お供え物は、プロテイン

Emi 松原

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心霊スポットの奥の奥

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※※※

「そこから、誰もいないのに、人の声で呼ばれたり、ドアが勝手に開いたり、ラップ音がしたり、誰かに追いかけられている気配がしたり……とにかくテンプレ通りって感じの怪奇現象が続くんだってさ。ちなみに、そのうちの三人は、それぞれ事故に遭ったって。命に別状はなかったらしいけど」
 安明が、いつもの庭で、ため息をつきながら言った。
「えー……。何それ。そんなの、そんな場所に行った方が悪いじゃんかぁ。それなのに、やっすん、その依頼、受けたの? そういう、死者を冒涜するようなエンタメ感、やっすんが一番嫌いでしょ?」
 陽一の言葉に、安明が首を横に振った。
「俺が、そんな依頼受けるわけないじゃん。勿論、うちの親父も。でもさぁ、この案件がきたのが、親父……俺らの寺と、親交が深いお寺の住職さんからなんだよ。その四人がさ、その住職さんのお寺に駆け込んだらしいんだけれど。そこのお寺って、俺の所と宗派が違うのね。そこは、お寺は、心のよりどころであり、そういう現象をなんとかする場所じゃないってとこなの。でも、ほっとくわけにもいかなくて、親父に相談にきたって訳」
「それで、おじさんが受けたんだ?」
 陽一の言葉に、安明が、深くため息をついた。
「親父は、ほっとけば良いってぼやいてたんだけれどね。ちゃんとした行いで生活をしていれば、そんなこともないわけだし。怪奇現象だって、音とかに過敏になってるだけかもしれないし。でもさぁ、親交が深い方の案件を断るわけにもいかないから」
「えぇ……。それで断れなかったのか……」
「修行だって言われたら、何も言えないもんな。それで、一応、その四人と会うことになってるから」
 安明の言葉に、渋々と陽一が頷く。
《人間って、いつの時代も、そういう度胸試しをするのね》
 松子が、二人の間にちょこんと座って、ケラケラと笑いながら言った。
「この手の話題だけは、いつの時代もあるもんな」
 安明が、頭を抱える。子供の頃から、安明の寺には、この手の相談が後を絶たないのだ。自分たちで飛び込んで、何もないとがっかりして、何かあると寺に飛び込んでくる人たちに対して、安明が嫌悪感を持つのは仕方がないことだった。
「あっ……やっすん……。虎ちゃんが、正拳突きしてる……」
 陽一の言葉に、安明が、ハッとした顔で、虎之助を見た。
 虎之助は、マッスル! マッスル! とリズム良く声を出しながら、拳を前に突き出している。
「……拳の方だとは思ったけれど、こんなに早くって……」
「あぁ……今回の依頼は、軽く見ない方が良いかもな」
 安明と陽一は、そう言うと顔を見合わせて、頷き合ったのだった。

※※※

「なるほど、それで、個人情報がしっかりと書いてあったと……」
 数日後、寺にある一室で、四人のうち三人から聞き取りを行っていた安明が、仏スマイルで微笑んだ。安明の後ろに、陽一と虎之助、虎之助の膝の上には松子がいる。
《ふふっ。安明、相当腹が立ってるのね。どんなに優しく微笑んでいても、優しい声を出していても、殺気がダダ漏れじゃない。修行が足りないんじゃないかしら》
 ケタケタと笑う松子の声は、《キカイ》の三人にしか聞こえない。陽一が、苦笑した。安明が腹を立てているのも無理はない。ただでさえ、安明はこの手の依頼が嫌いだ。それなのに、全員が約束の時間より大幅に遅刻をしてくるという状況になっていたのだ。昼過ぎに集合予定が、夕方になって、ようやく三人集まった。残りの一人は、まだ来ていない。
「はい……。その日から、それぞれおかしいことが起こるようになって……。全員に、同じ知らない番号から着信が入ったりもして……。今日だって、約束の時間より早く合流する予定だったんです。朝から全員で連絡をとっていたのに、なぜか、何もないところで自転車がパンクしたり、原因不明で電車が止まったりして」
 そう話す、三人の目の下には、濃いクマができている。追い込まれていたのか、最初は、誰も話し出そうとせず、お互いが言い訳を繰り返していた。
「もう一人も、もうとっくに着いているはずなんです。家を出るまでメッセージのやり取りをしていたから、間違いないのに……」
《見事な妨害ね。そんなに、ここに来させたくないのかしら。まぁ、三人の実力を見れば当たり前だけど》
 松子の言葉に、安明と陽一が、こっそりと頷いた。
 それと同時に、ピロン、と、三人のスマホが同時に鳴った。
「えっ……!?」
 安明に確認して、スマホを見た三人が、顔面蒼白になり固まる。一人は、スマホを落として、震えながら頭を抱えている有様だ。
「あの、あの……!! もう一人から、今、メッセージが来たんですけれど……!!」
 そう言いながら差し出されたスマホを、安明と陽一がのぞき込んだ。松子も見たそうにしているが、虎之助の膝から動くわけにはいかないので大人しくしている。
 
【ねぇ、三人とも、まだ着かないの? もうチェックインの時間だよ? フロントで待ってるね】
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