真の敵は愛にあり

Emi 松原

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入団・面談・混乱

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「確かに、自分でも矛盾していると思います。だけれど、これが、お……私の出した、答えです。エミルさんのように、みんなを、アマナを守る力が欲しい。だけれど、戦争はなくしたい。その為には、目をそらさずに、最前線に行きたいと思ったんです。そして、いつか、戦争をなくすための良い案が浮かんだときに、国王に一番に進言できるように、私は特別騎士団を目指したいです」
 これは、俺の嘘偽りのない言葉だった。
 どんなに矛盾していても、俺の出した答えだ。
「やっぱり、私の目に狂いはなかったようだな」
 エミルさんが、ニヤリと笑って言った。
 シルクさんは、そんなエミルさんをチラリと見ると、俺たちに視線を戻し、シルクさんが答える。
「分かった。では、コルはアタッカー部隊に、アマナは後方部隊に所属を命じる。アマナ、君は固定のチームを作らなくても良いから、一週間、自分が何をするべきか考えて動いてくれ。コル、君は、この一週間で、シューターとヒーラーとチームを組むように。命を預けるチームだ。よく考えて選んでくれ」
「はい」
 俺たち二人は、頷きながら答えた。
 エミルさんが立ち上がって、俺たちに近づいた。
 そして、俺とアマナの胸に、紫色の石でできた、花のブローチをつける。
 この石は……フォスフォシデライト、石言葉は、《安定、平和、慈愛》。そして、花は、フジの花。花言葉は《歓迎》。
 俺は、なんだか嬉しかった。騎士団とは真逆の方向性のことを言っているはずの俺を、エミルさんは、特別騎士団の皆さんは、認めてくれているようで。

 特別騎士団専用の寮を後にして、俺とアマナは、とりあえず寮に行って荷物整理をしようという話になった。
 男性寮と女性寮は隣同士で、中間に、勧誘で入った人間の寮がある。俺とアマナは、隣同士の部屋になったらしい。アマナの車椅子生活に、配慮してのことだろう。
 二人で寮に行こうと、騎士団の敷地内に戻ると、一気に俺たちは、人に囲まれた。
 俺は何がおきたのか分からない。混乱している俺をよそに、アマナは平然と笑っている。
「君たち、何処の部署に……」
「その花、エミルさんの……」
 口々に声が聞こえて、誰を見たら良いのかも分からないし、どう答えたら良いのかも分からない。驚いたのは、俺を囲んでいたのは、今日入団した人間だけじゃないってことだった。俺は、アマナの言葉を、思い出していた。誰もがお眼鏡にかなうために……。
「皆さま、お声がけありがとうございます。私、アマナと申します。こちらは、コル。私は後方支援部隊に、コルはアタッカー部隊への所属が決まりました。どうか、これからよろしくお願いします」
 アマナが、笑顔で言った。
 周りがざわめく。
「アタッカー部隊!それなら、俺とチームを……!!」
「俺はシューター部隊だ、俺と……」
 俺に、近づいてくる、人、人、人……。
 ど、どうしよう……。
 それに、俺がアタッカー部隊だと知った瞬間に、俺を睨んで去った人もいる。
 怖い……。
 そんなに、俺とチームを組みたいのか?
 何故?お眼鏡にかなって、この人達は、どうなりたいんだ?
 この人達は、何の為に騎士団にいるんだ?
 俺の頭の中に、六年前のあの日が蘇る。
 あの時助けに来てくれたのは、特別騎士団だ。騎士団は、あの時……。
 俺の中に、今まで感じたことのないような感情が沸き上がった。怒り……なのだろうか。そんな言葉じゃ、この感情は表せない気がした。
 俺は、黙って下を向いた。
「皆さま、申し訳ありません。コルは今、面談で疲れていて……。少し、寮で休ませて頂きますね。また、お声がけして下さい」
 アマナが、笑顔を崩さずにはっきりと言うと、車椅子を自分で動かして前に進む。皆が、道を空けた。俺は、黙ってアマナに従った。

 俺は、部屋の片付けを終えると、アマナの部屋にいた。
 まだ、自分の感情に整理がつかない。
「コル……」
 アマナが、心配そうに俺を覗き込む。
「アマナ……あの人達にも、譲れない夢があるんだよな?だから、その夢を叶える為に、俺に近づいてきているんだよな……?」
 アマナは、何も答えない。
「なんで黙ってるんだよ……いつものように、教えてくれよ……」
 アマナが、そっと俺の手を握った。
「あの人達が、どういう理由で騎士団に入ったのか、何を背負っているのか、私には分からないわ。だけれど、コルが、あの人達に良い感情を抱かなかったのなら、それはチームになるのに向いていない。それだけは、はっきりと言えるわ。命を預け合うチームだもの。実力だけじゃなくて、もっと大切なものでチームを組んで欲しい」
「大切なもの……?」
「そう、前に言ったでしょう?コルの夢の為に、一緒に進める人とチームを組んで欲しいって。きっとその人達に出会ったら、心が感じるわ。この人と組みたいって。ね?」
「だけど、あんな状態じゃ、一人一人とゆっくり話なんてできないよ。それに、俺がアタッカー部隊に入ったってアマナが言ったとき、俺、睨まれたよ。騎士団って、騎士団って……なんなんだ」
 言葉を詰まらせた俺を、アマナは引き寄せて、抱きしめた。
「コル、大丈夫。あなたは、自分の信念を、覚悟を、曲げないで。このくらいで、揺らいじゃ駄目。……そうだ!明日から、人混みを抜けて、あえて私たちに近づいてこない人たちを探してみるなんてどう?」
 アマナが、優しく諭してくれる。
 俺は、アマナの腕の中で、黙って頷いた。

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