真の敵は愛にあり

Emi 松原

文字の大きさ
上 下
51 / 83
もう一つの覚悟の魔法を使う

1-2

しおりを挟む


「俺は……君を殺したくない!」
 ラオンが一瞬距離をとって、俺を睨んだ。
「じゃあ、何故あの魔法を習得した」
 ラオンが、俺を睨みつけながら言った。だけれど、その目を怖く感じない。だって、ラオンにはラオンの何か信念があると、刃を交えるたびに分かっていたから。
 答えない俺に向かって、ラオンはニヤリと笑うと、武器を投げ捨てた。俺には、それがどういう意味か分かった。だから俺も、スピアを投げ捨てた。
「おい!コル!何をやっている!」
 第一騎士団団長の声が聞こえたけれど、返事をしている暇はない。
 ラオンが、赤い魔方陣を手に作った。
 それを見て、俺は青い魔方陣を手に作る。
 周りの驚く声が聞こえてきた気がするけれど、そんなことに構っていると集中が切れてしまう。俺はラオンを殺したくはない。だけれど、ラオンがこの魔法で俺にぶつかってくるのなら、俺もこの魔法で真剣にぶつかる。その先に、何か得るものがあると信じて。
 俺とラオンは、一気に距離を詰めると、魔方陣を振り上げて、ぶつけ合った。
 その瞬間、俺に大きな衝撃が襲い、吹き飛ばされないように足を踏ん張った時、異変に気がついた。

ここ……どこだ……?
俺は、知らない場所に立っていた。ふわふわ浮いているような感覚。周りには色んな色が溢れた世界が広がっている。目の前には、俺と魔方陣をぶつけ合ったままのラオン。
 その瞬間、俺の頭の中に一気に映像、声、様々なものが次々と流れ込んできた。なんだこれ……なんなんだ……これは……これは……。
 しばらく慌てていたけれど、これが何なのか本当は最初から分かっていた。これは、ラオンの頭の中にある記憶と、心の声だ。
 ラオンの両親は、幼いラオンと、ラオンの妹……リーシャを残して戦争で死んでしまった。レッド王国は、ブルー王国と違って、騎士団は希望してなるものではなく、魔獣を操る力に長けている者が、無理矢理招集される。ラオンは、魔獣を操る能力が少なかった。だけれど、ラオンは自らで戦う力を証明して、タツさんに騎士団に迎え入れられた。けれどそれは、レッド王国では異端だった。ラオンは、戦狂いと呼ばれて人々から遠ざけられた。ラオンが戦狂いと呼ばれても騎士団に入った理由。それはーーーー
 妹のリーシャを騎士団に入れない為だった。リーシャは魔獣を操る能力に長けている。だから必ず規定年齢に達したら招集される。その前に、戦争を終わらせるためにーー
 俺の頭の中に、花屋が流れ込んできた。リーシャの営む花屋だ。そこで、花を持って笑う女の子。この子が、リーシャ。
【なんで、なんで、こんなこと思うんだ。俺はブルー王国の奴を全員殺して、戦争を終わらせるはずだったのに】
【なんで、こいつに武器を向けるのが苦しいんだ。この気持ちはなんなんだ】 
 これは……ラオンの心の声だ。
 この魔法がなんなのか、やっと分かった。
 この魔法は……相手の考えや、今まで見たものが流れ込んでくるものだ。
 俺たちは勝手に、この魔法はお互いを殺すためのものだと思っていただけだったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...