42 / 83
はじめての衝突
1-3
しおりを挟む「チィ……? 突然、どうしたの?」
僕が、必死に、チィに返した言葉は、震えている。それでも、チィは、いつもと何も変わらず、淡々としていた。
「どうもしていません。ロキにとって、最善を言っています」
「なんで……なんで、そんなこと、言うの……?」
「ロキを、守るために、必要だからです」
僕は、チィの言っている意味が、全く分からなかった。
僕は、スモ爺に、毎日助けられている。危害を加えられたことだってない。なのに、どうして、どうして、そんなこと言うんだ。
何故か、いつもはすぐに、チィに反論するルカが、黙って、下を向いている。
「おかしいよ、チィ。僕は、スモ爺が、大好きだ! 僕を、守るためなんて、チィの言っていることは、おかしいよ!」
「ロキ、落ち着いて!」
思わず、椅子から立ち上がった僕の腕を、ルカがつかんだ。
「ロキ、落ち着いて下さい。私は、あなたに、不利益になることを、言ったことはありません。それは、よく、分かっているはずです。また、感情に、左右されていますよ」
「それは、そうだけど……! でも、そんなこと、納得できないよ!」
多分、僕は、はじめて、チィと、衝突をして、言い合いをした。
ルカが、チィと、衝突しているのは、見慣れていた。でも、自分が、チィと、衝突するなんて、思わなかった。
「はっきり、言ってやれば良いじゃない。爺が、もうすぐ、死ぬからだって」
エミリィさんが、前によく見せていた、怖い笑顔で、チィに、静かに言って、また、世界が、一瞬、止まった気がした。
……スモ爺が、死ぬ?
もうすぐ、スモ爺が、死ぬ……?
混乱した、僕の手を、ルカが、ギュッと握ってくれた。
チィが、エミリィさんの方を向く。
「はい。エミリィさんの言うとおり、スモ爺は、寿命が近いでしょう。高齢の龍は、自らの死期を悟ったとき、そのうろこを、選んだ者に、託しますから」
チィの言葉に、エミリィさんは、表情を、一切崩さない。
「それで、引き離すのが、ロキの為なんだ?」
「そうです。ギア王国では、死というものに、触れることは、ありません。家族の死期が近くなると、会うことはせず、互いのケアに、入るのです。死とは、人の心を、大きく乱すものです。現に、今、ロキは、混乱しています」
「……ふーん。死という、生きるものの自然の流れを、受け入れないんだ」
僕は、チィと、エミリィさんの言葉を、どこか遠くで聞いていた。
スモ爺が、高齢なのは、分かっていた。
生きているものには、いつか死が訪れることも、知識としてはある。
だけれど、ギア王国にいた時、僕たちは、死、というものに、一切触れることはなかった。
「このまま、スモ爺と会い続けたら、ロキ、苦しみが増えるのは、ロキなのです」
チィが、僕の方を向いて言った。
「そんな……でも……」
「ロキの傷を、より少なくする為です。ロキ、本当は、ちゃんと分かっているでしょう」
みんなの視線が、僕に集まっているのが分かる。
ルカだけは、僕の手を握ったまま、下を向いていた。
「わかるよ……。チィの、言っていることが、正しいと思う……。でも……でも……」
僕は、僕の手を握りしめてくれている、あたたかい、ルカの手を、しっかりと握り返した。今、やっと分かった。ルカがいつも、チィと、言い合っていた、気持ちが。
悪意でもない。敵意でもない。これが、僕の、気持ち……想いなんだ。
「……僕は、スモ爺が、大好きだ。そのスモ爺が、僕に、うろこをくれたんだ。僕は、このまま、スモ爺と、離れることなんて、できないよ」
「言葉で言うのは、簡単です。ですが、ロキは、スモ爺の死に、耐えることは、できないでしょう」
「……できないよ!!」
気がついたら、僕は、今までに出したことのない、大声を出していた。
「スモ爺が、死ぬなんて、考えたくもないよ!! でも、このまま、スモ爺を、捨てるようなこと、したくないよ!!」
僕は、とっさに、走り出していた。スモ爺のところに、行かなくちゃ。
チィが、いつものように、ついてくる。
「チィ、ついてこないで!!」
振り返って、僕は叫んだ。だけれど、チィは、僕のサポートロボットだ。離れることはない。
「ついてこないでよ!!」
真っ暗な中、僕は、スモ爺のところに行かなくちゃ、という想いと、チィと、離れたいと思う気持ちで、ごちゃごちゃになって、とにかく走った。
「ロキ!! 待って!!」
後ろから、ルカの声が、小さく聞こえた気がしたけれど、反応することすら、できなかった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる