共に生きるため2

Emi 松原

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~黒~

「守我さん,この間の実験のデータがそろいました。」
守我の部下が守我にデータを手渡す。
「あぁ,ありがとうございます。」
データを受け取りながら,あどけない笑顔で守我が答える。
守我の本性を知らない者なら,なんて礼儀正しい青年だと思うだろうか・・・。
国のトップの男は,心の中でつぶやいた。
「由岐<ゆき>さんもご覧になりますか?」
守我がデータをパソコンに取り込みながらトップの男に聞いた。
由岐とはトップの男の名字だ。
由岐は無言でうなずくと,パソコンの画面を覗き込んだ。

ここは守我の自宅にある地下室だ。
表向きには音楽鑑賞をしたり,映画を見たりといった事に使われていることとなっている。
実際,地下室は防音設備がしっかりしていて,映画の機材や音楽の機材もそろっている。
だが,あくまでも表向きだ。
現実では,守我の欲望のため使われている部屋である。
何台ものパソコンと機械が置いてある。

一台のパソコンの画面に,真っ黒で深くえぐれた地面が映し出された。
「これが,1000分の1である兵器を落とした場所です。」
守我の部下が説明する。
黒以外,なんの色もない。
続いて平地全体が映し出された。
「思ったより消えたのは狭い範囲ですね。」
守我がほがらかに言った。
「そうかね・・・。1000分の1でこれだ。たいした威力だと思うがね?」
由岐が画面を見ながら言う。
「まだまだですよ。これくらいじゃ,脅しにもならない。」
守我がじっくり画面を見つめる。
「もっと改良した物は,後どれくらいで完成するんですか?」
守我が画面を見たまま部下に聞いた。
「予定では,一週間ほどで完成するかと。」
部下が言う。
「改良した物の10000分の1もその時間内で作るように伝えてください。」
守我がデータの映し出された隣のパソコンを操作しながら言った。
「分かりました。」
そう言うと部下は部屋を去っていく。
「さて・・・次はどこにしますかね・・・。」
守我がパソコンに地図をうつしだした。
「そうですね・・・。ここなんか良さそうですね。周りは氷に囲まれていて,人類も住んでいない。」
独り言を言う守我。
「守我くん,まさか,10000分の1の改良版兵器を作らせるのは,その場所で新たな実験をするためか?」
由岐が聞いた。
「もちろんです。改良版のデータもしっかり取らないと。」
守我が微笑んだ。
「しかし,ほかの国が黙っちゃいないだろう?」
由岐のひたいに汗が浮かぶ。
「そうですね。この間の実験も,行った瞬間ばれています。しかし,まだこの国は滅びていない。なぜだか分かりますか??」
守我の言葉に,由岐が首を振る。
「兵器を作っているのが,暗黙の了解だからですよ。この私の力でね・・・。もちろん,それが自分たちの国に使われるなんて思っちゃいませんが。」
ニッコリと由岐に向けて笑う守我。
「そんな馬鹿な・・・・。そんなこと,できるわけ・・・。」
由岐が後ずさりながら守我に言う。
「ならば,なぜこの国はまだ戦争になっていないのですか?説明できます??」
黙り込む由岐。
「・・・知りたいですか??」
守我の言葉に,由岐は黙って首を振った。
この青年が何をしているにしても,自分には理解できないはずだ。
そもそも,逆らうことなどできないのだから・・・。
「その選択は間違っていないですよ。」
守我がまた微笑んだ。
「さぁ,貴方の次の仕事は分かっていますね?明日,国民の前で,戦争を避けようとする姿勢を見せるんです。」
由岐はまた黙ってうなずくと,出口に向けて歩いていった。
「由岐さん・・・余計なことを詮索したり,口に出したりしないほうが身のためですよ・・・。」
背後で,守我の声が聞こえる。
由岐は黙って地下室を後にした。

守我は一人地下室に残って居た。
何台もの機械を使いこなし,着々と準備を進めていく。
「本当に,馬鹿ですね・・・。こんなに事を大きくしても,国民は気が付かない。ほとんど関心もない。」
一人微笑むと,また機械を操作する。
「この国だけじゃない・・・ほかの国もです。この私を,信じ切っている。・・・いずれこの私の前にひざまずくとも思わずに・・・。楽しいとしか言いようがありませんね。」
一旦手を止める守我。
地下室には守我以外には誰もいない。
守我は誰かに話しかけるように独り言を続けていた。
「あと一週間・・・それで,すべての必要なデータがそろいます。そこからが,本当の本番です・・・。」
微笑みながら,守我はパソコンを操作した。


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