共に生きるため2

Emi 松原

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~新たなる出会い~

「守我くん・・・今から・・・・・。」
由岐の言葉を守我は無言で頷き遮った。
そのままパソコンを操作し,何かを打ち込み始める。
由岐は,何も言わず守我の様子を見つめていた。

【ガタガタ・・・ピー】

プリントアウトされて出てくる,何枚かの紙。
守我はそれを由岐に渡した。

「この紙に,今から貴方が何をすべきかすべて書かれています。しかし,これは一時のしのぎでしかない。私は,数日間戻りません。何処に行ったかなんて,推測しないでください。私が戻ったら,また本格的に行動を起こします。万が一不足の事態が起きたら,私の携帯に連絡をしてください。」
由岐に質問をさせる暇も与えず,守我は外へと出ていった。

守我はパソコンで調べた,あの住所へと車を走らせていた。
様々なことを考える守我。
自分が今見ている世界。
自然は少なく,人間達が我が物顔で歩き,互いに傷つきあう。
それが当たり前のこと。変えることなどできない。
そして,多くの人間を消そうとした自分。
それでいい。それでいいんだ。


けど・・・・けれど,もしも・・・あの世界が現実でも作れたら・・・・。

何時間もほとんど休憩を取らす,守我は車を走らせた。
いつの間にか,コンクリートで固められた景色ではなくなっていた。
民家は少なくなっていき,昔ながらの家が目立っている。
広く,何処までも続いているのではないかと思わせる田んぼと山道。
守我は,何処かで車を止めなければと考えていた。
それと同時に,自分は何処へ行こうとしているのかも考えた。
与えられた住所のみでここまで来た。
その場所に何があるのか分からない。
建物があるのかすら分からない。
人が居るのかさえ・・・・。

ふと守我は,前方に建物が見えてきたことに気が付いた。
都会から見たら小さいが,この場所からその建物はとても大きなものに感じられた。
車で近づく守我。
とても薄い黄緑色をした建物。広い庭があり,薄く雪がつもっている。
裏の方では,動物も飼っているようだ。
小さな畑もある。
建物の中から,子供達の笑い声が聞こえてきた。

守我は小さなスペースに車を止めて,車から降りた。
建物には,《児童養護施設・夢の華》と書かれていた。
その下には,《自然保護団体,フラワー・ドリーム》とも書いてある。
守我にはここが何処か分かった。
フラワー・ドリームの拠点だ・・・・・。
建物の中に居た子供が,守我に気が付いたようだ。誰かを呼んでいる声が聞こえてきた。
守我が立っていると,建物の中から,若い女が現れた。
守我は,その女が誰だか知っていた。
フラワー・ドリームの代表・・・千歳夢華だ。
たしか同じ年だったはず。守我はフラワー・ドリームのデータを思い出していた。
しかし夢華は,守我がどういう人間か知るはずもない。
微笑みながら,夢華は守我に近づいた。

「いらっしゃいませ。お客様ですか?」
明るいが優しい声で,夢華が守我に問いかけた。
「いえ・・・・この住所へ行きたくて来たんですが・・・・。」
守我は夢華に,住所の書いたメモを見せた。
メモを見る夢華。
「あぁ,この場所は神社ですよ。人は居ないので無人の神社ですけど・・・そんなところに,用事でもあるのですか?」
少し心配そうに,夢華が聞いた。
「いえ・・・僕は,古い神社を回るのが趣味で・・・。それに森林浴も好きで・・・・・。」
守我はとっさに,そんな言葉で言い訳をしていた。
夢華が微笑んだ。
「それでですか。車で行くには厳しいと思いますから,ここに車は止めていてもいいですよ。そんなに遠くないですから。森林浴は本当に気持ちいいですよね。神社に人はいませんけど,森林浴をするには最適の場所ですよ。今はもう軽く雪が積もっていますけどね。」
そう言いながら,夢華は守我のメモに簡単な地図を書いた。
「ありがとうございます。」
お礼を言うと,守我は地図を見ながら神社へと歩いていった。

しばらく歩くと,神社に到着した。
無人だが手入れはされているみたいだ。きっと,フラワー・ドリームが手入れをしているのだろう。そう守我は考えた。
境内に座り込む守我。
周りは木々に囲まれている。
守我は落ち着いて,大きく深呼吸をした。
冷たい空気が守我の体に入っていく。
木は,今は裸でちらほらと雪が積もっている。
もう一度,守我は深呼吸をした。
「迷い苦しみ無に返り・・・・・・。」
この場所を教えてくれた,髪が銀色の女性が言っていたことを守我は思い出していた。

突然,風が吹いてきた。
寒さを感じる守我。
ざわざわと,木が揺れる。
ふと守我は,神社の裏に回ってみたくなった。
なぜか,行ってみなければいけない気がした。
1人で,ゆっくりと歩き神社の裏に回る守我。
特に何かあるわけでもなかったが,守我は周辺をしばらくうろうろしていた。
何かが見つかるはず。そんな気がして・・・・。

そして守我は見つけた。
細く伸びる,あの獣道を。
何も考えず,守我は獣道を歩いた。冬の初めで,まだそこまで雪が積もっていなかったため,何の問題もなく進むことができた。
迷うことなく,守我は進んだ。何かに導かれるように・・・。
 

いきなり,守我の目の前に公園の様な場所が現れた。
何もなかったが,この空間だけぽっかりとあいたように,スペースができている。
真ん中に立っている,一本の大きな木・・・・・。
守我はそれを見た瞬間,目を奪われた。
その木だけ,葉っぱが茂っていた。
銀色に輝く葉っぱが・・・・・。
こんな光景,見たことない。
こんなことあるはずが・・・・・・。しかしこれは現実のこと。
守我は木に近づいた。
輝く葉を見つめながら,守我はまた深呼吸をした。
そして,木の根本に座った。
どのくらいの時間,そうしていただろうか。
そらはもう暗くなり始めていた。
守我は,それでも座っていた。
何も考えず,無に返ったように,自然のなかで・・・・。
ふと守我は,人の気配を感じて顔を上げた。
 
夢華と,男が1人こちらに向けて歩いてくる。
あの男は,フラワー・ドリームの副代表。
朝日奈・・・・朝日奈優姿だ。
心配そうに,少し安心したように守我に駆け寄る二人。
「大丈夫ですか?あまりにも遅いので神社に行ったんですけど居なかったものですから・・・・。見つかって良かった。」
夢華が安堵の声を漏らした。
守我は,自分の胸の中が暖かくなっていくのを感じていた。
自分のことを,本気で心配して探しに来てくれたんだ・・・・。
自分は,夢華達と一番の対立の立場に居るもの。そんなこと夢華は知らないが,純粋に,探しに来てくれたのだ。
初めて会った人間なのに・・・。

「寒かったでしょう。俺のですが,よければどうぞ。」
そう言って,優姿はジャンバーを守我の肩にかけた。
「ありがとうございます・・・。」
守我がつぶやいた。
「不思議でしょう?この場所。」
夢華が守我に聞いた。
「はい。こんな木,見たことも聞いたこともありません・・・。」
答える守我。
「こんなこと,いきなり言うのもなんなんですが,この木のことは,絶対に外部に漏らさないでもらえますか?この場所を俺たち以外で見つけたのは貴方が初めてです。もしこの木が外部にもれたら,ここの自然は・・・・・。」
優姿の言葉に,守我は頷いた。
「分かっています。この自然は壊され,人間達の好奇心の目にさらされる・・・・。大丈夫です。」
守我の言葉に,優姿は微笑んだ。
「どうしてこの場所に?」
笑顔で,夢華が聞いた。
「分からないんです。何かに導かれるように・・・・。」
守我が答えた。
夢華と優姿は目を見合わせた。
ゆっくりと,夢華が守我を見た。
「紹介が遅れましたね。私は,夢華。こっちは優姿。児童養護施設の経営兼自然保護団体として活動しています。」

「あの・・・テレビで何度か見たことがあります。僕は守我です。夢華さんとは,確か同い年です。」

「まぁ,そうなんですか!!」
嬉しそうに笑う夢華。
守我も,少しだけ微笑んだ。
今,守我は本来の自分に戻ったような気がしていた。
生き残るために作られた,作り上げてきた自分ではなく,本当の・・・心の奥の奥に居た,自分でも気が付かなかった自分に・・・・。
まるで辛さは全て消され,自然の力が,守我を浄化し,癒したかのようだった。

守我はまた木を見上げた。

「守我さん,貴方は,妖精を信じますか?」
いきなり,夢華が守我に聞いた。
「妖精・・・・ですか・・・・・。・・・考えたことがないです。」

「そうですか・・・。私,昔この場所で妖精に会ったんです。・・・信じてもらえないかもしれませんけど,私はその妖精から色んなことを学びました。」
守我と同じように木を見上げる夢華。
優姿も木を見上げた。
「・・・・信じますよ・・・・・・。今の僕なら・・・・。」
守我がつぶやいた。
そして夢華の方を向いた。
「貴方はそれで自然保護団体を・・・?」
夢華はまた微笑んだ。
「そうかもしれません。私はその経験の後,無条件での愛情を子供達に与えられる施設を作りたいと思い,大学在学中に資金を貯め,卒業と共にさっきの施設を作りました。」
そして夢華は優姿を見た。
優姿が続けた。

「俺も,夢華の夢を応援してサポートしていました。そして,俺は自分の夢も夢華と様々な人のサポートを借りて実現させました。簡単に緑を増やせる・・・・植物を育てることができる道具を作ることに成功したんです。」

守我は黙って聞いていた。
自分と同年代の者の言葉を,こんなに真剣に聞くなんて,さっきまでの守我からは想像もできないことだった。

「私たちはしばらくして気が付いたんです。子供達に愛を与えること。そして自然の素晴らしさ。これらを合わせればより良い活動ができるのではないかと・・・。いつか,みんなが笑顔で暮らせる世界ができるのではないかと。そうして作ったのが,自然保護団体フラワー・ドリームなんです。」
夢華の言葉に,守我が頷いた。
「けれども私たちは,お金も地位も権力もない普通の人間でした。貯めたお金も,施設を作ることに使っていましたし,優姿に入るお金も,運営費やらなんやらであまり残らない現実があったんです。悩んだことも沢山ありました。けれども,悩むたびに二人でこの場所に来たんです。」
夢華が木の幹に触れた。
そしてまた守我を見て,話始める。
「この場所にいると,とても暖かい気持ちになるんです。そして分かったんです。何か大きなことをしようとしたとき,いきなり実現できるわけがない。自然は・・・。木も,花も,最初は種から始まり,ゆっくりとゆっくりと根を張り,上へ伸びるんだって・・・。」

守我も木の幹に触れた。
なぜだか,守我の心は今までにないくらいに穏やかだった。

「私たちは,一つずつ目の前のことに取り組み,子供達と共に学び成長し,自然の中で生きていました。どんな人も必ず心があり,背景があり,未熟な部分がある。憎まれることもある,恨まれることもある。それでも前を向いて,まずは自分たちが生きてみよう・・・。心からの笑顔を,自分ができるように・・・そしてその気持ちを人に伝えられるように・・・。そんな気持ちを思いだしたんです。」

なぜだか分からないが,守我の胸になにかあついものがこみ上げてきた。
こんな気持ちは初めてだった。
その気持ちがなんののか分からないまま,守我は夢華の続きの言葉を待った。

「それからほんの小さな活動に力を入れるようしました。植林のボランティアや,施設の交流会・・・。すると,1人・・・また1人と助けてくれる人が,共感してくれる人たちが現れたんです。最初は友達,そして親に,施設の子供達が・・・・。施設の子供達からその友達に伝わり,その子達の親まで協力してくれるようになりました。そしていつのまにか・・・・。国内最大と言われる自然保護団体になったんです。・・・周りの人に,全ての人に,感謝してもしきれません。」
夢華が言いきった。

そして少し不安そうな顔で守我を見た。
「すみません。会ったばかりなのにいきなりこんな話を聞かせて・・・・。けれども,貴方がこの場所に・・・私が妖精に出会い,人と人とのつながりを教えてもらうきっかけとなった場所に来たのは,なんだか意味のあることだという気がするんです。」

ゆっくりと,守我はうなずいた。
「貴重なお話をありがとうございます。なんだか,僕もこの場所に来たことはとても大きな意味があるように思うんです。」

「・・・・もしよければ,今晩うちに泊まってください。もう暗いですし,明日,もっと明るいときにこの場所に来てみましょう。」
守我の言葉に,優姿が答えた。

会ったばかりの見ず知らずの人間に,こんなに優しくできる二人に,守我は少し戸惑っていた・・・・。
そのなかに感謝の気持ちが混じっていたことに,守我はまだ気づいていなかった。
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