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ゆっくりと。
過去の罪1
しおりを挟む唐突に言った俺の言葉に、祐介さんは驚くべきことを提案してくれた。
それは、祐介さん、ののさん、そして結城さん。みんなに話して欲しいとのことだった。
かなり前から、三人は、俺のことを心配してくれていたらしい。
「陽介さん、僕らはみんな、あなたの言葉に、行動に助けられた。過去に何があったとしても、一緒に考えて受け入れて、前に進みたい。だから、話して欲しいです」
祐介さんの言葉に、俺は頷くことしかできなかった。
午後、俺はじいちゃんと一緒に、いきいきカフェへと向かった。
いくら受け入れてくれると言われても、聞いたら拒絶されるんじゃないか。その恐怖が拭いきれなかった。
だから俺は、じいちゃんに側にいて貰うことにしたのだ。
それに、じいちゃんも知らないはずだ。俺が引きこもった、本当の理由を……。
いきいきカフェに、俺、じいちゃん、祐介さん、ののさん、結城さんが集まった。
改めて過去のことを話すと思うと緊張するし、このまま筋肉で蓋をしておいた方がいいのじゃないかとも思ってしまう。
だけれど、みんな、その場の雰囲気を和ませながら、俺が話しやすい環境を作ってくれる。
「あの……凄く長くなってしまうのですが……」
そう前置きをして、俺は話し始めた。
小学生の時、いや、きっともっと前から、俺の見えているものは人と違っていた。
声が聞こえたり、人を見たら、咄嗟に言葉が出て、人の隠している悩みのことについて言ったり、あの道は行かない方が良い、危ないと言い出したり……母親と父親の事件が、良い例だ。
でも俺は、それが当たり前だと思っていた。
だけれど、それは違った。
俺は、「おかしなことを言う子」だった。だけれどそれ以上に、「気味の悪い子」でもあった。
何故なら、俺の言ったことがほとんど当たるから。
大人達は、俺を気味悪がった。そして、もっと残酷なのが子供だ。
「嘘つき」「気持ち悪い」何度そんな言葉をかけられただろう。でもきっと、その子達の家で、大人も同じ事を言っていたんだろな、と今では思う。
それでも俺は、見えた物を言うことを止めなかった。
それは、あの人がいたから。あの人が、俺は間違っていないと言ってくれたから。
ただ、俺はあの人と、この不思議な力について約束をした。
決してこの力は、私利私欲の為に使わないこと。そして、悪意を持って使わないこと。
俺はよく分からなかったけれど、絶対に守ると約束した。
事が起こったのは、中学の時だった。小学校の同級生が、俺の噂を流したせいで、俺は浮いていた。だけれど、そんなことは慣れっこだった。
そんな俺にも、人並みに好きな人ができた。もう名前を忘れてしまったからAさんとする。俺はぼっちだったし、コミュニケーション能力もなかったから、話しかけることすらできなかったけれど。
だけれどある日、帰る時間が一緒になったとき、見えてしまった。
いつもの通学路を歩くと、危ないと。
考える前に、言葉が出ていた。Aさんは驚いていたけれど、俺の噂は聞いていたのだろう。俺の言うとおり、違う通学路で帰ってくれた。そして、Aさんの帰るはずの道で、同時刻、女子中学生が声をかけられるという不審な車の目撃が相次いだのだった。
翌日、Aさんにはお礼を言われたけれど、黙っていないのが周りの男子だった。
「偶然だろ」「本当に気味の悪い奴」「でも当たるから、関わるなって親から言われてるんだよな」
もうそんな言葉慣れっこだった。だけど……。
「なあ、だったら、証明してみろよ。俺たちは、あえてお前の危ないという道を行く。そこで何かあったら、お前を信じて仲間に入れてやるよ」
そう言われて、俺は何処かで期待してしまった。これで信じて貰えたら、友達ができるのではないかと。
「どーせ、無駄だろうけどな」
俺に一番辛く当たっていたのは、小学生の時からの同級生Bだった。Bの親は、一度俺の言ったことを無視して、何かあったらしい。だからか、特に俺は敵視されていた。
そして俺は、二つの約束を、同時に破ってしまった。
友達が欲しいという私利私欲の為。そして……Bに、目に物を見せてやりたいという悪意。
だから、俺は、危ないと思った時に、そいつらに声をかけた。
そいつらは嬉しそうに、嬉々としてその道を行こうと言った。勿論、俺も一緒に。
そこで起きたのが、通り魔事件だった。
突然、刃物を持った男の人が、道行く人、そして俺たちに襲いかかってきたのだ。
いくら男とは言っても、俺達は中学生男子。何もできなかった。
咄嗟に逃げることも、身を守ることも。
周りは混乱に陥っていた。叫ぶ声や、男の人がその人を取り押さえようとする姿。
そしてその過程で……Bは、腕に傷を負った。命に別状はなかったが、Bは運動部で、大会を控えていた。その傷のせいで、Bは大会に出ることができなくなった。
俺は、こんなに大きなことが起こると思っていなかった。
だって、俺には、細かく何が起きるかは分からなかったのだから。
それでも、俺はこれで信じて貰えると思った。友達ができると思った。
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