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知らんがな。

経営なんて知らんがな

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「あの……今回はよろしくお願いします」
 少し弱々しい男の人の声がした。
「……」
 俺は答えない。始終無言でも良いと言われたから……。

「えっと……お父様から好きに話して良いと言われたので、話させて頂きます。実は、私も小さい会社の社長をしていまして……。自分で言うのもなんなんですが、経営は順調なんです。それなのに、何故か経理の計算が赤字になっていて……。どう見ても、納得できなくて……。この先が不安なときにたまたまお父様が話しているのを聞いてしまい……」
 いや、俺、経営のことなんか知らんがな。経理で赤字なんなら、無駄買いでもしてるんじゃないのか?それくらい、俺には知識がないのだ。
「経理の確認もしたのに、何故こんなことになっているか分からなくて、つい占いに頼りたくなってしまって……」
 いやいやいや、俺、本物の占い師じゃないんだ。
 でもこれ、今までみたいに適当に答えられないよなぁ。知らんがな、とは思うけれど、このまま黙っているのも申し訳ない気がしてきた。
 だけれど、知識もないのに何を言えと言うんだ……。
 俺は、ドアの向こうをじっと見つめた。


「……あの、横領……っていうんですかね……。会社のお金を、不正に使っている人とかいないですよね……?」


 自分で言って、自分が言ったことに驚いた。
 何故だ。なんとなく頭に浮かんで、気がついたら口に出していた。これじゃ、この人の会社の社員を疑っていることになるじゃないか。
 謝った方が良いのか……?


 でも、なんでいきなりこんなことが浮かんだんだろう……。


「あ、ありがとうございます。その考えは全くありませんでした……!!もう一度、調べ直します!!」
 あ、手遅れだ。やばい、どうしよう。男の人の声が明るくなっている。本当にどうしよう。

 父親の足音が聞こえる。なんだ、今は救世主の音に聞こえるぞ。

「あぁ!息子さんが本当に良いアドバイスをしてくれました!!本当にありがとうございます!!」
 おい、おっさん、何言ってるんだ!?最初の弱々しい声はどうした!?
「えっ……?」
 父親も驚いている。当たり前だ。
 お礼をしたいという父親の友人?の申し出をなんとか父親が断って、じゃあ当たったらお礼をと落としどころを見つけて貰い、その人は帰っていた。


 つ、疲れた……。家族以外と話すなんて、十年以上ぶりだ。
 一言しか言っていないけれど……。

 やっぱり、人とは関わりたくない。こんなことは、これっきりにして欲しい。
 まぁ、今度こそ、外れるはずだ。だって、横領なんてあるわけない……。


 俺は気を取り直して、今日のトレーニングを始めた。
 今日はちょっと時間をかけたい。基本的なスクワットにしよう。
 スクワットは知っての通り、お尻を後ろに動かして、膝とお尻を曲げ、胴体を低く下げてから直立の姿勢に戻る。スクワットは主に大腿部、臀部、大腿四頭筋等の下半身を鍛えてくれる。
 基本的だと言っても、回数や速度でしっかりと負荷はかかるのだ。
「ふっ、ふっ、ふっ!!」
 リズムを意識するのも忘れない。

 今日はいつもよりも長くトレーニングをした。
 トレーニングをすることで、忘れたかったのだ。何を忘れたいのかは分からないが、とにかく忘れたいのだ。

 限界までトレーニングをした俺は、無造作にプロテインを取った。
 こんな日こそ、いちごみるく味だ。

 

 父親の友人?がお礼に訪れたのは、それから数日後だった。


 

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