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知らんがな。
人の心なんて知らんがな。
しおりを挟む「えっ……」
結城さんが、驚いたように声を出した。
ど、どうしよう、どうしよう。
恋愛なんて分からない、ましてや一応占い師として話を聞いた俺が、そのどちらも否定するようなことを言ってしまった。
そんなこと言うつもりじゃなかった。
ただ、「あの人」ならなんて言うかと考えたら……。うっ、「あの人」って誰だっけ。考えようとすると、頭が痛くなる。
筋トレか!?これは筋トレをして心を落ち着けるしかないのか!?
そうだ、スクワットだ、スクワットをしよう。
だが、今日の筋トレメニューは終わっている。何事もやり過ぎはよくない。
「あ……あの……」
結城さんが、遠慮がちに声を出した。
「……」
どうしよう。返事なんてできるわけない。
罵倒されたら?
うっ……プロテインが胃で反乱を起こしている。
「あの……どうして、私の心が満たされてないと思ったんですか……?」
「……」
いや、知らんがな。本当に知らんがな。
あなたの心なんか知らんがな。初対面だし、そもそも色んな人とお付き合いしているだけで、俺とは正反対の人間だ。
だから俺は、黙ってやり過ごそうとした。
「あのっ……。どうすれば、私の心は満たされますか!?」
結城さんが、少し大きな声を出した。
知らんがなーーーー!!
筋トレをしろ、筋トレを。筋トレの後のプロテインほど、満たされた気分になることはないぞ。
そう思ったけれど、言えるわけない。
沈黙を続けているが、なんとも気まずい。扉越しなのに、空気が重い。
その時、母親が階段を上ってくる音がした。
て、天の助けか……!?
まぁ、さっき結城さんが大きい声を出したから、心配してくれたんだろうけれど。
母親は、結城さんに声をかけて、下に一緒に行くように促してくれた。
結城さんもそれに従っているようだ。
「……今日はありがとうございました。少し、自分でも考えてみます」
最後に、結城さんはそう言った。
うん、それが良いと思う。
それにしても、なんだかどっと疲れた。
思い出したくないことを、無理矢理思い出しそうになったというか……。
自分で鍵をかけて捨てたはずの箱を、自分で無理矢理こじ開けようとしたような……。
……忘れよう。
自分で鍵をかけて捨てたのならば、それはきっと開けるべきではない。
母親が、階段を上がってきて、俺の部屋の前に来た。
「結城さん、帰られたわ。なんだかとても深刻な顔をしていたから、話を聞いてみたの。あなたが言ったことも聞いたわ。……あなたが言ったことはとても正しかったと思う。大分占い依存的になっていたみたいだし……」
母親が、俺を慰めるように言った。
「ねぇ、母さん」
「何?」
「俺にとっての、あの人って誰だと思う?」
思わず、口に出ていた。
開けるべきではないと分かっているのに、気になってしまうのが人間というものだ。
母親は少し迷った後、父親にも聞いてみると言うことで、話は終わった。
今思えば、ここが全ての分岐点だったのかもしれない。
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