57 / 58
新たなスタートへ
最大のサプライズ。
しおりを挟む俺は、美沙さんの合図を受けて、歓談の中をこっそり抜け出した。
そして、裏に止めていた、手作りの飾り付けをした軽トラックをカフェの前につける。
きっと今、美沙さんが司会で締めて、次の指示を出してくれているはずだ。
しばらく待っていると、カフェ結婚式に参列してくれた人達が出てきて、軽トラまでの道を作る。
美沙さんの先導で、カフェから出てきたののさんと祐介さんは、目を丸くして驚いていた。当たり前だ。だって、これは祐介さんですら知らなかったのだから。
二人は、参列者の花道をぬって、軽トラの側まで来て、皆の手を借りて軽トラの荷台に乗っている。
扉が開いて、助手席に美沙さんが座った。
「お疲れ様。いよいよじゃね」
そう言って、美沙さんは、俺の手にいちごみるく味の飴を握らせてくれた。
俺はそれに、笑顔で頷く。
そういえば、いつからだろう。じいちゃんじゃなくて、美沙さんがいちごみるく味の飴を握らせてくれるようになったのは。
「じゃ、準備できたみたいじゃけえ、ゆっくりの安全運転でお願いよ」
「わかっちょるよ」
俺は、ゆっくりと軽トラを発進させた。
荷台には、二人が立って乗っているはずだ。
このまま、小学校の体育館まで移動する。二人には、何処に行くか内緒だ。
ただ……運転をしている俺と、隣の美沙さんにも、サプライズがあった。
田舎道の街頭で、近所のおじいちゃん、おばあちゃん、おじさんおばさん達が、笑顔で手を振って、ののさんと祐介さんに声をかけて祝福していたのだ。
……じいちゃんがこっそり動いていたのは、これだったのか。
俺は、できるだけゆっくりと軽トラを走らせた。泣いてしまったら、前が見えなくなってしまって危ないから、今までにないくらい顔面筋に力を入れた。
こうして、軽トラは小学校へと入っていった。
俺は急いで移動しないといけなかったから、美沙さんの手を握って合図して、すぐに軽トラを出ると、二人に手を振って走る。
小学校の体育館裏では、最後のサプライズの準備が待っていた。
俺は大急ぎで、その準備の中に入っていく。
その間、体育館の中には、ののさん、祐介さん、美沙さん、参列してくれた人、近所の人達が準備をしているはずだ。
「準備できたよ!!」
美沙さんから着信が入る。
「準備できたそうです!!」
「よっしゃ!!」
俺の声に応えてくれたのは、俺の所属する神楽団の組の人達。
そう、最後の最大のサプライズは……俺の初舞台だ。
美沙さんが提案してくれて、神楽団の人達はとても快く受け入れてくれた。
俺はチラリと、裾から観客席を見る。
真ん中にはののさん、祐介さん、美沙さん、じいちゃん、父親、母親……吉岡のおじさんにおばさんに……。ここに来て俺を支え続けてくれた、みんなが座って待ってくれている。
そして一番裾に近い場所に、二人分席を空けて貰っていた。
これは勿論……俺の、ノリじいちゃんと、文夫じいちゃんの席だ。
もし、俺の持っているこの不思議な力が、神楽で神様を楽しませる為にあるものならば。あの二人が、俺が良い舞手になることを楽しみにしていてくれるのならば。
そして俺自身が楽しんで、みんなの為に精一杯舞いたいから。
だから俺は、神様の為に、じいちゃん達の為に、大切な人達の為に、そして俺自身の為に、今日この舞台で精一杯舞う。それが、俺の、みんなへの感謝と二人へのお祝いだ。
笛の音が鳴り響き、太鼓の音が踊る。
俺は、その曲に合わせて、舞台へと一歩を踏み出した。
演目は、俺の原点、ジンリン。
長いようで短い舞が終わって、息を切らしながら一瞬観客席を見たとき。
みんなの笑顔、拍手、そして……。
二人のじいちゃんの為に用意した席に、あのキラキラして綺麗な光が見えたのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる