの時間だったから……うん、大体今はもう日付越して木曜日になっちゃってる頃なのかな?


シーンとした電気の消えた暗い部屋の中には、時計の秒針の音とやまっちの小さな寝息だけがなんだか大きく響いてる。
そんな暗い部屋の中で、予備のヤツなのかクローゼットからガサゴソと取り出したっぽい敷き布団一式を、ベッドからかなり離れた隅っこに敷いて寝始めちゃった――とはいっても、布団に入ってからしばらくの間はずっと「…はぁ、ほんとオレ意志弱すぎだろバカ野郎っ…」やら「頼人ごめん、ごめんな…」なんてやまっちの弱々しい声ばっかり聞こえてきて、全然寝そうな気配は感じられなかったんだけどね――やまっちを、オレはベッドの上からコッソリと覗き見る。


うーん…やっぱりこんなに離れてちゃ、暗いのも相まってやまっちの寝顔まったく見えないなぁ……せっかくやまっちがお風呂から戻ってきた後も、ずっと寝たフリして待ってたっていうのにさ。

っていうかこのベッドけっこう広さあるし、やまっちも床に布団なんか敷かないでこっちで一緒に寝ればいいのに……オレはぜんっぜん気にしないよっ、むしろいつでもウェルカムだよっ♡♡♡


「……なぁんて、あんなコトした相手の横で平気で寝ちゃうとか、やまっちがするわけなんかないよね…はは」


そう、そんなコトやまっちができるわけないんだ。
むしろ寝る前のあの独り言からいっても、やまっちは寝てる今現在もかなーり心の中が罪悪感でいっぱいになってるんだろうな。


そりゃそうだよね、だってやまっちは自分の好きな相手が寝てる時に、その好きな相手に対して――…好きなオレに対して、いっぱいいっぱいえっちなコトをしまくっちゃったんだもんね。



「………っ、好き、って……オレのこと好きって、やまっちが頼人好きだってああぁぁぁぁっ…♡♡♡」



嬉しすぎて、幸せすぎて、その事実を口にするたんびにオレの思考はとまりかけ、またも顔を両手で覆い隠しベッドの上でゴロゴロと気づいたら身体を動かしてしまっていた。


「はぁ、まだ信じらんないよ……やまっちがオレのことを好き…だったなんて、っ♡♡♡」


だってだって、ずーっとやまっちはノーマルなんだと思って自分の秘めた想いを1年以上ひた隠しにし続けてたんだよっ、オレはさ!?

それがこんな思いもよらない形で、まさかの『やまっちもオレのことを好き』だったなんて嬉しすぎるサプライズが舞い込んできて、こんなのもうっ、



「転げまわらないってほうがどうかしてるでしょーーーっ♡♡♡」
「…う、うぅん…?」
「ハッ!!?」
「ぅ、ん…すぅ……」
「っ……い、いけないいけない…」



オレってばいくらなんでもはしゃぎすぎだよ……あぶなかったぁ。
あまりの嬉しさから興奮しすぎてベッドの上でローリング状態になってたよ、ふぅ…一旦、一旦落ち着こう頼人。
ベッドの上でむくりと起き上がって、オレは少し落ち着こうとゆっくりとスゥハァ…と深呼吸をする。

そうして、チラリとオレは自分の左腕を見つめ。


「それにしても……ほんと、こんな形で自分のオレへの気持ちが本人にバレちゃうとかさ、きっとやまっちもまったく想定してなかったんだろうなぁ」


やまっちも意外とオレと一緒で、最後にヘマしちゃうところがあったんだねぇ…ふふ、
と、オレはクスリと笑みをこぼす。


いつもカッコよくて優しいやまっちの、ちょっと残念な部分――残念の度合いは、ある意味でオレよりも酷いかもだけど――を新たに知れたことで、オレの中ではますますやまっちのことを大好きな気持ちがきゅんきゅんと高まっていく。


まぁ、やまっち自身としてはきっと全然嬉しくない残念な部分な気もするけれど……でも、このやまっちの見えにくい場所に隠れていたためにちゃんと最後まで拭けていなかった『精液拭き残し』のとんでもないヘマがあったからこそ、



「オレとやまっちが両想いだって、こうして知ることができたんだよね……えへへ♡♡♡」



くぅくぅと寝息を立てているやまっちの方をベッドの上から見つめながら、オレはふにゃふにゃと顔をだらしなく綻ばせる。



「ふふ、ほーんとやまっちってばもうっ…あと少しのところが足りないんだからっ♡♡♡」



しょうがないヤツだなぁ…なんて雰囲気を醸し出しながらも、オレは暗闇の中でも蛍に負けないくらい心の内から幸せオーラをピカーっと眩しいほどにあふれさせていて。



なんだかんだと色々、ここ何日か信じられないようなありえないようなコトで満載だったけどさ、最終的には、オレとやまっちが『お互いを想い合っている』という最高に素敵な真実を知ることができたんだし。



「うんっ、結果オーライってヤツだよね!! ねっ、やまっち♡♡♡」



そういって、オレは寝てるやまっちへと暗闇の中、満開の笑顔を見せたのだった。




――けれども。


そんなオレの幸せオーラ満開の笑顔は、その笑顔を引き出してくれたオレの大好きな人の言動により、翌朝あっけなく砕け散ってしまうのであった。



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