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変わる環境

一体何を考えている。

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 引っ越しが決まってから、しばらくが経った。
 家を訪れる人は減ったものの、まだ占い師を求めて来る人はいるようだ。
 俺はため息をつくと、荷物を段ボールに詰めていく。といってもほとんど物はないようなものなのだが。


 ……祖父の家に移り住む。まだ実感が沸かない。
 なんだろう。思い出すことを、筋肉の全てが拒否するのだ。
 多分、俺が考えた「あの人」とは、祖父で合っている。それは感覚で分かっていた。
 だからきっと、俺に大きく影響を与えた人なんだろうけれど……。


 俺は、まだ未開封のプロテインを眺めながら、小さくため息をついた。
 あの時は、自分専用のトレーニング部屋が欲しくて承諾してしまったが、それには外に出て人と関わらないといけない。
 嫌だ。
 ……でもなぜ嫌なんだ?
 いや、確かに俺は全てが嫌になって引きこもった……はず。
 引きこもった原因なんて忘れてしまった。そう、忘れたんだ。


 だって人は、多数の人間と違うだけで、《排除》しようとするではないか……。



 ん?俺は今何を考えた?
 まぁ良い。プロテインを箱に詰めなければ。


 プロテインを箱に詰めていると、父親と母親が階段を上ってくる音がした。
 父親と母親が変わってくれたからだろうか。はたまた、単に慣れただけだろうか。俺は、二人となら少しずつ普通に話せるようになっていたのだ。

「陽介、荷造りは進んでいるか?」
 父親の言葉に、俺は頷いた。
 今プロテインは入れたし、バランスボールも、筋トレグッズも箱の中だ。後は少しの服。服は増やさないといけないと母親が言っていたから、向こうの住所宛にネットで買っておいた。
 ……まさか、母親とネットであれ服を一緒に選ぶ日が来るなんて思わなかったが。

「お父さんもね、仕事場で凄く頑張ってくれたのよ。できるだけ家で仕事ができるように。今は凄いのねえ。パソコンがあってネットが使えれば、家で仕事ができるんですって」
 母親が嬉しそうに言った。
 と言うことは、父親も今まで以上に一緒にいるのか。けれど不思議なことに前のような嫌悪感はなく、むしろホッとする自分がいた。


「そういえばなぁ……陽介」
 父親が、頭を抱えるようにして言った。
 俺は首をかしげて、父親を見る。
「あの、結城さんの娘さんを覚えているか?」
 俺は頷いた。当たり前だ。そいつのせいで今この状況になったんじゃないか。
「その……あの子がね、陽介が向こうの家に移るってことを知ってしまったのよ」
 ……はぁぁぁぁぁぁぁ!?
 俺はまさに開いた口が塞がらなくなった。正直、もうあの人とは二度と関わりたくない。
「ごめんな、父さんの仕事の調整をするのに、どうしても社長の方の結城さんに伝えなければならなかったんだ。だが、軽々しく娘に言うのもどうしたものか……」
 父親がため息をついた。
 俺は混乱していた。人から逃げるために向こうに行くのに、また追いかけて来られるのか!?
「それで……どうなる……の?」
 ゆっくりと言った俺に、両親は顔を見合わせると、真剣な顔になった。
「それがな。社長さん直々に願い出があってな」
「……」
「娘さんを、しばらく一緒に住まわせて、家で働かせて欲しいと言うんだ。いわゆるお手伝いさんだな。父さんも強く断ったんだ。確かに家は広いし部屋はあるが、お手伝いさんなんていらないと」
「……」
「だがあの社長さんも娘のことになると引かなくてな……。実は、ここに来た日から占い依存が治ったらしいんだ。だけれど代わりに、ずっと塞ぎ込んで考え込んでいるらしい。その時、お前の話をしたら、なんでもするから一緒に行きたいと言い出したらしくて……」
「い、嫌だ……」
 俺は、必死で首を振った。なんだ、俺は教祖じゃないんだぞ。
「……分かっている。ただ、向こうも引いてくれない。だから、向こうとも交渉して取引をすることにした。まず、陽介の不思議な力に一切頼ってこないこと、陽介に必要以上に近づかないこと、陽介も無理して答える必要はないと。その代わり衣食住は保証する」


 父親の交渉術って、なんだか凄かったんだなぁ……。


 でも、なんで、なんでこうなった。
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