この世界で生きていく

Emi 松原

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真実と立ち位置

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「だからこそ、憎しみが生まれるのです。今、ルカが言ったように。知らなければ、憎しみは生まれなかった。戦場に出ようなどと、思うはずもなかったのです。ロキ、ルカ、よく考えてください。あなたたちが、このまま、この国につけば、あなたたちは、反逆者という、大罪人となるのですよ」
 僕も、ルカも、何も言い返すことが、できなかった。
 ルカは、ギア王国にいた頃から、チィと、言い合いこそしていたけれど、ギア王国自体が、憎かった訳ではないのは、分かっている。だって、ずっと一緒に、暮らしてきたから。
 それでも、前国王は、僕の両親、ルカの母親を殺した。ルカの父親も、幽閉されている。
 エミリィさんの心を閉ざして、リィノさんを、破壊神にさせた。
 現国王は、リィノさんの封印を解いて、洗脳して、この国に、攻め込んでくる。
 もし、この国につけば、僕は大罪人となり、もし生き残っても、帰る場所はなくなる。ギア王国で、処刑されるかもしれない。
「私、何を言われても、ノルさんに、あの銃を習うわ。そして、この国に協力する。私、ギア王国そのものが、憎いわけじゃないわ。だけれど、私、この国が、大好きなの。この国の人たちを、エミリィさんや、みんなを、少しでも、守れるなら、お母さんと、お父さんの想いを、少しでも守れるなら、大罪人になっても、構わない」
 ルカの言葉に、静まりかえった部屋の中で、僕は、スモ爺の石に、手を置いた。そこに、あの懐中時計の、カチカチという、心地の良い振動が、伝わってくる。
 そういえば、この時計は……。人族を捨てても良い、覚悟ができた時……。
 フールさんを見ると、じっと黙って聞いていた、フールさんが、かすかに笑った。
「君たちの覚悟が決まる前に、聞かせてしまったことは、申し訳なかったね。だけれど、僕が言ったことは、変わらないよ」
 その言葉に、僕は、懐中時計を手に取って、じっと見つめた。
 ルカが、ハッとした表情で、僕を見つめていたけれど、何も言わなかった。



※※※



「ついに、始まりますね」
 ミレイの言葉に、タツナリが、重々しく頷く。
「あぁ。フールが、無事に帰ってくることができて、良かった」
「あの子たちは……」
「あの二人が、どんな答えを出そうとも、受け入れて、手助けしてやる。それが、俺たち長の役目だ。後は……リィノのこともな」
 タツナリの言葉に、ミレイは、目を伏せる。
「私たちは、国を、国民を守らなくてはいけない。リィノの前に……最前線に出ることはできません。リィノに対抗できるのは、エミリィと、それを援護する、ライキたちです。私たちは……国を守るために、リィノを、犠牲にしなくては、いけないのでしょうか」
「リィノの、破壊の衝動を抑えることができれば……。だが、私たちと、レインボーローズ、ブルーローズで考え続けても、その答えは出なかった。薬や魔法で、一時的に、抑えることはできるかもしれないが……国民を、その危険にさらせない」
 タツナリとミレイは、それ以上何も言わず、それぞれの想いをはせていた。

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