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~仲間割れ~
妖精界に戻って,すぐに冬美は病院へ運ばれた。
草多も治療を受け,周りが休めと言うのに一切耳を貸さず,冬美の側で看病を続けていた。
今,大分冬美の呼吸は落ち着いている。
まだ意識は戻っていないが,もう命に別状はない。
「草多,あたいらが付き添ってるから,少し休めよ。なにかあったらすぐ起こすから・・・。」
秋美が冬美の側から離れようとしない草多に言った。
「・・・問題ない。」
動こうとしない草多。
「けど・・・・・。」
秋美が言いかけたその時,海起がフウッと息を吐いて言った。
「秋美,草多の好きにさせてやれ。俺達は,一旦大聖堂に戻ろう。」
海起が草多の肩を持つ。
「何かあったら,すぐ連絡しろよ。・・・こっちも大聖堂の様子とか,連絡入れるから。」
海起の言葉に草多がうなずいた。
まだ何か言いたそうな秋美を連れて,海起は病室を出ていった。
冬美の手を握る草多。
命に別状はないと言われても,不安で不安でしょうがない。
もし冬美が起きなかったら・・・・。
そんな考えを頭から追い出すように冬美の手を強く握って,冬美を見つめる草多。
しばらくすると,冬美の目が微かに動いた。
とっさに立ち上がって冬美を覗き込む草多。
「冬美!!冬美!!!」
草多が冬美の名前を呼んだ。
「ん・・・・ん~??」
ゆっくりと,冬美が目を開いた。
少しまぶしそうに,目を細めている。
「冬美,俺が分かるか・・??」
草多が優しくゆっくりと問いかけた。
「・・・草多?」
冬美がぼんやりと答える。
「冬美・・・・・よかった・・・・・・。本当に,よかった・・・・・。」
草多の目から,涙がこぼれ落ちた。
「・・・・・草多??なんで泣いてるの?誰かに泣かされた??冬美が,こらしめてあげるよ・・・。」
まだ意識がもうろうとしている冬美が,首をかしげながらかすかな声で言った。
「・・・・・もう・・・・・・。冬美ったら・・・・・。」
ニッコリと,草多は笑った。
冬美が起きたと聞いて,何人もの妖精,精霊が順番に病室を訪れた。
冬美はまだ体を起こせないが,微笑んで応対する。
草多はそんな冬美の側をずっと離れようとしなかった。
夜は冬美のベッドの隣のベッドを借りて眠り,冬美の体調が悪くなるとずっと側で背中をさすり続けた。
何日かすると,冬美は少しずつ体を起こせるようになっていった。
まだ安静が必要で,ベッドの上から動けないが,それでも冬美は周りの支えで少しずつ回復している。
そんな時,大精霊様が冬美の病室を訪れた。
「冬美の調子はどうかの??」
大精霊様が聞いた。
「大丈夫です。・・・ご心配おかけしました。」
冬美が小さな声で言った。
「ふむ。無事で本当によかったぞよ・・・。」
ほっとしたように大精霊様が言う。
「大精霊様,あれからどうなったんですか?」
草多が大精霊様に聞いた。
「今,情報を集めておるのじゃよ。人間界に仕事へ行く妖精を総動員してじゃ。・・・ついに,決断の時が来たの。情報が完璧に集まり次第,・・・明日の朝くらいに種子蕾隊の会議を開くからの。」
暗い顔をした大精霊様が,草多と冬美に言った。
「わかりました・・・・・。」
草多が答える。
大精霊様は,そんな話をするとすぐに大聖堂へ戻っていった。
妖精界に,また夜が来た。
安定した呼吸をしながら,眠っている冬美。
そんな冬美の横で,草多は冬美を見つめながら座っていた。
もう冬美の顔に傷は一切残っていない。
「・・・・・う~・・・むにゃむにゃ・・・ふふふ。」
寝言を言う冬美。
それを見て草多は微笑んだ。
冬美の寝相が悪くてはぐれそうになっている布団を直す。
・・・冬美は生きるか死ぬかのせとぎわだった。
また椅子に座って草多は考える。
あの日の朝は,普段通りだったのに・・・。
人間のせいで・・・・・・・・・。
今まで,人間界で妖精が死んでも,人間を見捨てようとは一度も思わなかった。
人間には妖精が見えないから,人間だって必死で生きて居るんだから,しょうがないと・・・。
俺達で頑張れば,必ず共存できるはず・・・。そう思っていた。
それなのに,それなのに・・・今回の事はなんなんだ!!
いきなり,木葉と樹里が死んだ。
逃げる暇も与えられず,恐怖も感じず,一瞬のうちに・・・!!
今からの未来をになっていく,大事な後輩だった。
俺のチームに入ってから,誰よりも俺を慕ってくれ,冬美を慕ってくれていた。
木葉と樹里は昔の俺と冬美に似ている・・・。周りからそう言われていた。
力は強くないが安定した力を持っていて,心が優しかった木葉。
力は強いのにコントロールが苦手で,よくドジをするが明るかった樹里。
そんなことも,人間には分からない。
二人は,確かに生きていたのに!!!!
戦争をしようとしている人間は,そんな事も知らないんだ!!知ろうとも思わないんだ!!!!!
怒りの感情が草多の中でこみ上げてくる。
「むにゃ・・・そうたぁ,ご飯まだぁ・・・?」
冬美の寝言でふと我に返る草多。
・・・もし冬美も死んでいたら・・・。
確かに冬美は自分の身を守ることもできた。
逃げることもできた。
けど人間が戦争なんて考えなければ,氷河さんが死ぬこともなかった。冬美がこんなことになることもなかった。
・・・氷河さんは最後に,俺に冬美を頼むと言った。
草多の目が鋭くなる。
・・・明日の朝,妖精の行く末が決まる。
・・・もう,絶対に,人間なんかに冬美を傷つけさせるものか・・・・!!
栄枝は夜なのに大聖堂の緑の精霊の部屋にいた。
今大聖堂では昼夜を問わず,精霊達と一部の妖精達が居る。
椅子に腰掛けて,机の上の写真立てを手に取る栄枝。
一番左が有水,真ん中が氷河,右が栄枝。
三人で肩を組んで,笑っている。
栄枝と有水と氷河が妖精になったすぐの頃だ。
・・・学生時代,有水と氷河は仲が良い反面よく喧嘩してたな・・・。
栄枝は懐かしい時代を思い出していた。
あの頃は,何にも分からなかった。
人間のことも,精霊のことも・・・。
悩みと言ったら,呪文がうまくできないだとか,宿題が多いだとか,誰かと喧嘩しただとか・・・・そんなことばかりだった。
三人いつも一緒で,チームを組んでからは最強チームと言われていた。
・・・俺の手で,氷河を自然に帰した。
赤と黒の世界になった,あの場所へ。
俺の手で・・・・・・。
机の中からアルバムを取り出す栄枝。
パラパラとめくっていき,ふと手を止めた。
木葉と樹里の,妖精学校卒業式の写真だ。
淡い髪の毛をして笑っている二人。その二人の後ろで,微笑んでいる草多。
またページを何枚かめくる。
まだ学生だった大樹,その隣で笑ってポーズをとっている光樹。
微笑む栄枝。
だがすぐに現実が襲いかかる。
光樹も,氷河も,木葉も,樹里も,もう居ない・・・。
この笑顔は写真の中でしか見ることができない。
・・・この思いでの中だけで生きていきたい・・・。
そう思いながらまたページをめくる。
大樹と水湖,それに海起と草多がチームを組んだときの写真。
冬美と草多が,二人で笑っている写真。
周りに無理矢理二人にされた,海起と秋美の写真。
秋美はとびきりの笑顔で,海起は真っ赤になっている。
春美,夏美,秋美,そして冬美の四季の妖精で撮った写真。
鈴蘭,睡蓮,再雪がお洒落をして微笑んでいる写真。
麻美と有樹が,慣れない仕事を頑張っている写真。
・・・こいつらを,見捨てるわけにはいかないんだよな・・・。
俺の,大事な部下と後輩達。
・・・人間をうらんでも,どうにもならない。
何人もの妖精が死んで,そのたんびに人間を恨んだ。
けど今は・・・・・。
恨んだって,戻ってこないことを何度も実感している。
【コンコン】
ドアがノックされた。
栄枝は慌ててアルバムをしまった。
「栄枝さん,明日の朝の種子蕾隊の会議のため,準備をお願いします。」
妖精が入ってきた。
「分かった,すぐ行くよ。」
栄枝はゆっくりと立ち上がった。
有水は自宅に居た。
この数日,ほとんど家に帰っていなかった。
ベッドに横になる有水。
ずっと寝ていなかったため,体はかなり疲れているはずなのに,なかなか寝られない。
目をつむると,赤と黒の世界が思い返される。
・・・草多と冬美が死ななくて,本当によかった・・・。
目の前で,二人が死んでしまうかと思った・・・。
うつらうつらとする有水。
真っ暗で,穏やかな海が目の前に広がっていた。
いつものように,海と共に過ごしていた。
突然場面が変わる。
「有水!!海起と水湖を連れて早く妖精界へ戻れ!!急ぐんだ!!!!」
男の精霊らしき人が叫ぶ。
あの人は・・・海起の親父さん・・・。
呆然として見つめる有水。
「嫌です!!!!俺だって,俺だって海の妖精です!一緒に海を守ります!!」
叫んでいるのは・・・・俺だ・・・・。
「とうさぁん!!嫌だよう・・・!!」
泣き叫んでいるのは・・・・・海起?
「俺も残ります!!」
髪の色がまだ淡い・・・・水湖だ・・・・。
なぜ??
なぜ目の前に俺が居る?
「有水・・・・!!」
俺が海起の親父さんに抱きしめられている。
「生きるんだ。有水。水湖と海起を連れて,生きるんだ。お前達が,この世界を変えていくんだ。生きて,変えるんだ。特別な力なんていらない。自分の想いと,行動,そして仲間の力で変えるんだ・・・!」
「嫌です・・・・!!」
泣いている俺。
「死ぬことより,生きることの方が,比べ者にならないほど辛い・・・。だがな,比べ者にならないほど素晴らしいんだ・・・。頼む,若いお前達に,俺は未来を託したいんだ・・・・・。・・・・有水!!水の精霊である私からの命令だ!!水湖と海起を連れて今すぐ妖精界へ戻れ!!そして生きろ!!」
親父さんを見つめている俺。
「嫌だ!!嫌だ!」
と暴れる水湖。
泣き叫び続ける海起。
俺は・・・・俺は・・・・・・・。
海起を抱きかかえ,水湖の手を無理矢理引いてその場を去っていった・・・・。
また場面が変わった。
真っ暗な闇。
俺は未来を,何一つ変えられない・・・・・・。
目の前で後輩が死にかけていたのに,俺は・・・・・。
暗闇が,明るくなった。
・・・ここは・・・妖精学校・・・?
辺りを見回す有水。
「細かいことをうっせーんだよ,有水は!!」
「氷河が適当すぎるんだろ!!」
「まぁまぁ,二人とも落ち着いてよ。」
「栄枝はどっちが正しいと思うんだよ!!」
・・・・・俺と,栄枝と・・・氷河・・・?
髪の毛が,黒い・・・。
「俺はどっちもの味方だよ♪」
微笑んでいる栄枝。
「・・・・・ごめん。」
謝る俺。
「・・・・俺も。」
素直に謝れなくても態度で示す氷河。
草原で寝転がる三人。
「あー,もうすぐ卒業だな!!」
俺が言った。
「氷と,水と,緑の俺達がそろったら,最強だ!!なかなかそろえないかもしれねぇけど,俺達にはそんなの関係ない!!」
氷河・・・・。
「大人になった僕たちは,何をしてるのかなぁ。」
まだ自分の事を僕と呼んでいた栄枝。
「さぁな!!わかんねぇけど,確かな事が一つだけあるぜ!」
「何,氷河?」
首を傾げる栄枝。
「俺達三人は,最強チームで名をはせてるってことだ!!」
笑う三人・・・。
氷河・・・・・・栄枝・・・・・・・。
「水・・・・有水・・・。」
俺を呼ぶ声・・・・・?
ハッ!!として起きる有水。
「俺・・・・・?」
「大丈夫?うなされていたようだけど・・・・。」
蒲公英が有水を心配そうに見つめながら言った。
「蒲公英・・・・?なんでここに・・・?」
状況が把握できずに戸惑う有水。
「時間になっても,来ないから迎えに来たの。種子蕾隊の会議の時間がもうすぐだよ。合い鍵で入ったらうめき声が聞こえて・・・・。」
蒲公英の言葉に,時計をみる有水。もう朝だ。
・・・寝てたのか・・・。
ベッドから起きあがった。
ジェネレーション確保のために一緒に戦ってから,有水と蒲公英はよく一緒に仕事を任されるようになっていた。
「・・・ごめん,行こう。」
外に出る有水と蒲公英。
有水は空を見上げた。
・・・・・・・・妖精にとって,明るい未来を作るのは・・・・俺だ。
「お願い草多,連れて行って・・・・。」
病院のベッドの上で,草多に頼む冬美。
「駄目だ。いつ体調が悪くなるか分からないだろ。昨日だって辛そうだったじゃないか。」
「絶対に無理しないから・・・辛くなったら,すぐに言うから・・・・。」
考え込む草多。
「・・・絶対に,我慢しないか?」
冬美に確認する。
「我慢しない!!だからお願い・・・・。」
「・・・しょうがないなぁ・・・・。」
冬美に肩を貸す草多。
「少しでも辛くなったら,すぐに言えよ。・・・もし我慢なんかしたら,強制的に病院へ戻すからな。」
少し強く,冬美に言う草多。
しっかりと,冬美がうなずいた。
それぞれの想いを胸にはせ,大聖堂で会議が始まった。
「さて,会議を始めるかの・・・・。」
いつにもまして真剣な顔で,大精霊様が言った。
大聖堂に集まった,種子蕾隊のメンバー。
誰一人として,口を聞かない。
「まずは確認するでの・・・。妖精の選べる行く末は三つじゃ。自然と共に死ぬか。自然と人間を捨て,妖精界のみで生きるか。犠牲を覚悟で共存の道を求めるか。」
大精霊様が会場を見渡した。
「あたいは・・・あたいはやっぱり人間と共存したい。」
秋美が言った。
「ふむ・・・。海起、そちは前回人間を見捨てたいと言っておったが、今はどうじゃ??」
海起を見ながら大精霊様が言った。
「俺は・・・・俺は、もう仲間が死ぬのは見たくないです。けど、人間を見捨てるのも、やはり嫌です。だから、共存の道を探したいです・・。」
海起が、ゆっくりと言った。
「ふむふむ・・・・。・・・ほかの者はどうかの?」
しばらく考えたのち、大精霊様が聞いた。
「人間を見捨てたいです。俺は、人間を見捨てます。」
その言葉に、種子蕾隊のメンバーが一斉に声のする方向を向いた。
そう言ったのは、草多だった。
「草多!?」
秋美が驚いて声をあげる。
冬美も驚いた様子だが、黙って草多を見つめていた。
全員が、草多に注目している。
草多が静かに、だがはっきりと語り始めた。
「過去にも人間達の戦争がありました。自然は死に、多くの妖精たちが死にました。そこから、人間も妖精も必死で頑張って今があります。それなのに、人間はまた同じ過ちを・・・それも、以前とは比べ物にならないくらいの規模で自然を破壊しようとしています。」
大精霊様をはじめとするメンバーたちがうなずく。
「・・・木葉と樹里は、一瞬にして死にました。死ぬ直前まで、いつものように笑っていたのに・・・。そしてその後は、氷河さんが・・・それに冬美が大きなダメージを追いました。これからさらに犠牲が出ることは間違いありません。人間界にもう安全な場所なんて、自然を栄えさせることができる場所なんてないんです。・・・人間界を見捨て、人間を見捨て、妖精界の中だけで生きるべきです。」
草多が言い切った。
「じゃあ、人間が死んでもいいのかよ!?なんとも思わないのかよ!!??」
秋美が草多に大きな声をあげた。
「・・・思わないね。」
草多が冷たく言った。
「・・・・・。」
黙る秋美。
「今まで、何人もの妖精が死んだ。人間のせいで。それでも俺たちは必死で共存しようとした。なのに人間はこれだ。もうどうしようもない。いくら人間に妖精が見えなくとも、自然が生きていることくらい分かるはずだ。戦争をしようとしている奴らも、無関心な奴らも、みんな見捨ててしまえばいい。・・・俺たちが生きていたら、自然はやり直せる。だがな、人間だけが居た所で、自然は戻らないんだよ。そのことを、嫌というほど実感させればいい。」
秋美を見ながら、草多が言った。
何も言えない秋美。
「草多・・・落ち着けよ・・・。秋美の気持ちだって分かるだろ・・・?今のお前は、感情の向くままに発言してるぞ。お前らしくない・・・。」
海起が二人の間に割って入った。
「じゃあ・・・・じゃあ海起・・・・お前は、もし怪我したのが・・・死にかけたのが、秋美でも、同じことが言えるのか・・・?」
ゆっくりと草多は言ったが、草多の言葉には大きな怒りがこもっていた。
ほかの妖精たちは、どうすることもできずに、必死で考えながら様子を見つめていた。
大精霊様と精霊たちも、じっと草多たちを見ている。
「それは・・・。」
海起も反論できなくなる。
「どうなんだよ!!!!海起!!!!!!!!!!」
草多が怒鳴った。
「草多・・・・。」
栄枝が立ち上がった。
「これは話し合いだぞ。お前の気持ちはよく分かった。だから、一旦座ろう。」
栄枝の言葉に、草多は一旦座った。
「俺も、草多の意見に賛成です。」
有水が、大精霊様を見ながら言った。
「有水・・・・!!」
悲しそうに、栄枝が有水を見た。
そんな栄枝と目を合わせない有水。
「・・・でも、人間界を見捨てたら、前に秋美が言ったように何千年も何万年も生きてきた自然も死んでしまいます!!俺たちが見えていた人間も、死んでしまいます!!!」
海起が有水に言った。
「・・・わたくしたちは以前人間を殺そうとしました。けど今はそれを激しく後悔しています。争いからは何も生まれない。恨んだって、人間を殺したって、結局は自分が苦しむだけですわ・・・」
鈴蘭の言葉に、睡蓮と春美がうなずいた。
「・・・けどそれは、今回冬美が生きていたから言えるんじゃないのかな・・・。草多の言ったように・・・。だって,もし冬美が死んでいたら・・・私・・・・・。」
再雪がうつむきながら言った。
「妖精界の中だけで生きて、戦争が終わるのを・・・人間が居なくなるのを、待てばいいと思います。そこから、また新しく始めればいい。人間に手を出すわけではないから、誰も罪に問われない・・・。」
夏美もそう言いながらうつむいた。
黙って聞いている水湖と大樹。
「自分たちだけよければ・・・自分の仲間が傷つかなかったら、それでいいのかよ・・・!!そんなの人間と同じじゃねぇかよ!!!!!」
叫ぶ秋美。
一瞬会場が静まり返った。
「それなら、これ以上犠牲が出てもいいって言うんだな?」
草多がまた立ち上がった。
「おい草多!お前秋美ばかり攻撃しすぎだぞ・・・。秋美だって辛いんだか・・・・・」
「辛いのは誰だって同じだ!!俺はもう二度と人間ごときに冬美を傷つけさせない!!冬美を人間界なんかに行かせない!!!もう二度と、仲間を殺させない!!」
続きを言いかけた海起を、草多がさえぎった。
「全員そうだ・・・今まで数え切れないくらい辛い思いして、そのたびに周りの支えと自分の努力で乗り越えてきた・・・。けど今、今自分の目の前に居る大切な人が人間の作った兵器で一瞬にして意味もなく死んだら・・・・・・それでも、共存しようなんて言葉が吐けるのか!!??」
草多が会場を見渡した。
目に涙をためて歯をくいしばる秋美。
海起が秋美の肩を抱いて、栄枝と同様悲しそうに草多を見た。
そんな海起をにらみつける草多。
「・・・・・草多・・・・もういいかげんにしてよ!!!!」
黙って様子を見ていた冬美が、突然大声を上げる。
全員目線を冬美と草多に移した。
「冬美・・・。」
草多がつぶやく。
「草多が私の事をそこまで考えてくれてるのは本当に嬉しい!!けど、今草多はみんなを傷つけてる!!!!そんなの、草多じゃない!!!私の大好きな、草多じゃない!!!・・・みんなそうよ!自分の意見だけを言って、違う意見の者を攻撃する・・・それこそ、人間よ!・・・・・・・・こんな妖精なんて・・・・こんな妖精なんて、人間と自然と共に滅んでしまえばいい!!!!」
泣きながら、冬美が叫ぶ。
「冬美・・・落ち着けって・・・・・そんなに叫んだら体が・・・・。」
冬美の言葉で我に返った草多が、冬美に近づく。
「氷河は・・・・なんのために死んだのよぉ!!!なんのためにジェネレーションのメンバーは全員隔離室に入ったのよぉ・・・!!木葉と樹里は・・・どうして・・・・・・はぁ、はぁ・・・。」
それでも泣き叫び続ける冬美。
冬美の呼吸が一気に荒くなる。
椅子からずり落ちそうになった冬美を草多が抱きかかえて背中をさする。
「冬美、もう分かったから、病院に帰ろう・・・。」
「はぁ・・・はぁ・・・。嫌!!分かってない!!!」
首を振る冬美。
「草多・・・もうすぐ終わるでの。冬美も残らせてやるのじゃ。」
じっと黙って聞いていた大精霊様が口を開いた。
軽くうなずいて、草多は黙った。
手だけは絶えず冬美の背中をさすっている。
「さて・・・わしの考えを言わせてもらっていいかの??」
微笑みながら、大精霊様が言った。
全員が静かにうなずく。
「わしはの・・・皆が同じことをしなくてもいいと思うのじゃ。決まりを守る上で、皆がそれぞれ自分の意思で、動いてもいいのではないかとのう・・・。それはじゃな、どの道をとっても傷つき、後悔する可能性が高いからじゃ。誰が死んでも、もうおかしくないからじゃ・・・。そうすれば、妖精達で争う必要もないのう。・・・人間の心になると言ったら分かりやすいかの・・・。」
悲しそうに大精霊様はまた微笑んだ。
しばらく、全員が黙って考え込んでいた。
「あたいは、何を言われても共存の道を探す。・・・本当は草多の言ってることに納得してる。けど、あたいは人間と自然を見捨てたら必ず後悔する。共存の道を探して、仲間が死んだら、もっと後悔するかもしれない。それでも、みんなが幸せになる可能性を捨てたくない・・・。」
秋美が落ち着いて、全員に向かって言った。
「俺も共存の道を探します。でも俺は、人間のためにそうするのではありません。仲間と自然を守るために、そうするんです。何を言っても進み続ける、仲間のために・・・。」
秋美をちらりと見ながら、海起も言った。
「それなら、俺もそうだな♪決意の変わりそうにない、仲間のために人間の戦争をやめさせなきゃぁ」
笑顔で海起を見ながら水湖が言う。
「まっ、一途な後輩を持ったら苦労するな。」
そう言いながら笑って海起と水湖を見る大樹。
「私たちも、男たちに負けてられないなっ!!秋美ちゃんだけじゃ何しでかすか分からないから、私もやる!!」
空中に飛びながら睡蓮が言った。
女の子達が一斉にうなずく。
「私も・・・・やる・・・。だって・・・・・みんなに、笑顔で・・・結婚式に来てほしいから・・・。誰よりも大好きな草多との、大事な式に・・・・。」
苦しそうに、だが少し微笑んで冬美が言った。
「冬美・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺もやります!人間のためなんかじゃない。・・・・冬美を守るために・・・。」
草多が冬美を見つめながら言った。
「大事な部下と後輩たちが全員やるんなら、もちろん俺もやります。」
栄枝が微笑む。
「俺も同じだ。大事な奴がやるんだから。」
有水が栄枝に向けて言った。
精霊たちも、その言葉にうなずいた。
「・・・全員、人間と共存の道を探すということでいいのかの?」
大精霊様の言葉に、全員が力強くうなずいた。
「よく覚えておくのじゃ。これが、妖精界の者なのじゃ。皆の命は自分だけのものではない。誰もが、そばに自分を思ってくれる者がおるのじゃ。それを素直に表現できて伝えられる・・・過ちも、後悔も、皆で支えていく・・・なによりそれを理解できる。それこそ、妖精なのじゃ!!」
大精霊様が、笑顔を見せた。
「・・・秋美、海起・・・ごめん。」
草多が二人に向かって言った。
「俺もすまん。お前の言うとおりだよ。俺は、秋美が冬美と同じ立場だったら・・・。」
そこまで言って、草多に微笑む海起。
「あたいだってもう気にしてねぇ!おめぇも大事な仲間なんだから!」
秋美も笑顔になった。
「今日はここまでじゃ。次は共存するためにこれから何をするべきか、考えておくのじゃ。冬美、辛いのにすまなかったの。草多、すぐ病院に帰るのじゃ。」
大精霊様の言葉で、全員が動き出す。
草多は冬美を抱きかかえて、病院へ戻っていった。
妖精界に戻って,すぐに冬美は病院へ運ばれた。
草多も治療を受け,周りが休めと言うのに一切耳を貸さず,冬美の側で看病を続けていた。
今,大分冬美の呼吸は落ち着いている。
まだ意識は戻っていないが,もう命に別状はない。
「草多,あたいらが付き添ってるから,少し休めよ。なにかあったらすぐ起こすから・・・。」
秋美が冬美の側から離れようとしない草多に言った。
「・・・問題ない。」
動こうとしない草多。
「けど・・・・・。」
秋美が言いかけたその時,海起がフウッと息を吐いて言った。
「秋美,草多の好きにさせてやれ。俺達は,一旦大聖堂に戻ろう。」
海起が草多の肩を持つ。
「何かあったら,すぐ連絡しろよ。・・・こっちも大聖堂の様子とか,連絡入れるから。」
海起の言葉に草多がうなずいた。
まだ何か言いたそうな秋美を連れて,海起は病室を出ていった。
冬美の手を握る草多。
命に別状はないと言われても,不安で不安でしょうがない。
もし冬美が起きなかったら・・・・。
そんな考えを頭から追い出すように冬美の手を強く握って,冬美を見つめる草多。
しばらくすると,冬美の目が微かに動いた。
とっさに立ち上がって冬美を覗き込む草多。
「冬美!!冬美!!!」
草多が冬美の名前を呼んだ。
「ん・・・・ん~??」
ゆっくりと,冬美が目を開いた。
少しまぶしそうに,目を細めている。
「冬美,俺が分かるか・・??」
草多が優しくゆっくりと問いかけた。
「・・・草多?」
冬美がぼんやりと答える。
「冬美・・・・・よかった・・・・・・。本当に,よかった・・・・・。」
草多の目から,涙がこぼれ落ちた。
「・・・・・草多??なんで泣いてるの?誰かに泣かされた??冬美が,こらしめてあげるよ・・・。」
まだ意識がもうろうとしている冬美が,首をかしげながらかすかな声で言った。
「・・・・・もう・・・・・・。冬美ったら・・・・・。」
ニッコリと,草多は笑った。
冬美が起きたと聞いて,何人もの妖精,精霊が順番に病室を訪れた。
冬美はまだ体を起こせないが,微笑んで応対する。
草多はそんな冬美の側をずっと離れようとしなかった。
夜は冬美のベッドの隣のベッドを借りて眠り,冬美の体調が悪くなるとずっと側で背中をさすり続けた。
何日かすると,冬美は少しずつ体を起こせるようになっていった。
まだ安静が必要で,ベッドの上から動けないが,それでも冬美は周りの支えで少しずつ回復している。
そんな時,大精霊様が冬美の病室を訪れた。
「冬美の調子はどうかの??」
大精霊様が聞いた。
「大丈夫です。・・・ご心配おかけしました。」
冬美が小さな声で言った。
「ふむ。無事で本当によかったぞよ・・・。」
ほっとしたように大精霊様が言う。
「大精霊様,あれからどうなったんですか?」
草多が大精霊様に聞いた。
「今,情報を集めておるのじゃよ。人間界に仕事へ行く妖精を総動員してじゃ。・・・ついに,決断の時が来たの。情報が完璧に集まり次第,・・・明日の朝くらいに種子蕾隊の会議を開くからの。」
暗い顔をした大精霊様が,草多と冬美に言った。
「わかりました・・・・・。」
草多が答える。
大精霊様は,そんな話をするとすぐに大聖堂へ戻っていった。
妖精界に,また夜が来た。
安定した呼吸をしながら,眠っている冬美。
そんな冬美の横で,草多は冬美を見つめながら座っていた。
もう冬美の顔に傷は一切残っていない。
「・・・・・う~・・・むにゃむにゃ・・・ふふふ。」
寝言を言う冬美。
それを見て草多は微笑んだ。
冬美の寝相が悪くてはぐれそうになっている布団を直す。
・・・冬美は生きるか死ぬかのせとぎわだった。
また椅子に座って草多は考える。
あの日の朝は,普段通りだったのに・・・。
人間のせいで・・・・・・・・・。
今まで,人間界で妖精が死んでも,人間を見捨てようとは一度も思わなかった。
人間には妖精が見えないから,人間だって必死で生きて居るんだから,しょうがないと・・・。
俺達で頑張れば,必ず共存できるはず・・・。そう思っていた。
それなのに,それなのに・・・今回の事はなんなんだ!!
いきなり,木葉と樹里が死んだ。
逃げる暇も与えられず,恐怖も感じず,一瞬のうちに・・・!!
今からの未来をになっていく,大事な後輩だった。
俺のチームに入ってから,誰よりも俺を慕ってくれ,冬美を慕ってくれていた。
木葉と樹里は昔の俺と冬美に似ている・・・。周りからそう言われていた。
力は強くないが安定した力を持っていて,心が優しかった木葉。
力は強いのにコントロールが苦手で,よくドジをするが明るかった樹里。
そんなことも,人間には分からない。
二人は,確かに生きていたのに!!!!
戦争をしようとしている人間は,そんな事も知らないんだ!!知ろうとも思わないんだ!!!!!
怒りの感情が草多の中でこみ上げてくる。
「むにゃ・・・そうたぁ,ご飯まだぁ・・・?」
冬美の寝言でふと我に返る草多。
・・・もし冬美も死んでいたら・・・。
確かに冬美は自分の身を守ることもできた。
逃げることもできた。
けど人間が戦争なんて考えなければ,氷河さんが死ぬこともなかった。冬美がこんなことになることもなかった。
・・・氷河さんは最後に,俺に冬美を頼むと言った。
草多の目が鋭くなる。
・・・明日の朝,妖精の行く末が決まる。
・・・もう,絶対に,人間なんかに冬美を傷つけさせるものか・・・・!!
栄枝は夜なのに大聖堂の緑の精霊の部屋にいた。
今大聖堂では昼夜を問わず,精霊達と一部の妖精達が居る。
椅子に腰掛けて,机の上の写真立てを手に取る栄枝。
一番左が有水,真ん中が氷河,右が栄枝。
三人で肩を組んで,笑っている。
栄枝と有水と氷河が妖精になったすぐの頃だ。
・・・学生時代,有水と氷河は仲が良い反面よく喧嘩してたな・・・。
栄枝は懐かしい時代を思い出していた。
あの頃は,何にも分からなかった。
人間のことも,精霊のことも・・・。
悩みと言ったら,呪文がうまくできないだとか,宿題が多いだとか,誰かと喧嘩しただとか・・・・そんなことばかりだった。
三人いつも一緒で,チームを組んでからは最強チームと言われていた。
・・・俺の手で,氷河を自然に帰した。
赤と黒の世界になった,あの場所へ。
俺の手で・・・・・・。
机の中からアルバムを取り出す栄枝。
パラパラとめくっていき,ふと手を止めた。
木葉と樹里の,妖精学校卒業式の写真だ。
淡い髪の毛をして笑っている二人。その二人の後ろで,微笑んでいる草多。
またページを何枚かめくる。
まだ学生だった大樹,その隣で笑ってポーズをとっている光樹。
微笑む栄枝。
だがすぐに現実が襲いかかる。
光樹も,氷河も,木葉も,樹里も,もう居ない・・・。
この笑顔は写真の中でしか見ることができない。
・・・この思いでの中だけで生きていきたい・・・。
そう思いながらまたページをめくる。
大樹と水湖,それに海起と草多がチームを組んだときの写真。
冬美と草多が,二人で笑っている写真。
周りに無理矢理二人にされた,海起と秋美の写真。
秋美はとびきりの笑顔で,海起は真っ赤になっている。
春美,夏美,秋美,そして冬美の四季の妖精で撮った写真。
鈴蘭,睡蓮,再雪がお洒落をして微笑んでいる写真。
麻美と有樹が,慣れない仕事を頑張っている写真。
・・・こいつらを,見捨てるわけにはいかないんだよな・・・。
俺の,大事な部下と後輩達。
・・・人間をうらんでも,どうにもならない。
何人もの妖精が死んで,そのたんびに人間を恨んだ。
けど今は・・・・・。
恨んだって,戻ってこないことを何度も実感している。
【コンコン】
ドアがノックされた。
栄枝は慌ててアルバムをしまった。
「栄枝さん,明日の朝の種子蕾隊の会議のため,準備をお願いします。」
妖精が入ってきた。
「分かった,すぐ行くよ。」
栄枝はゆっくりと立ち上がった。
有水は自宅に居た。
この数日,ほとんど家に帰っていなかった。
ベッドに横になる有水。
ずっと寝ていなかったため,体はかなり疲れているはずなのに,なかなか寝られない。
目をつむると,赤と黒の世界が思い返される。
・・・草多と冬美が死ななくて,本当によかった・・・。
目の前で,二人が死んでしまうかと思った・・・。
うつらうつらとする有水。
真っ暗で,穏やかな海が目の前に広がっていた。
いつものように,海と共に過ごしていた。
突然場面が変わる。
「有水!!海起と水湖を連れて早く妖精界へ戻れ!!急ぐんだ!!!!」
男の精霊らしき人が叫ぶ。
あの人は・・・海起の親父さん・・・。
呆然として見つめる有水。
「嫌です!!!!俺だって,俺だって海の妖精です!一緒に海を守ります!!」
叫んでいるのは・・・・俺だ・・・・。
「とうさぁん!!嫌だよう・・・!!」
泣き叫んでいるのは・・・・・海起?
「俺も残ります!!」
髪の色がまだ淡い・・・・水湖だ・・・・。
なぜ??
なぜ目の前に俺が居る?
「有水・・・・!!」
俺が海起の親父さんに抱きしめられている。
「生きるんだ。有水。水湖と海起を連れて,生きるんだ。お前達が,この世界を変えていくんだ。生きて,変えるんだ。特別な力なんていらない。自分の想いと,行動,そして仲間の力で変えるんだ・・・!」
「嫌です・・・・!!」
泣いている俺。
「死ぬことより,生きることの方が,比べ者にならないほど辛い・・・。だがな,比べ者にならないほど素晴らしいんだ・・・。頼む,若いお前達に,俺は未来を託したいんだ・・・・・。・・・・有水!!水の精霊である私からの命令だ!!水湖と海起を連れて今すぐ妖精界へ戻れ!!そして生きろ!!」
親父さんを見つめている俺。
「嫌だ!!嫌だ!」
と暴れる水湖。
泣き叫び続ける海起。
俺は・・・・俺は・・・・・・・。
海起を抱きかかえ,水湖の手を無理矢理引いてその場を去っていった・・・・。
また場面が変わった。
真っ暗な闇。
俺は未来を,何一つ変えられない・・・・・・。
目の前で後輩が死にかけていたのに,俺は・・・・・。
暗闇が,明るくなった。
・・・ここは・・・妖精学校・・・?
辺りを見回す有水。
「細かいことをうっせーんだよ,有水は!!」
「氷河が適当すぎるんだろ!!」
「まぁまぁ,二人とも落ち着いてよ。」
「栄枝はどっちが正しいと思うんだよ!!」
・・・・・俺と,栄枝と・・・氷河・・・?
髪の毛が,黒い・・・。
「俺はどっちもの味方だよ♪」
微笑んでいる栄枝。
「・・・・・ごめん。」
謝る俺。
「・・・・俺も。」
素直に謝れなくても態度で示す氷河。
草原で寝転がる三人。
「あー,もうすぐ卒業だな!!」
俺が言った。
「氷と,水と,緑の俺達がそろったら,最強だ!!なかなかそろえないかもしれねぇけど,俺達にはそんなの関係ない!!」
氷河・・・・。
「大人になった僕たちは,何をしてるのかなぁ。」
まだ自分の事を僕と呼んでいた栄枝。
「さぁな!!わかんねぇけど,確かな事が一つだけあるぜ!」
「何,氷河?」
首を傾げる栄枝。
「俺達三人は,最強チームで名をはせてるってことだ!!」
笑う三人・・・。
氷河・・・・・・栄枝・・・・・・・。
「水・・・・有水・・・。」
俺を呼ぶ声・・・・・?
ハッ!!として起きる有水。
「俺・・・・・?」
「大丈夫?うなされていたようだけど・・・・。」
蒲公英が有水を心配そうに見つめながら言った。
「蒲公英・・・・?なんでここに・・・?」
状況が把握できずに戸惑う有水。
「時間になっても,来ないから迎えに来たの。種子蕾隊の会議の時間がもうすぐだよ。合い鍵で入ったらうめき声が聞こえて・・・・。」
蒲公英の言葉に,時計をみる有水。もう朝だ。
・・・寝てたのか・・・。
ベッドから起きあがった。
ジェネレーション確保のために一緒に戦ってから,有水と蒲公英はよく一緒に仕事を任されるようになっていた。
「・・・ごめん,行こう。」
外に出る有水と蒲公英。
有水は空を見上げた。
・・・・・・・・妖精にとって,明るい未来を作るのは・・・・俺だ。
「お願い草多,連れて行って・・・・。」
病院のベッドの上で,草多に頼む冬美。
「駄目だ。いつ体調が悪くなるか分からないだろ。昨日だって辛そうだったじゃないか。」
「絶対に無理しないから・・・辛くなったら,すぐに言うから・・・・。」
考え込む草多。
「・・・絶対に,我慢しないか?」
冬美に確認する。
「我慢しない!!だからお願い・・・・。」
「・・・しょうがないなぁ・・・・。」
冬美に肩を貸す草多。
「少しでも辛くなったら,すぐに言えよ。・・・もし我慢なんかしたら,強制的に病院へ戻すからな。」
少し強く,冬美に言う草多。
しっかりと,冬美がうなずいた。
それぞれの想いを胸にはせ,大聖堂で会議が始まった。
「さて,会議を始めるかの・・・・。」
いつにもまして真剣な顔で,大精霊様が言った。
大聖堂に集まった,種子蕾隊のメンバー。
誰一人として,口を聞かない。
「まずは確認するでの・・・。妖精の選べる行く末は三つじゃ。自然と共に死ぬか。自然と人間を捨て,妖精界のみで生きるか。犠牲を覚悟で共存の道を求めるか。」
大精霊様が会場を見渡した。
「あたいは・・・あたいはやっぱり人間と共存したい。」
秋美が言った。
「ふむ・・・。海起、そちは前回人間を見捨てたいと言っておったが、今はどうじゃ??」
海起を見ながら大精霊様が言った。
「俺は・・・・俺は、もう仲間が死ぬのは見たくないです。けど、人間を見捨てるのも、やはり嫌です。だから、共存の道を探したいです・・。」
海起が、ゆっくりと言った。
「ふむふむ・・・・。・・・ほかの者はどうかの?」
しばらく考えたのち、大精霊様が聞いた。
「人間を見捨てたいです。俺は、人間を見捨てます。」
その言葉に、種子蕾隊のメンバーが一斉に声のする方向を向いた。
そう言ったのは、草多だった。
「草多!?」
秋美が驚いて声をあげる。
冬美も驚いた様子だが、黙って草多を見つめていた。
全員が、草多に注目している。
草多が静かに、だがはっきりと語り始めた。
「過去にも人間達の戦争がありました。自然は死に、多くの妖精たちが死にました。そこから、人間も妖精も必死で頑張って今があります。それなのに、人間はまた同じ過ちを・・・それも、以前とは比べ物にならないくらいの規模で自然を破壊しようとしています。」
大精霊様をはじめとするメンバーたちがうなずく。
「・・・木葉と樹里は、一瞬にして死にました。死ぬ直前まで、いつものように笑っていたのに・・・。そしてその後は、氷河さんが・・・それに冬美が大きなダメージを追いました。これからさらに犠牲が出ることは間違いありません。人間界にもう安全な場所なんて、自然を栄えさせることができる場所なんてないんです。・・・人間界を見捨て、人間を見捨て、妖精界の中だけで生きるべきです。」
草多が言い切った。
「じゃあ、人間が死んでもいいのかよ!?なんとも思わないのかよ!!??」
秋美が草多に大きな声をあげた。
「・・・思わないね。」
草多が冷たく言った。
「・・・・・。」
黙る秋美。
「今まで、何人もの妖精が死んだ。人間のせいで。それでも俺たちは必死で共存しようとした。なのに人間はこれだ。もうどうしようもない。いくら人間に妖精が見えなくとも、自然が生きていることくらい分かるはずだ。戦争をしようとしている奴らも、無関心な奴らも、みんな見捨ててしまえばいい。・・・俺たちが生きていたら、自然はやり直せる。だがな、人間だけが居た所で、自然は戻らないんだよ。そのことを、嫌というほど実感させればいい。」
秋美を見ながら、草多が言った。
何も言えない秋美。
「草多・・・落ち着けよ・・・。秋美の気持ちだって分かるだろ・・・?今のお前は、感情の向くままに発言してるぞ。お前らしくない・・・。」
海起が二人の間に割って入った。
「じゃあ・・・・じゃあ海起・・・・お前は、もし怪我したのが・・・死にかけたのが、秋美でも、同じことが言えるのか・・・?」
ゆっくりと草多は言ったが、草多の言葉には大きな怒りがこもっていた。
ほかの妖精たちは、どうすることもできずに、必死で考えながら様子を見つめていた。
大精霊様と精霊たちも、じっと草多たちを見ている。
「それは・・・。」
海起も反論できなくなる。
「どうなんだよ!!!!海起!!!!!!!!!!」
草多が怒鳴った。
「草多・・・・。」
栄枝が立ち上がった。
「これは話し合いだぞ。お前の気持ちはよく分かった。だから、一旦座ろう。」
栄枝の言葉に、草多は一旦座った。
「俺も、草多の意見に賛成です。」
有水が、大精霊様を見ながら言った。
「有水・・・・!!」
悲しそうに、栄枝が有水を見た。
そんな栄枝と目を合わせない有水。
「・・・でも、人間界を見捨てたら、前に秋美が言ったように何千年も何万年も生きてきた自然も死んでしまいます!!俺たちが見えていた人間も、死んでしまいます!!!」
海起が有水に言った。
「・・・わたくしたちは以前人間を殺そうとしました。けど今はそれを激しく後悔しています。争いからは何も生まれない。恨んだって、人間を殺したって、結局は自分が苦しむだけですわ・・・」
鈴蘭の言葉に、睡蓮と春美がうなずいた。
「・・・けどそれは、今回冬美が生きていたから言えるんじゃないのかな・・・。草多の言ったように・・・。だって,もし冬美が死んでいたら・・・私・・・・・。」
再雪がうつむきながら言った。
「妖精界の中だけで生きて、戦争が終わるのを・・・人間が居なくなるのを、待てばいいと思います。そこから、また新しく始めればいい。人間に手を出すわけではないから、誰も罪に問われない・・・。」
夏美もそう言いながらうつむいた。
黙って聞いている水湖と大樹。
「自分たちだけよければ・・・自分の仲間が傷つかなかったら、それでいいのかよ・・・!!そんなの人間と同じじゃねぇかよ!!!!!」
叫ぶ秋美。
一瞬会場が静まり返った。
「それなら、これ以上犠牲が出てもいいって言うんだな?」
草多がまた立ち上がった。
「おい草多!お前秋美ばかり攻撃しすぎだぞ・・・。秋美だって辛いんだか・・・・・」
「辛いのは誰だって同じだ!!俺はもう二度と人間ごときに冬美を傷つけさせない!!冬美を人間界なんかに行かせない!!!もう二度と、仲間を殺させない!!」
続きを言いかけた海起を、草多がさえぎった。
「全員そうだ・・・今まで数え切れないくらい辛い思いして、そのたびに周りの支えと自分の努力で乗り越えてきた・・・。けど今、今自分の目の前に居る大切な人が人間の作った兵器で一瞬にして意味もなく死んだら・・・・・・それでも、共存しようなんて言葉が吐けるのか!!??」
草多が会場を見渡した。
目に涙をためて歯をくいしばる秋美。
海起が秋美の肩を抱いて、栄枝と同様悲しそうに草多を見た。
そんな海起をにらみつける草多。
「・・・・・草多・・・・もういいかげんにしてよ!!!!」
黙って様子を見ていた冬美が、突然大声を上げる。
全員目線を冬美と草多に移した。
「冬美・・・。」
草多がつぶやく。
「草多が私の事をそこまで考えてくれてるのは本当に嬉しい!!けど、今草多はみんなを傷つけてる!!!!そんなの、草多じゃない!!!私の大好きな、草多じゃない!!!・・・みんなそうよ!自分の意見だけを言って、違う意見の者を攻撃する・・・それこそ、人間よ!・・・・・・・・こんな妖精なんて・・・・こんな妖精なんて、人間と自然と共に滅んでしまえばいい!!!!」
泣きながら、冬美が叫ぶ。
「冬美・・・落ち着けって・・・・・そんなに叫んだら体が・・・・。」
冬美の言葉で我に返った草多が、冬美に近づく。
「氷河は・・・・なんのために死んだのよぉ!!!なんのためにジェネレーションのメンバーは全員隔離室に入ったのよぉ・・・!!木葉と樹里は・・・どうして・・・・・・はぁ、はぁ・・・。」
それでも泣き叫び続ける冬美。
冬美の呼吸が一気に荒くなる。
椅子からずり落ちそうになった冬美を草多が抱きかかえて背中をさする。
「冬美、もう分かったから、病院に帰ろう・・・。」
「はぁ・・・はぁ・・・。嫌!!分かってない!!!」
首を振る冬美。
「草多・・・もうすぐ終わるでの。冬美も残らせてやるのじゃ。」
じっと黙って聞いていた大精霊様が口を開いた。
軽くうなずいて、草多は黙った。
手だけは絶えず冬美の背中をさすっている。
「さて・・・わしの考えを言わせてもらっていいかの??」
微笑みながら、大精霊様が言った。
全員が静かにうなずく。
「わしはの・・・皆が同じことをしなくてもいいと思うのじゃ。決まりを守る上で、皆がそれぞれ自分の意思で、動いてもいいのではないかとのう・・・。それはじゃな、どの道をとっても傷つき、後悔する可能性が高いからじゃ。誰が死んでも、もうおかしくないからじゃ・・・。そうすれば、妖精達で争う必要もないのう。・・・人間の心になると言ったら分かりやすいかの・・・。」
悲しそうに大精霊様はまた微笑んだ。
しばらく、全員が黙って考え込んでいた。
「あたいは、何を言われても共存の道を探す。・・・本当は草多の言ってることに納得してる。けど、あたいは人間と自然を見捨てたら必ず後悔する。共存の道を探して、仲間が死んだら、もっと後悔するかもしれない。それでも、みんなが幸せになる可能性を捨てたくない・・・。」
秋美が落ち着いて、全員に向かって言った。
「俺も共存の道を探します。でも俺は、人間のためにそうするのではありません。仲間と自然を守るために、そうするんです。何を言っても進み続ける、仲間のために・・・。」
秋美をちらりと見ながら、海起も言った。
「それなら、俺もそうだな♪決意の変わりそうにない、仲間のために人間の戦争をやめさせなきゃぁ」
笑顔で海起を見ながら水湖が言う。
「まっ、一途な後輩を持ったら苦労するな。」
そう言いながら笑って海起と水湖を見る大樹。
「私たちも、男たちに負けてられないなっ!!秋美ちゃんだけじゃ何しでかすか分からないから、私もやる!!」
空中に飛びながら睡蓮が言った。
女の子達が一斉にうなずく。
「私も・・・・やる・・・。だって・・・・・みんなに、笑顔で・・・結婚式に来てほしいから・・・。誰よりも大好きな草多との、大事な式に・・・・。」
苦しそうに、だが少し微笑んで冬美が言った。
「冬美・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺もやります!人間のためなんかじゃない。・・・・冬美を守るために・・・。」
草多が冬美を見つめながら言った。
「大事な部下と後輩たちが全員やるんなら、もちろん俺もやります。」
栄枝が微笑む。
「俺も同じだ。大事な奴がやるんだから。」
有水が栄枝に向けて言った。
精霊たちも、その言葉にうなずいた。
「・・・全員、人間と共存の道を探すということでいいのかの?」
大精霊様の言葉に、全員が力強くうなずいた。
「よく覚えておくのじゃ。これが、妖精界の者なのじゃ。皆の命は自分だけのものではない。誰もが、そばに自分を思ってくれる者がおるのじゃ。それを素直に表現できて伝えられる・・・過ちも、後悔も、皆で支えていく・・・なによりそれを理解できる。それこそ、妖精なのじゃ!!」
大精霊様が、笑顔を見せた。
「・・・秋美、海起・・・ごめん。」
草多が二人に向かって言った。
「俺もすまん。お前の言うとおりだよ。俺は、秋美が冬美と同じ立場だったら・・・。」
そこまで言って、草多に微笑む海起。
「あたいだってもう気にしてねぇ!おめぇも大事な仲間なんだから!」
秋美も笑顔になった。
「今日はここまでじゃ。次は共存するためにこれから何をするべきか、考えておくのじゃ。冬美、辛いのにすまなかったの。草多、すぐ病院に帰るのじゃ。」
大精霊様の言葉で、全員が動き出す。
草多は冬美を抱きかかえて、病院へ戻っていった。
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