共に生きるため2

Emi 松原

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~幸せな日々~

「冬美~準備できたか?」
草多が冬美に声をかける。
「うん!!あ~今日は妖精学校で実地練習の講師か・・・。実地の講師って,楽しいんだよね!」
冬美が草多の元に来て言った。

今日二人は,妖精学校へ実地練習の講師として仕事に行く。
冬美の,冬の妖精の仕事は一日麻美だけに任せることとなっている。
妖精学校の実地練習では,学校の教師だけでなく種子蕾隊のメンバーも参加することが多い。
学生達一人一人をしっかり教えられるようにだ。
今人間界は危険なため,妖精界で行われることとなっていた。

「草多,調子はどう?辛かったら,ちゃんと休んでよ・・・。」
心配そうに,冬美が聞いた。
「大丈夫だって!!数日ちゃんと家でおとなしくしてたんだから。」
草多が冬美に笑顔を見せながら返す。

二人は学校へと足を運んだ。

まず一室に学校の教師と種子蕾隊から応援に来た講師達が集められる。
冬美と草多の少し離れた所には,海起・秋美・春美・夏美・大樹・水湖・睡蓮・鈴蘭・などのいつものメンバーが座っていた。
さりげなく,海起が秋美の隣に居る。
草多は海起にだけ分かるように,頑張れと,そっと合図をした。
海起がかすかにうなずいて小さくガッツポーズをする。

そうこうしていると,桜が部屋に入ってきた。
全員の前に立つと,桜が話し始める。
「今日は,三年生の実地練習の日です。今回の三年生は,学校外で実地練習をするのは初めてですから,みなさん,くれぐれもよろしくお願いしますね。」
桜の言葉に全員が無言でうなずく。
「それと,ふだん校外の実地練習は人間界で行いますが,今人間界は今まで以上に危険なため,妖精界のみで行います。」
重々しく,桜が続けた。
「それでは,チーム分けをしますね。学校の教師の精霊や種子蕾隊の精霊は,いつも通り一人でお願いします。種子蕾隊の妖精達もいつも通り,二人一組で講師をします。まずは,大樹と水湖。」
大樹と水湖が見合わせて笑った。
「それに,草多と冬美。」
草多がうなずく。冬美も微笑んだ。
「春美と夏美」
春美と夏美が同時にうなずく。
ちらりと秋美を見て,二人でコソコソ笑い合った。
「鈴蘭と睡蓮」
鈴蘭と睡蓮がガッツポーズをした。
「あれ,あたいは?ってか,なんで今日再雪がいねぇんだ??最近はいっつも再雪と組んでるのに。」
秋美が辺りをキョロキョロしながら言った。
「再雪は,人間界で仕事よ。去年の卒業生に雪の性質を持った子が多かったの。あの子達はまだチームリーダーが居ないと難しいから。だから,抜けられないのよ。」
鈴蘭が秋美に言った。
少し口元が笑っている。
「秋美,貴方は海起と組んでほしいの。海起は精霊だけどまだ見習いだから,サポートしてあげて。」
桜が微笑んで言った。
海起の顔が一気に赤くなる。
待ってましたと言わんばかりに,妖精達がにやけた。
「しくんだな・・・。」
海起が真っ赤になってつぶやいた。
「あ・た・り・ま・え♪」
夏美が後ろを向き,秋美に分からないように,声を出さずに口元だけ動かして海起に言った。
「秋美ちゃんにアタックするチャンスだよ。」
睡蓮が海起の耳元に飛んでいき,ささやいた。
「再雪が来られないって決まったとき,わたくしたちで桜さんに頼んだのよ。かっこいい所を見せなきゃ,恥ですわ。」
鈴蘭が海起の後ろでさわやかに言った。
「まぁまぁ,そのくらいにしといてあげたら?」
優しくそう言いながらも夏美の横で楽しそうな春美。
「まったく・・・・・この女達は・・・・・。」
海起が下を向く。
「女はね,恋愛ごとが大好きなのよ。」
夏美が海起の耳に顔を近づけてニヤニヤしながらささやいた。
「海起!!今日はよろしくな!!」
秋美が隣の海起に言う。
「お・・・おう!」
慌てて海起が言った。

「あれだけ周りが盛り上がってるのに,秋美はなんで気が付かないかな。」
少し離れた所に居た草多と冬美の元に,大樹と水湖がやって来て大樹が言った。
「もう,恋愛音痴ってレベルじゃないですね。それより,女性陣にちゃかされてる海起を助けてあげなくていいんですか?」
冬美が大樹と水湖に向けてにやけながら言った。
「後でフォローはいれるさ♪」
水湖が笑顔で答える。
「それに,周りがそうでもしないとなかなか秋美がな・・・。海起だって,不機嫌な顔してるけど嫌がってる訳じゃないんだぞ。」
大樹もにやけた。
「もし秋美が海起を振ったらどうなることか・・・。」
草多が少し心配そうに海起を見ながら言った。
「その時は,俺達で支えればいいんだよ☆」
いつもの笑顔で,優しく水湖が言った。

実地練習の時間がやって来た。

「草多,冬美,あなたたちの今日の受け持ち二人は,芽意<めい>と言う女の子の学生と,山茶花<さざんか>という同じく女の子の学生よ。芽意は木か草かはまだ微妙な所だけど,緑の性質を持っていて,陽の資質を持ってるわ。山茶花は名前の通り,冬の花の性質を持っていて,陰の妖精の資質を持っている。よろしくね。」
桜が笑顔で草多と冬美に言うと,大樹と水湖に受け持ちの学生の説明を始めた。
「さぁ,行こうぜ冬美。」
「うん!!」
草多と冬美は学生の元へと向かった。

芽意と山茶花を連れて,二人は神秘の泉の近くの森へとやって来た。
終わった後の集合場所が神秘の泉だったのと,森の方が二人の力が上がると考えたからだ。
すぐ近くには小さな川が流れている。
その川の側で,海起と秋美が学生二人と居る姿が見えた。
草多と冬美は顔を見合わせて,少しにやけると練習を開始した。
「大地の神,月の神よ,我の声を聞き賜え。この木の葉,雪のように舞い散らせろ。草使わし我の名は,折れない雑草,草多なる!」
草多が呪文を唱えると,目の前の一本の木の葉っぱが舞い始めた。
ほんの数分で,木は丸裸の枝になる。
「じゃあ,まずは芽意からだ。芽意,緊張しなくていいからな。この木に,若葉を芽生えさせるんだ。失敗しても俺と冬美が居るから大丈夫。」
草多が優しい笑顔で芽意に言った。
「はい・・・!」
元気良く芽意が答える。
ゆっくりと,芽意が呪文を唱え始める。
「芽意,ガンバ!」
そっと山茶花が言った。
「木や草の緑の性質を持った妖精は,だいたい初めての実地はこの呪文から始めるんだ。俺や,大樹さんも初めての時はこの基礎から始めたんだよ。」
待っている山茶花に草多が優しく語りかけた。
「へぇ・・・。草多さんや大樹さんにもそんな時があったんですよね・・・。」
山茶花が感心したように言った。
「そりゃあな。ここだけの話,大樹さん,この呪文で花を咲かせるまで力を入れてしまったらしいぞ。」
草多が笑いながら言う。
山茶花と冬美も笑った。
「・・・・芽意なる!」
芽意が呪文を唱え終わった。

丸裸だった木に,ゆっくりと若葉が芽生える。
小さい若葉だが,均等に生えていく。
少し待っていると,木全体に小さな若葉が芽生えた。

「いいぞ!!芽意!!小さい若葉ではあるけど,初めてでこんなに均等に芽生えさせられるなんて,コントロールがうまいな!!」
草多が芽意を誉める。
芽意は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「じゃあ,山茶花の番だよ。」
冬美が山茶花に笑顔を向けた。
「今若葉が芽生えてる木に,山茶花の花を咲かせてごらん。思いっきり,やっていいからね!!」
冬美が明るく言った。
深呼吸をして,山茶花は呪文を唱え始めた。
「冬美さんは初めての実地の時はどうだったんですか??」
芽意が冬美に聞いた。
「私?どうだったかなぁ・・・。」
苦笑いをする冬美。
「冬美はね,力が強すぎて,人間界の一部に雪をちらつかせないといけなかったのに吹雪を起こしてしまったんだよ。」
草多が笑顔で言った。
「えー!!こんなにすごい冬美さんにも,そんなことがあったんですか!」
驚いて声をあげる芽意。
「あぁ。ただ,初めての実地でそんなに力がある妖精なんて滅多にいないから,かなり一目置かれるようになったんだよ。」
草多がさらに芽意に暴露する。
「そんな昔のこと,忘れたわよ・・・。」
苦笑いをしたまま冬美が言った。
「・・・山茶花なる!!」
山茶花が呪文を唱え終わった。
冬美が木を見つめる。
若葉が茂っていた木に,花の蕾ができはじめる。
しかし,花が咲く前に止まってしまった。
「・・・駄目だったかぁ・・・。」
少し落胆した声を出す山茶花。
「大丈夫!!花は咲かなかったけど,蕾は均等にできてるよ。だから,芽意も山茶花もコントロールはとてもうまいんだよ。ただ,力の入れ方のコツがまだつかめてないだけ。初めての実地でここまでできるなんて,二人とも本当にすごいわ!!」
明るい笑顔で冬美が言った。
それに対して草多がうなずく。
山茶花も,安心したように微笑んだ。

しばらく練習した後,四人は少し森の中に座り込んで,休憩をすることにした。

「そういえば,冬美さんと草多さんに教えてほしいことがあるんです。」
芽意が冬美と草多に向かって言った。
山茶花も芽意の言葉にうなずく。
「いいよ。なぁに?」
冬美が二人に聞いた。
「力の開放についてです。授業で習ったんですけど,いまいちよく分からなくて・・・。」
芽意が続ける。
「あぁ,力の開放か。たしかにあれを理解するのは難しいよね。」
冬美が草多に言った。
「そうだな・・・。まぁ,なるべく簡単に説明するよ。まず,妖精や精霊はみんな自分に合った性質の力を持っていることはわかるよね?俺だったら普段は草だけど,大きく分けたら緑に分類される。冬美だったら冬。芽意も俺と同じ緑。山茶花は花。ってな感じで・・・。分かる?」
草多の言葉に,芽意と山茶花がうなずく。
「つまり,有水さんや水湖さん,海起さんは水。栄枝さんや大樹さんは緑。蒲公英さんや桜さんは花の性質を大きく分けたら持っているってことですよね?」
芽意が草多に向けて聞く。
草多が大きくうなずいた。
「その性質に合わせて,力が違うの。自然を使うこと以外でもね,三種類あるの。緑が癒し,水が浄化,花が安らぎのパワーがあるんだよ。」
冬美が笑顔で言う。
「じゃあ,冬美さん達四季の妖精は何になるんですか?」
山茶花が不思議そうに聞いた。
「春が,安らぎのパワーを持っていて,夏が,癒しのパワー。秋も安らぎかな。そして私が浄化のパワー。」
「力を開放したら,持っているパワーの効果を出すことができるんだ。例えば,今芽意が怪我をしたとする。俺が力を開放すれば,癒しのパワーで痛みを取って傷を癒すことができる。冬美が力を開放すれば,浄化のパワーで傷を元に戻したり,力を元に戻したりできるんだ。」
冬美に続いて草多が説明した。
「へぇー・・・なんかすごい・・・。」
芽意がつぶやく。
「けどね,力を解放するには,大きな力がいるの。それに,反動がすごく大きいんだよ。」
冬美が少し暗い笑顔で説明を始めた。
「力を開放して相手にパワーを与えると言うことは,その分自分の力が減ると言うことなんだよ。人間を癒したりってことにパワーを使ってもそんなに疲れないけど,同じ妖精同士や,自然に対して力を使うと,自分の力がその分なくなってしまうの。もちろん,回復はできるけどね。それでも,力を開放しすぎて,大きなパワーを使いすぎてしまうと,最悪力を開放した妖精は死ぬわ。」
冬美の言葉に息をのむ芽意と山茶花。
「・・・力を開放して,自然を守ろうとして死んでいく妖精が多いんだ。海起の親父さんも,それで海を浄化させて死んだんだよ。もし死ぬまでは行かなくても,かなり体にダメージがでる。だから,普段は人間に対して以外は使っちゃいけないんだ。・・・いけないって決まってる訳ではないけどね。」
草多が微笑んだ。
「なぜ,人間に使っても,そんなにダメージがでないんですか?」
好奇心旺盛の芽意が質問する。
「人間は,妖精のような力を持っていないからね。簡単なんだ。人間が自然に癒されたり和んだりって思うのは,実はほとんどが妖精のパワーなんだよ。・・・元々は,人間のために使う力なんだ。」
二人に優しく説明する草多。
「こんな説明で,わかるかな?」
冬美が笑った。
「はい!!なんとなくですけど分かりました!!!」
芽意も笑顔でうなずく。
山茶花も芽意に続いてうなずいた。
「よっし!!そろそろ再会するか!!」
草多の声で,冬美達は立ち上がった。


四人が練習をしていると,終了の時間が来た。
神秘の泉の前に,妖精と精霊達が集まる。
「三年生のみなさん,講師のみなさん,お疲れさまでした。」
桜が全員に向かって優しく声をかけた。
「みんな上々だったみたいじゃのう。」

桜の後ろから,大精霊様が現れた。
桜に変わって,皆の前に立つ。
「さて,三年生の諸君,今回は人間界に行くのを楽しみにしとったじゃろうが,連れていけなくてすまなかったのう・・・。」
大精霊様が言った。
「講師の諸君はお疲れ様じゃ。」
講師達を見ながら続ける。
有水達がうなずいた。
「三年生の諸君,今日は初めての実地で,うまくいかなかったことの方が多いと思う。じゃが,落ち込むでないぞ。今日講師を務めた者も皆,初めての練習の時は失敗ばかりだったのじゃから。」
優しい目をして,生徒に語る大精霊様。
「何度も何度も練習して,努力して,失敗して,初めて力を輝かすことができるのじゃ。その道は長く険しい。じゃが,今日の初めての気持ちを忘れなかったら,必ず力が輝くときがくるのじゃよ。」
大精霊様の言葉に,生徒達がうなずく。
「花や木は,見た目はとても綺麗じゃ。曲がりながらも上を向いて,ただただ空に向かって伸びている。じゃがの。土の中で広く,深く,しっかりと根をはっているのじゃ。だから花や木を支えられる。それは,見ただけではわからないことなのじゃよ。」
ゆっくりと生徒達を見渡す大精霊様。
「桜も,有水も,栄枝も,ほかの精霊・妖精達も・・・皆,周りに見えないところで必死で努力し,練習し,この場におるのじゃ。辛いことも悲しいことも楽しいことも,多くの事を経験して,根を張っていくのじゃ。そして,前へ進むことで上へと伸びていくんじゃよ。それもすべて,何もない種から始まるんじゃ・・・。」
生徒達は誰一人としてしゃべらずに,大精霊様の言葉を聞いていた。
「ちと難しかったかの。今日はもう解散じゃ。皆の者,今夜はゆっくりと休むんじゃよ。種子蕾隊のメンバーだけ残っておくれ。」

生徒達は大精霊様や講師にあいさつをすると,自分の家へと帰っていった。


「皆の者,今日は本当にお疲れであった。」
種子蕾隊だけになったとき,大精霊様が言った。
「早く休ませてやりたいのじゃが・・・今から,最近の人間界の報告をしようと思う。水仙。」
大精霊様が呼ぶと,水仙が立ち上がった。
「人間達の・・・。国のトップの男と,守我の行動が把握できていません。自然の全くないところで,行動しているのでしょうね。外では戦争をしないと胸を張っていますが,それが本当だとは思えません。今,人間界では何が起こるかまったくわかりません。」
それだけ言うと,座る水仙。
「・・・我々がどうするか決断の時が近づいておるかもしれん。今のままだと,何もできないがの。ただ,今日は一つだけ皆に約束してほしくてわざわざ残ってもらったのじゃ。」
大精霊様が種子蕾隊のメンバーを見つめた。
桜,有水,栄枝,蒲公英,水仙,蜜柑,海起,大樹,水湖,草多,冬美,春美,夏美,秋美,睡蓮,鈴蘭,合流した再雪・・・その他のメンバーも順番に見つめていく。
「人間界に居るとき,もし危険が迫ったら・・・・。必ず,すぐに逃げるのじゃ。必ずじゃ。もしかしたらその行動で,自然が死ぬかもしれん。じゃが,それはやむおえないことじゃと思うのう。まずは自分たちが生きなければ,なにもできないのじゃ。・・・わしらが・・・皆が生きていれば,また自然はやり直せるのじゃから。何か変えることができるのかもしれんのじゃから。約束してくれ。」
大精霊様が,今までに見せたことがないくらいに真剣な気迫のある目をして言った。
迫力にあっとうされて,重々しく,全員がうなずいた。
ふっと笑顔になる大精霊様。
「どうしても,これだけ伝えたかったのじゃ。・・・今日は皆もゆっくり休むのじゃよ。」
いつもの笑顔に戻った大精霊様が言った。


草多達は家へ向けて歩き始めた。
「あ~疲れたな!!」
秋美が言った。
「秋美,今日はありがとな・・・。」
ぼそっと,海起が秋美に言った。
「おう!こっちこそ,楽しかったぞ!!!」
笑顔で返す秋美。
春美,夏美が微笑む。
「今回の三年生は,なんかコントロールがうまい子が多かったね!」
睡蓮が飛び回りながら言った。
「たしかに。力が特にずば抜けた子は今のところ居なかったけど,安定した力をみんな持っていたな。」
大樹が答える。
「優秀,優秀♪」
水湖が笑った。

「・・・今,わたくしたちは幸せね・・・。」

唐突に,鈴蘭が言った。
「どうしたのよ,いきなり?」
再雪が聞いた。
「いや,なんとなく思ったの。今みんなと歩いている,この時が,本当に幸せだって・・・。」
鈴蘭が微笑んだ。
「そうだな。鈴蘭の言うとおりだ!」
秋美が言った。
「幸せって,本当に小さな事でも感じることができるんだね。」
夏美が明るく言う。
「・・・人間達にも,その事をわかってほしいな。」
春美が空を見上げた。
夕焼けが沈んでいく。
一行は少し立ち止まって,その様子を見つめていた。
「ほんの小さな事から大きな事まで,幸せは転がっている。それに気が付くか気が付かないかで,こんなにも違うんだな。自分の気持ち一つで気が付くことができるのに・・・。」
海起が夕日を見ながら言った。
「私たちが諦めなかったら,人間達も変えられるよ。絶対に・・・。」
冬美が笑顔で言った。

しばらくすると全員,それぞれの家へと帰っていった・・・。

「あーーーーー!!つーかーれーたー!!」
家へ帰ってご飯を食べ,お風呂にも入った冬美がベッドへと倒れ込む。
そのままゴソゴソとウエディングドレスのカタログを出すと,うつぶせになってニコニコしながらページをめくる。
「また見てるのか?」
お風呂から上がってきた草多が言った。
冬美の隣りに座ると一緒にカタログを覗き込む。
所々に印がしてあるようだ。
「だって!一生に一回だから一番気に入ったのを着たいんだもん!!・・・それより,体調は大丈夫?」
冬美が草多の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとな。・・・まっ,ゆっくり好きなのに決めろよ。」
優しく,草多が冬美に言った。
「うん!!」
冬美がまたページをめくる。
楽しそうにカタログを広げる冬美。
その様子を,草多は微笑んで見つめていた。
「・・・これも,大きな・・・幸せだな。」
草多がそっとつぶやいた。
「えっ?何か言った??」
冬美が顔を上げた。
「ん?なんでもないよ♪」
いたずらっぽく草多が答えた。


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