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ゆっくりと。
愛し子。
しおりを挟む次の日からも、俺は吉岡のおじさんの手伝いをして、その後カフェの手伝いに行っていた。
「陽介さん……大丈夫ですか?」
「えっ……」
祐介さんに言われて、ハッとなった。そんなにぼーっとしていただろうか。
「あ……大丈夫です……」
「なら良いですが……陽介さん、何か考えている時は、伝えて下さいね。何かあっても、みんなで考えていきたいと思っていますから」
祐介さんの優しい言葉に、俺は黙って頷いた。
夕方、じいちゃんと吉岡のおじさんがカフェにやってきた。
「大分形になったのう」
「ええじゃなあか!!」
じいちゃんと吉岡のおじさんが口々に言う。
ののさんと祐介さんが嬉しそうに笑う。
それを見て、俺も嬉しくなった。
俺の大好きな人が笑ってくれている。それだけで、良かったんだ。
あの時だって……。
そう思って、慌てて筋肉で蓋をする。
駄目だ。今思い出したら、俺はまたきっと外に出られなくなる。嫌だ。せっかく、こうやって繋がりができたのに。
両親や結城さんのきっかけ、じいちゃんのお陰でここまで来れたのに、一気に逆戻りなんてしたくない。
「ほうじゃ、陽介。しばらく、一緒に吉岡の家に泊まるけんの」
そんなことを考えていた俺に、じいちゃんが驚くべきことを言い出した。
「な、なんで!?」
「いやあ、文夫がのう、どうしても陽介と神楽を見たいと言ってきかんのじゃ。あれはしばらく離す気はなあけえ、泊まった方が早かろう」
「……」
文夫さんとは、吉岡のおじいちゃんだ。
寝たきりだけれど、座るときには座って、老人だと思えないくらいご飯をしっかり食べる人で、俺のことも凄く可愛がってくれている。
そして……あの人の友人の一人だ。
「陽介くん?嫌だったら断ってええんよ?うちらは大歓迎じゃけど」
ののさんが、気遣うように言ってくれた。
「あ、いえ、違うんです!神楽、凄く見たいし嬉しいです!!ただ……プロテインを持ってこなきゃと思って……」
必死で言う俺に、ののさんが笑った。
「じゃあ、必要なものを持ったら来んさい。待っとるね」
ののさんに言われて、俺はまた頷いた。
「もぉー、本間にごめんねえ。じいちゃんがわがまま言うてから」
吉岡のおばさんが、沢山のおかずを俺に取り分けながら言った。
おばさんの料理は、とても好きだ。母親の料理も美味しいけれど、おばさんの料理はここの野菜をふんだんに使うからか、ずっとここに居たからか、とても優しい味がするから。
「陽介が神楽を舞ってくれるかもしれんのんじゃ。黙っとれん。しっかりノリの舞を見せとかんと。ノリの父ちゃんの舞もの!」
吉岡のおじいちゃんが、嬉しそうに笑いながら言った。
相変わらず、細い体なのによく食べる人だ。
こうして夕食の後、俺は吉岡のおじいちゃんの部屋に俺とじいちゃんの布団を敷いて、三人でテレビの前に座った。
「さて、どれから見せようかのう。こんなに楽しいのは、久しぶりじゃ」
吉岡のおじいちゃんが、嬉しそうにDVDを選んでいる。昔の神楽は、今やDVDで保存されているらしい。俺は、そのことに少し驚いていた。
「……陽介」
突然、吉岡のおじいちゃんが、俺を呼んだ。
俺が聞き取ろうと側に行くと、また、あの日の夜のように、震える手で俺の頭を撫で始める。
「わしらにとってのう。孫はそれはそれは可愛いんじゃ。それこそ、周りのもんの子もかわゆうてしゃあない(可愛くてしょうがいない)」
「……」
「じゃけん、わしもツネオもノリも、例え陽介が隠れて悪さしとっても、怒りはしても、見捨てやせん。道を違っても、それを教えるのがわしらの役目じゃけえ」
……吉岡のおじいちゃんは、何も知らないはず。なんで……。
俺が顔にでていたせいか、吉岡のおじいちゃんがガハハとおじさんとそっくりに笑った。いや、おじさんが似たのか。
「伊達に歳はとっちょらんで。(伊達に歳をとってないよ)お前の今の顔は、悪さした子供と同じじゃけえ」
吉岡のおじいちゃんが、俺の頭を撫で続けながら言った。
俺は顔面筋に必死で力を入れて、泣かないようにしながら、どのDVDを見るか選んでいるフリをした。
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