俺にとっての『エロとろボイス♡』♡♡♡

３voice, ちょっと前までは、本当に。

『……それでは、とっ～ても残念なのですが、そろそろさっくーとはお別れの時間となってしまいましたぁ～…』
『え～もうっ？　もっとさっくーの声のお仕事のこととか聞きたかったのにぃ！』
『うぅっ、ボクももっとあいさんまいさんとお話したかったです…時間経つの本当早すぎるっ……あっそうだ、CM中にあそこの時計ちょっと針を三十分前ぐらいまで戻しちゃいません？』
『あははっさっくーナイスアイディア！　いいねっまいちょっとちゃちゃっと戻しちゃって♡』
『オッケー任された♡　って、できるかーい！！？』
『ちょっ、まいさんのツッコミの手首のスナップもうアイドルのソレじゃないっあはははっ』


「はぁん……笑いのセンスも兼ね備えてるなんて、さっくーマジ一生推せるわぁ♡」
「ほんと、さっくーの弱点なさすぎてすごいよねぇ～」
「……はは、そうだな」


『ではでは、お遊びはこのくらいにして！　さっくー、今日は他にお知らせもあるんですよね？』
『あ～お腹いたっ…っと、はいそうでした！　えっと、八月十四日にボクの新曲「迷宮キラーズ」が発売されます。
実はこちらの曲は、この後始まるボクが主役の迷い宮タスクくんの声を務めているアニメ「迷宮ラブ×バッド！？」の主題歌でもあるのですが、ドタバタ痛快劇のとっても面白いラブコメアニメですので、よければそちらも見ていただいて曲の方も一緒に聞いてもらえるととっても嬉しいです！』
『らぶば、とっても面白いのでめっちゃおススメですよ～！』
『あい、らぶばめちゃくちゃハマってるもんねぇ』
『ありがとうございます！　ははっさっきCM中に推しの切り原アズマくんの魅力語りまくってましたもんね～』
『ちょっさっくーそれ言わないでぇ！？』
『しかもタスクくんと仲が悪いキャラなのに、そのタスクくんの中の人に語りまくるっていうねっ』
『それも言わないでぇぇっ！！！』
『アタシはどっちかっていうとぉ、原作者のチャラセンセー派かな～？　なんて♡』
『っ、いやチャラセンセーは、確かに…イケメン、な方ですけど……って、お二人ともアイドルっ！　アイドルなのを忘れずに！！』
『『あ、そうだった』』
『も～っ！！』



番組は終盤に差し掛かり。
あははははっとさっくーたちは宣伝も兼ねながらこの後始まるさっくー主演のラブコメアニメ、果てはそのアニメの漫画原作者の通称『チャラセンセー』についてまで楽しそうにしゃべっていた。


「はーいっもちろん見ま～す♡」


エンディングの『ai×mai』の曲が流れだし、さっくー含めた三人がこちらに向かって『また来週～バイバーイ！』と手を振ると同時に、みかも嬉しそうに両手を振りながら「迷宮ラブ×バッド！？」をこれから見る宣言をしたのだが、


――パチンっ！

「って、ああああぁっちょっとふうにぃ何いきなりテレビのチャンネル変えてんのよおぉぉ！！？」
「だからうるっさいつーの！！　……お、俺はいつもこっちのらぶばは録画で、裏番組のアニメの方を生で見てるんだよっ……」
「えっ！？　お兄さんも『オレの入学した高校が、いつのまにか知らない世界と繋がる為のゲート的役割となっていたのだが。』略して『いつゲー。』の方を生で見ているんですかっ！！？　おれも一緒です！！」
「……わざわざ正式名称言ってくれてありがとな、恭くん…」


俺はすぐさまリモコンでテレビのチャンネルを変え。
別局で同時刻に始まる他のアニメを見るんだと……そう、宣言をした。


「も～っ！！　私はらぶばでさっくーの声た～っぷり聴いて、それで明日のマルケに備えようと思ったのにぃ！！」
「…し、知らねぇし…俺の家の俺のテレビで俺が何見ようが、文句言われる筋合いねーしっ…」
「ムキ―っっ！！」
「っ……」
「…まっまぁまぁ、みぃちゃん落ち着いて。らぶばの方は家でしっかり録画予約してあるんでしょ？」
「そうだけど…でもぉ」
「いつゲー。もとっても面白いんだよ？　おれ、みぃちゃんと隣同士に並んで座って、一緒に仲良くいつゲー。見たいなぁ♡」
「えっ…え～きょうちゃんがそう言うならぁ…み、見てあげてもいいかなっ…♡」
「ほんとっ！　ありがとうみぃちゃん♡♡♡」
「うふふ～♡♡♡」


……なんかこいつら、さっくーダシに使ってイチャついてるだけにしか見えなくなってきたんですけど。

いや、みかのさっくー愛はマジのマジもんだけどもさ。
まぁそうは言っても、やっぱり彼氏である恭くんが一番大事ってことなんだろうな。
絵に描いたようなアホバカカップルだし、毎度俺の家来るたんびに独り身の俺の目の前で気にせずイチャつきまくって、何度右手の風穴で吸い込んでやろうかと思ったこともあったが……（いや、そんな穴はないけども）
と、なぁんて言ってもさ。なんだかんだ俺はこの二人が幸せでいてくれるのを兄としてちゃんと祈ってたりしてますから、うん。


そうして俺も、こんな風にアニメの話が出来たり、一緒にマルケに行ってくれるようなラブラブなとっても可愛い彼女が欲しいんだと、高校卒業と同時に当時付き合っていた彼女と別れてからは……ずっとずっと、思っていたわけだ。


――そう、ちょっと前までは、本当に。



「あっ、いつゲー。始まりますよ！　…そういえば、お兄さんは誰推しなんですか？」
「えっ、ああっえと……俺は、ヒロインのアルニア…かな」
「わぁっいいですよね～アルニア！　おれも好きだなぁ」
「…ちなみに恭くんは？」
「おれですか？　おれはやっぱり主人公の渉くんかなぁ」
「きょうちゃんの推しなら、絶対絶対素敵なキャラだねっ♡♡」
「ふふ、ありがとうみぃちゃん♡♡」
「……ははは、そっかそっか渉くんかぁ」


……すまん、恭くん。
もちろん俺も『いつゲー。』は大好きだし、キャラの中で一番推してるのがヒロインのアルニアなのも本当だけど。


実を言うと。

俺もみかと同じく、さっくーの出ている『らぶば』の方が大切……というか、むしろ今季一推しているアニメと言っても過言ではないくらい、俺にとっては重要なアニメなのだ。


原作が週刊少年ホースで連載中の大人気痛快ラブコメディーだから？　……確かに毎週読んでるし、すっごく面白い。
主役のタスクくんの声をさっくーが務めているから？　……確かにタスクくんの声にすごくピッタリで、彼でよかったと思ってる。


……でも違う。


俺が…俺がこのアニメを推している、本当の『理由』は――…