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少しの平穏。

あたたかい何か。

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 いつものように、じいちゃんと縁側で話していると、軽トラックが庭に入ってきて、家の前で止まった。

「おう、ツネオさん、陽介!ええところにおった(良いところにいてくれた)。すまんが、手伝ってくれんか。野菜を持ってきたんじゃが、どうもこの前から腰がわるうてのう(腰が悪くて)」
 母親の友達の、顔見知りのおじさんが、運転席から降りてきながら言った。
「やれやれ、まだ若いもんが何をいようるんか……。(何を言っているんだ)陽介、手伝って貰ってええか?」
 俺は、無言で頷いて立ち上がると、縁側の下にいつも置くようになったサンダルを履いた。
 そのまま、じいちゃんの後ろに続いて軽トラックに近づく。
「陽介はがたいがええけえ、力仕事に重宝しそうじゃのう。(体格が良いから、力仕事に重宝しそうだね)気が向いたらでええけえ、今度手伝いに来てくれえや。(気が向いたらで良いから、今度手伝いに来て欲しい)」
 おじさんが、笑いながら言った。
 俺は、曖昧な笑顔で少しだけ頷く。
 野菜を玄関前まで運び終わると、おじさんは笑いながら帰って行った。

 
 ここの人達は、いつも縁側でじいちゃんと座っているだけの俺にも優しい。
 上手く答えられない俺なのに、誰もがいつも笑顔で話しかけてくれる。
 俺は、野菜を玄関の中に運びながら、じいちゃんに聞いてみた。何もしていない俺に、どうしてみんなこんなに優しいのかと。
 じいちゃんの答えは、意外なものだった。
「そりゃあ、お前がノリの孫じゃけぇ。(孫だから)ここの誰もが、ノリには世話になっちょった。(お世話になっていた)その孫が戻ってきたんじゃけぇ、あれらは嬉しくてしゃーないんじゃ。(その孫が戻ってきたのだから、みんなは嬉しくてしょうがないんだよ)」
「……それだけ?俺、働いてもないのに……」
「はっはっはっ!!信二さんが、わしらにはようわからん仕事をしとるけぇのう。(自分達にはよく分からない仕事をしているから)それの手伝いでもしちょると思っとるんじゃ。そこら辺は、よしこちゃんがうもうやっとるよ。(上手くやってるよ)」

 ……そうか、ここの人から見たら、父親はきっと、都会でのよく分からない仕事をしているのだろう。
 俺は、サポートしてくれている母親に、心の中で感謝した。
 それと同時に、あの人がどれだけここで慕われていたのかも考えていた。


 その時。


 とてもあたたかくて、優しくて、気持ちが良くなる風が、俺の体を包み込むように吹き抜けた。
 思わず、風が吹いた先を見た俺の耳に、久しぶりに声のようなものが聞こえてきた。

《元気がないね。こっちだよ、こっちだよ》

 俺は思わず、声がした方をじっと見つめた。
「陽介?」
「じいちゃん、なんか、向こうから声がした」
 俺は、声が聞こえたことと、呼ばれたと思われる方向を指さした。
「ん?あぁ、あそこかもしれんのう(あそこかもしれないな)」
 じいちゃんはそう言うと、俺に手招きして、歩き始めた。慌てて、横に並ぶ。
 こっちは、敷地内だけれど、何もない少し開けている山のはずだ。
 そこの端っこの方に、あの人や、ご先祖様達のお墓がある。最初は家のすぐ近くにお墓があってびっくりしたけれど、田舎ではこれが普通らしい。
 じいちゃんは、お墓とは少し離れた場所に歩いて行く。

《来たね、来たね。おいで、おいで。元気をあげるよ》

 今までにないくらい、ハッキリと声が聞こえた。
 俺は思わず、足の筋肉に力を入れて、じいちゃんを追い越して小走りになった。

「ここ……か……??」
 筋肉はつけていたが、持久力の問題なのだろうか。俺は息を切らしながら、声が聞こえる場所に立つと、驚いた。
 そこには、特に他と変わらない、大きな木が一本そびえ立っていたのだ。

 でも、何故かその木から、とてもあたたかいものを感じた俺は、ゆっくりと木に触れると、気がついたらそのまま木に抱きついていた。
 
 

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