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~崩れていく幸せ~
「冬美,そろそろ起きなきゃ。」
草多が優しく冬美を揺らしながら言った。
「ん~~・・・・あと五分・・・・。」
冬美が眠そうに声を出す。
「だーめ!!さっきもそう言っただろ・・・。」
優しく笑う草多。
今,人間界での仕事がない草多は,家の事を担当している。
この日もいつもの朝だった。
「ふぁ~!」
目をこすりながら,起きてくる冬美。
服を着替えて,朝ご飯を食べると,玄関に立った。
「気をつけてな。晩ご飯,何にしようか?」
草多が冬美に言った。
「ん~,今日はなんか温かい物が食べたいかも!!」
完璧に目を覚ました冬美が笑顔で言った。
「じゃあ,鍋物でもするか!」
草多の言葉に,冬美は笑顔で大きくうなずいた。
「今日はそんなに遅くならないと思うから♪待っててね!」
そう言うと,草多の頬にキスをする冬美。
「あぁ,行ってらっしゃい!!」
笑顔で冬美を見送る草多。
いつもの,朝だった。
「おはようございます!!」
栄枝は昨日残った仕事をするために早めに大聖堂に行った。
緑の精霊の部屋で,仕事を始める。
栄枝の机の上や本棚の一部には,沢山の写真が飾ってある。
部下との写真,先輩との写真,友達との写真・・・。
ふと,窓の外を見る栄枝。
少し離れたところで,冬美が麻美と人間界へ向かう姿が見えた。
「冬美の奴,草多と住むようになってからまったく仕事をさぼらなくなったな。学生時代や一人の時は,しょっちゅうさぼってたのに。」
笑いながらつぶやく栄枝。
そのまま外を見ていると,有水と蒲公英が大聖堂に向かって歩いてくるのが見えた。
二人に向かって手を振る栄枝。
二人も栄枝に気が付く。
蒲公英が手を振り返した。
有水は片手を上げて返す。
いつもの,朝だった・・・。
人間界の楠木の下に,麻美が座って居る。
冬美は木の上の枝に座って,太い幹によりかかりくつろいでいた。
いつものように,時間がたっていく。
【ビクッ!!!】
突然,冬美の体が震えた。
体に動悸が走る。
「何・・・?この感覚・・・・・。」
一瞬考えた冬美だが,原因はすぐに思いついた。
「この感覚・・・・まさか・・・・まさか・・・・・。ごめん,麻美!!ちょっと仕事まかせる!!!」
「えっ・・・またですかぁ?」
麻美の言葉が終わらないうちに飛ぶ冬美。
そのまま,スピードを上げて,ある場所へと向かう・・・。
「まさか,そんなわけ・・・。お願い,無事で居て・・・・。」
焦る冬美。
この時,冬美は自分の焦りが自然と一番頼りにしている者に対して,念となっていることに気が付いていなかった。
「・・・冬美?」
買い物がてら散歩にでかけていた草多が立ち止まった。
・・・なんだ,この念・・・。焦りと・・・恐怖?
草多は目を閉じて,必死に微かな念をキャッチしようとする。
自分でも念を送っていることに気が付いてないな・・・。俺に対しての言葉はまったく発されていない。・・・何かあったのか?
大聖堂に向かって,走り出す草多。
有水は,水の精霊の部屋で仕事をしていた。
有水も,突然動悸に襲われる。
「・・・・」
一瞬にして,何かを察する有水。
無言で立ち上がると,部屋を出た。
部屋を出ると,そこには栄枝が立っていた。
「有水・・・・。」
栄枝が不安そうに何かを言いかけた。
「あぁ・・・。とにかく,行こう。」
有水と栄枝は大聖堂の外に出た。
向こうから,草多が走ってくるのが見える。
「有水さん!栄枝さん!!」
草多が息を切らしながら言った。
「どうしたんだ!?」
栄枝が心配そうに草多に聞いた。
「冬美の様子が,おかしいみたいなんです。本人に送っている自覚はないみたいですが,念が伝わってきて・・・。」
必死で説明する草多。
有水と栄枝は顔を見合わせると,暗い顔でうなずき合った。
「草多,大変な事になったかもしれない。・・・俺と,栄枝と冬美が同時に感じ取ったと言うことは,もう確定に近い・・・。・・・お前も行くか?」
有水が言った。
よく分からなかったが,冬美の事が心配ですぐにうなずく草多。
三人は急いで目的地に向かった。
「草多,自分に近ければ近い妖精ほど,少ない力で念が送れたり,簡単な様子が分かることは分かってるな?」
栄枝が言った。
かなり焦っているようだ。
「はい。」
草多がうなずいた。
「考えてみろ・・・・。俺と,有水,そして冬美が仲の良かった・・・近かった,妖精のことを。」
栄枝が,重々しく言った。
少し考えた草多だったが,すぐに答えは出た。
・・・・・・氷河さん・・・・・・。
「・・・・何,これ・・・・・・・。」
冬美はあっけにとられていた。今,自分が見ている光景に対して。
つい先ほどまでは,氷で周りが囲まれていたはずの場所。
透明と白の世界が広がり,綺麗だったはずの場所・・・。
今は,広範囲にわたって何もない。
空が黒い。
周りは赤い。
赤と黒の世界・・・・・。
「・・・氷河・・・?」
パニックになる冬美。
氷河は妖精の世界でもう何十年も前に自然に帰された妖精だ。
自然の中で漂うだけで,自分の体も,意志ももてなくなった。
しかし,それでも死んでは居なかった。
今,冬美の目の前には氷など残っていない。
「嘘・・・・でしょ・・・なんでこんなにいきなり・・・・。」
一気に過去のことがよみがえる冬美。
「私が,私があの時・・・・・。」
草多やみんなによってふさがっていた心の傷が,一気に開く。
その時,冬美は小さな小さな氷のかけらを少し離れたところで発見した。
思わず駆け寄る冬美。
赤と黒の世界に足を踏み入れたことで,冬美の体を熱風が襲う。
体が焼けていく・・・。
しかし今の冬美には,そんなこと気にならなかった。
氷河は,もっと苦しかったんだ・・・。意志がなくとも,体がなくとも・・・。
大精霊様の「必ずすぐに逃げろ」という言葉が,かすかに冬美の頭をよぎった。
それでも,逃げることなどできなかった。
氷のかけらの前に座り込む冬美。
まだ,もしかしたら・・・・・・・。
無意識のまま,一気に体の力を開放する冬美。
冬美の体全体が銀色に光る。
段々,その光は大きくなっていく・・・・。
心の奥では,分かっていた。
もうどうにもならないことを。何をしても,希望の光はないことを・・・。
それでも,諦められなかった。
自分のせいで,氷河は死んだ。
冬美の体の傷が治っていく。目の前の氷も,少しずつ大きくなっているように見える。
反対に,心の傷口は開いていく・・・。
しかし,そんなに力が持つわけもなかった。
その場に倒れる冬美。
それでも冬美は,力の開放を押さえようとはしなかった。
いや,もうすでに意識はなく,本当に無意識に力の開放を行っていたのだ。
冬美の頭に,草多の姿が浮かんだ。
頭の中で草多との日々が,思い返される。
私・・・・死ぬのかな・・・・・。
・・・まだ死にたくないっていうのは,私のわがままかなぁ・・・。
私のせいで,氷河は自然に帰された。
それでも氷河は,私のせいじゃないと言ってくれた。
愛してると・・・・・。
生きてくれと・・・・・。
・・・・・・草多・・・・・・。
「冬美ぃぃぃ!!!!」
草多が叫んだ。
有水と栄枝,そして草多が到着したのだ。
しかし,もう草多の声は冬美に聞こえていなかった。
倒れたままの冬美。
草多は感覚で,冬美がまだ死んでいないことを悟る。
だが,今にも命の炎は消えてしまいそうだ。
草多は,冬美に向けて走り出す。
赤と黒の世界に,飛び込んでいく・・・。
あの時のような,激痛が草多を襲った。
「くそ・・・・!!」
草多がつぶやいたその時,草多の体から痛みが引いた。
有水と栄枝が立ったまま,力を開放させていたのだ。
自分たちから冬美まで,筒のようなパワーの道を造る。
道の中だけは,浄化と癒しのパワーで害はなかった。
冬美の側に駆け寄り,抱きかかえる草多。
「冬美!!冬美!!!!」
必死で名前を呼ぶ。
冬美に反応はない。
「・・・・・・冬美・・・・・!!!!!」
冬美のために,力を開放する草多。
草多の体が緑色に発光する。
そのまま,発光した光は冬美を包み込んだ。
「冬美・・・・俺が居るからな。必ず,助けてやるからな。」
優しい笑顔で冬美を抱きしめたまま,開放を続ける草多。
「草多!!お前もまだ完璧に回復していないんだ!!!無茶するな!!!」
栄枝が叫ぶ。
有水と二人で道を造っているため,草多と冬美の元に行くことができない。
道を造るのをやめれば,全員死ぬだろう。
冬美に相変わらず反応はない。
か細い息をしているだけだ。
「冬美,覚えてるか?学生時代の事。」
必死で力をそそぎこみながら,冬美に話しかける草多。
「冬美,いっつも授業中不真面目だったり,さぼったり,ほんと先生達を困らせてたよな。」
冬美が反応を示さなくても,草多は冬美に語るのをやめようとしない。
草多自身が,思い出をよみがえらせているようだ。
「それでも,誰よりも明るくて,無邪気で,ドジで・・・それが,冬美だった。不真面目のくせに,人の見てない所で努力して,成績や実技はいつもトップだったよな。・・・そんな冬美を,俺は好きになったんだ。」
草多に疲れが見え始めた。
有水と栄枝の力で,なんとか体制を立て直す。
「その時は振られるのが怖くて,ずっと隠してた。冬美が氷河さんに夢中になってた時も,ずっと冬美を好きだったよ。・・・冬美が隔離室に入った時,思ったんだ。俺は,冬美が生きていてくれたらいい。だから,もう恐れないって。・・・毎日のように通う俺を,最初冬美は拒絶したよな。氷河さんの事を毎日想って,泣いて,後悔して・・・・。それでも俺が通い続けたのは,冬美,お前に誰よりも会いたかったんだ。たとえ冬美の目が俺に向いていなくても。」
冬美の息にかすかに力が戻る。
草多はさらに力を強めた。
「初めて冬美が俺に対して本当に笑ってくれたとき,俺,本当に嬉しかった。・・・初めて冬美が俺に対して帰らないでって言ってくれたとき,飛び跳ねたいくらい嬉しかった。恥ずかしくて,顔には出さなかったけど。」
笑う草多。
「あれからも,色んな事があったな。今,毎日俺の横に冬美が居る。それが,俺にとって本当に幸せなんだ。冬美のためなら命だって捧げられる。そう思ってた。けど冬美,木葉と樹里が死んだとき,俺に怒ったよな。その言葉を聞いて分かったんだ。俺が生きてなきゃ,冬美を守れないって。俺が生きてなくちゃ,いけないって・・・・・。だから,だから冬美・・・一緒に生きよう。」
体に力を入れ,また開放を高める草多。
冬美の手が,微かに動いた。
草多は確信した。
冬美は大丈夫だと。
草多の体を一気に疲労感が襲う。
冬美を抱きしめたまま,草多は倒れ込みそうになった。
「草多!!!冬美!!!!」
海起の声がする。
妖精と,精霊達が到着したようだ。
すぐに桜が冬美を抱きかかえ,海起が草多に肩を貸しながら妖精界へ戻っていった。
「冬美,そろそろ起きなきゃ。」
草多が優しく冬美を揺らしながら言った。
「ん~~・・・・あと五分・・・・。」
冬美が眠そうに声を出す。
「だーめ!!さっきもそう言っただろ・・・。」
優しく笑う草多。
今,人間界での仕事がない草多は,家の事を担当している。
この日もいつもの朝だった。
「ふぁ~!」
目をこすりながら,起きてくる冬美。
服を着替えて,朝ご飯を食べると,玄関に立った。
「気をつけてな。晩ご飯,何にしようか?」
草多が冬美に言った。
「ん~,今日はなんか温かい物が食べたいかも!!」
完璧に目を覚ました冬美が笑顔で言った。
「じゃあ,鍋物でもするか!」
草多の言葉に,冬美は笑顔で大きくうなずいた。
「今日はそんなに遅くならないと思うから♪待っててね!」
そう言うと,草多の頬にキスをする冬美。
「あぁ,行ってらっしゃい!!」
笑顔で冬美を見送る草多。
いつもの,朝だった。
「おはようございます!!」
栄枝は昨日残った仕事をするために早めに大聖堂に行った。
緑の精霊の部屋で,仕事を始める。
栄枝の机の上や本棚の一部には,沢山の写真が飾ってある。
部下との写真,先輩との写真,友達との写真・・・。
ふと,窓の外を見る栄枝。
少し離れたところで,冬美が麻美と人間界へ向かう姿が見えた。
「冬美の奴,草多と住むようになってからまったく仕事をさぼらなくなったな。学生時代や一人の時は,しょっちゅうさぼってたのに。」
笑いながらつぶやく栄枝。
そのまま外を見ていると,有水と蒲公英が大聖堂に向かって歩いてくるのが見えた。
二人に向かって手を振る栄枝。
二人も栄枝に気が付く。
蒲公英が手を振り返した。
有水は片手を上げて返す。
いつもの,朝だった・・・。
人間界の楠木の下に,麻美が座って居る。
冬美は木の上の枝に座って,太い幹によりかかりくつろいでいた。
いつものように,時間がたっていく。
【ビクッ!!!】
突然,冬美の体が震えた。
体に動悸が走る。
「何・・・?この感覚・・・・・。」
一瞬考えた冬美だが,原因はすぐに思いついた。
「この感覚・・・・まさか・・・・まさか・・・・・。ごめん,麻美!!ちょっと仕事まかせる!!!」
「えっ・・・またですかぁ?」
麻美の言葉が終わらないうちに飛ぶ冬美。
そのまま,スピードを上げて,ある場所へと向かう・・・。
「まさか,そんなわけ・・・。お願い,無事で居て・・・・。」
焦る冬美。
この時,冬美は自分の焦りが自然と一番頼りにしている者に対して,念となっていることに気が付いていなかった。
「・・・冬美?」
買い物がてら散歩にでかけていた草多が立ち止まった。
・・・なんだ,この念・・・。焦りと・・・恐怖?
草多は目を閉じて,必死に微かな念をキャッチしようとする。
自分でも念を送っていることに気が付いてないな・・・。俺に対しての言葉はまったく発されていない。・・・何かあったのか?
大聖堂に向かって,走り出す草多。
有水は,水の精霊の部屋で仕事をしていた。
有水も,突然動悸に襲われる。
「・・・・」
一瞬にして,何かを察する有水。
無言で立ち上がると,部屋を出た。
部屋を出ると,そこには栄枝が立っていた。
「有水・・・・。」
栄枝が不安そうに何かを言いかけた。
「あぁ・・・。とにかく,行こう。」
有水と栄枝は大聖堂の外に出た。
向こうから,草多が走ってくるのが見える。
「有水さん!栄枝さん!!」
草多が息を切らしながら言った。
「どうしたんだ!?」
栄枝が心配そうに草多に聞いた。
「冬美の様子が,おかしいみたいなんです。本人に送っている自覚はないみたいですが,念が伝わってきて・・・。」
必死で説明する草多。
有水と栄枝は顔を見合わせると,暗い顔でうなずき合った。
「草多,大変な事になったかもしれない。・・・俺と,栄枝と冬美が同時に感じ取ったと言うことは,もう確定に近い・・・。・・・お前も行くか?」
有水が言った。
よく分からなかったが,冬美の事が心配ですぐにうなずく草多。
三人は急いで目的地に向かった。
「草多,自分に近ければ近い妖精ほど,少ない力で念が送れたり,簡単な様子が分かることは分かってるな?」
栄枝が言った。
かなり焦っているようだ。
「はい。」
草多がうなずいた。
「考えてみろ・・・・。俺と,有水,そして冬美が仲の良かった・・・近かった,妖精のことを。」
栄枝が,重々しく言った。
少し考えた草多だったが,すぐに答えは出た。
・・・・・・氷河さん・・・・・・。
「・・・・何,これ・・・・・・・。」
冬美はあっけにとられていた。今,自分が見ている光景に対して。
つい先ほどまでは,氷で周りが囲まれていたはずの場所。
透明と白の世界が広がり,綺麗だったはずの場所・・・。
今は,広範囲にわたって何もない。
空が黒い。
周りは赤い。
赤と黒の世界・・・・・。
「・・・氷河・・・?」
パニックになる冬美。
氷河は妖精の世界でもう何十年も前に自然に帰された妖精だ。
自然の中で漂うだけで,自分の体も,意志ももてなくなった。
しかし,それでも死んでは居なかった。
今,冬美の目の前には氷など残っていない。
「嘘・・・・でしょ・・・なんでこんなにいきなり・・・・。」
一気に過去のことがよみがえる冬美。
「私が,私があの時・・・・・。」
草多やみんなによってふさがっていた心の傷が,一気に開く。
その時,冬美は小さな小さな氷のかけらを少し離れたところで発見した。
思わず駆け寄る冬美。
赤と黒の世界に足を踏み入れたことで,冬美の体を熱風が襲う。
体が焼けていく・・・。
しかし今の冬美には,そんなこと気にならなかった。
氷河は,もっと苦しかったんだ・・・。意志がなくとも,体がなくとも・・・。
大精霊様の「必ずすぐに逃げろ」という言葉が,かすかに冬美の頭をよぎった。
それでも,逃げることなどできなかった。
氷のかけらの前に座り込む冬美。
まだ,もしかしたら・・・・・・・。
無意識のまま,一気に体の力を開放する冬美。
冬美の体全体が銀色に光る。
段々,その光は大きくなっていく・・・・。
心の奥では,分かっていた。
もうどうにもならないことを。何をしても,希望の光はないことを・・・。
それでも,諦められなかった。
自分のせいで,氷河は死んだ。
冬美の体の傷が治っていく。目の前の氷も,少しずつ大きくなっているように見える。
反対に,心の傷口は開いていく・・・。
しかし,そんなに力が持つわけもなかった。
その場に倒れる冬美。
それでも冬美は,力の開放を押さえようとはしなかった。
いや,もうすでに意識はなく,本当に無意識に力の開放を行っていたのだ。
冬美の頭に,草多の姿が浮かんだ。
頭の中で草多との日々が,思い返される。
私・・・・死ぬのかな・・・・・。
・・・まだ死にたくないっていうのは,私のわがままかなぁ・・・。
私のせいで,氷河は自然に帰された。
それでも氷河は,私のせいじゃないと言ってくれた。
愛してると・・・・・。
生きてくれと・・・・・。
・・・・・・草多・・・・・・。
「冬美ぃぃぃ!!!!」
草多が叫んだ。
有水と栄枝,そして草多が到着したのだ。
しかし,もう草多の声は冬美に聞こえていなかった。
倒れたままの冬美。
草多は感覚で,冬美がまだ死んでいないことを悟る。
だが,今にも命の炎は消えてしまいそうだ。
草多は,冬美に向けて走り出す。
赤と黒の世界に,飛び込んでいく・・・。
あの時のような,激痛が草多を襲った。
「くそ・・・・!!」
草多がつぶやいたその時,草多の体から痛みが引いた。
有水と栄枝が立ったまま,力を開放させていたのだ。
自分たちから冬美まで,筒のようなパワーの道を造る。
道の中だけは,浄化と癒しのパワーで害はなかった。
冬美の側に駆け寄り,抱きかかえる草多。
「冬美!!冬美!!!!」
必死で名前を呼ぶ。
冬美に反応はない。
「・・・・・・冬美・・・・・!!!!!」
冬美のために,力を開放する草多。
草多の体が緑色に発光する。
そのまま,発光した光は冬美を包み込んだ。
「冬美・・・・俺が居るからな。必ず,助けてやるからな。」
優しい笑顔で冬美を抱きしめたまま,開放を続ける草多。
「草多!!お前もまだ完璧に回復していないんだ!!!無茶するな!!!」
栄枝が叫ぶ。
有水と二人で道を造っているため,草多と冬美の元に行くことができない。
道を造るのをやめれば,全員死ぬだろう。
冬美に相変わらず反応はない。
か細い息をしているだけだ。
「冬美,覚えてるか?学生時代の事。」
必死で力をそそぎこみながら,冬美に話しかける草多。
「冬美,いっつも授業中不真面目だったり,さぼったり,ほんと先生達を困らせてたよな。」
冬美が反応を示さなくても,草多は冬美に語るのをやめようとしない。
草多自身が,思い出をよみがえらせているようだ。
「それでも,誰よりも明るくて,無邪気で,ドジで・・・それが,冬美だった。不真面目のくせに,人の見てない所で努力して,成績や実技はいつもトップだったよな。・・・そんな冬美を,俺は好きになったんだ。」
草多に疲れが見え始めた。
有水と栄枝の力で,なんとか体制を立て直す。
「その時は振られるのが怖くて,ずっと隠してた。冬美が氷河さんに夢中になってた時も,ずっと冬美を好きだったよ。・・・冬美が隔離室に入った時,思ったんだ。俺は,冬美が生きていてくれたらいい。だから,もう恐れないって。・・・毎日のように通う俺を,最初冬美は拒絶したよな。氷河さんの事を毎日想って,泣いて,後悔して・・・・。それでも俺が通い続けたのは,冬美,お前に誰よりも会いたかったんだ。たとえ冬美の目が俺に向いていなくても。」
冬美の息にかすかに力が戻る。
草多はさらに力を強めた。
「初めて冬美が俺に対して本当に笑ってくれたとき,俺,本当に嬉しかった。・・・初めて冬美が俺に対して帰らないでって言ってくれたとき,飛び跳ねたいくらい嬉しかった。恥ずかしくて,顔には出さなかったけど。」
笑う草多。
「あれからも,色んな事があったな。今,毎日俺の横に冬美が居る。それが,俺にとって本当に幸せなんだ。冬美のためなら命だって捧げられる。そう思ってた。けど冬美,木葉と樹里が死んだとき,俺に怒ったよな。その言葉を聞いて分かったんだ。俺が生きてなきゃ,冬美を守れないって。俺が生きてなくちゃ,いけないって・・・・・。だから,だから冬美・・・一緒に生きよう。」
体に力を入れ,また開放を高める草多。
冬美の手が,微かに動いた。
草多は確信した。
冬美は大丈夫だと。
草多の体を一気に疲労感が襲う。
冬美を抱きしめたまま,草多は倒れ込みそうになった。
「草多!!!冬美!!!!」
海起の声がする。
妖精と,精霊達が到着したようだ。
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