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20、アンジュの秘めた能力

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 アンジュは側でキュウキュウと可愛く鳴く子供ドラゴンを見て思う。自分たちがしてることはいけないことなんじゃないか。子供を誘拐されたら怒るのは親として当たり前のこと。それが人でないドラゴンだって同じことだと。アンジュは意を決してドラゴンと対峙してるゲニー達の方へ向かった。

「ゲニー! ドラゴンを攻撃するのをやめて!」
「は?! アンジュ何言ってるんだ! 攻撃をやめれば下手したら殺されるぞ?!」
「ドラゴンと話がしたいの! ちゃんと話せば分かってくれるわ!」

 アンジュは真剣な目でゲニーを見つめた。ゲニーはため息をついて口を開く。

「アンジュのことは僕が守るから。危ないと思ったらすぐ攻撃するからね。やれやれ、僕の奥さんは一度言うと聞かないんだから」

 困った笑顔を向けるゲニーにアンジュは抱きついた。

「ありがとう。愛してるわ」
「話し合い、頑張ってこいよ」

 ゲニーはアンジュの頭をポンポンと撫でる。アンジュは頷き、ドラゴンに向かい顔を上げた。ゲニーはアンジュと自分を含む生徒や教師にシールドを張り、ドラゴンの攻撃に備える。

「まず貴方たちにこれまでの非礼を詫びます。本当にごめんなさい」

 アンジュはドラゴン達に深々と頭を下げた。

 ドラゴンはアンジュに向かって炎を吐く。シールド内にいたアンジュは前に進み出し、シールドの外に出た。ゲニーが慌ててシールドを広げようとするが間に合わずアンジュは炎に包まれる。すすだらけになり、フラフラになりながら立ち口を開いた。

「ごめんなさい。もっと怒っていいわ。怒り終えたら、私の話を聞いて欲しい」

 無抵抗でドラゴンに歩み寄るアンジュから心からの詫びを受け、ドラゴンの攻撃が止む。

 立ってるのもやっとなアンジュは地面に膝をつき崩れた。ゲニーが駆け寄りアンジュの体を支える。

 一番大きい体を持つドラゴンが人語でアンジュに話しかけてきた。

「そなたに免じ、今回は不問にしよう。二度は許さぬ」
「ありがとう。もう貴方たちを利用することはしないと誓うわ。せめてものお詫びに傷付いた貴方たちを治すことをさせて」

 アンジュは立ち上がり、ドラゴンに額をつけ治癒魔法を施す。会場があたたかい光に包まれ、ドラゴンじゃない生徒や教師、そこにいる人全員の傷も癒えていく。治癒魔法は莫大な魔力を使う魔法だ。思うように使える人もなかなか居なく、魔法のスペシャリストが集う魔法団でも治癒班は重宝される。アンジュのしてる治癒魔法は規格外で、魔法をよく知り研究し、尚且つ作り出すことも出来るゲニーはある仮説を立て、脂汗をかく。アンジュは聖女なんじゃないかと。この国では聖女は王の側妃として召し上げられる。今はまだ治癒魔法が得意なだけと言い張ることは可能だが、もしこの仮説が正しかったら、アンジュが聖女として完全に目覚めてしまったら、自分とアンジュが添い遂げられることは無理に等しいと。反逆罪覚悟でアンジュと駆け落ちすることも出来るが、家族も罪に問われるだろう。ヴァイスハイトとデーアのことを思うとその選択はできない。

 ドラゴンとの対峙が無事解決し、生徒たちは普段の生活に戻った。卒業も間近になり、卒業式の後開かれるプロムのことで生徒たちは湧き上がり、色めき立っていた。

「なんだ、浮かない顔をして。せっかく首席になれたのに」

 ゲニーの表情を見て、ヴァイスハイトが心配そうに覗き込む。

 ドラゴンの件があり、ゲニーとアンジュは特別に追加配点を貰い、ダブル首席になった。ちなみにヴァイスハイトは三位、デーアが四位で四人とも五番目に入ったので無事推薦を貰えることになった。

「何を悩んでるんだ」

 せっかく勝負で勝ったのに浮かない顔をする弟の様子がおかしいと思ったヴァイスハイトは、悩んでるわけを言えとばかりに引き下がらない。自分も頑固な方だと思っていたが、負けず劣らず頑固なヴァイスハイトに根気負けしたゲニーは口を開く。

「アンジュは……聖女かもしれない」

 ゲニーの突然の告白にヴァイスハイトは驚き言葉を失う。

「仮説が決定打になったのは、ドラゴンが最後に残した言葉だ。ドラゴンが言ったんだ。『そなたのまだ眠っている力が目覚めた時、この世で治せない癒せない傷はなくなるだろう。清らかな命を大切にしなさい』って。……なんなんだよ!! このままじゃ、アンジュは……僕とは……」

 今にも泣きそうな顔をするゲニーの両肩を掴んだヴァイスハイトは、思いっきり自分の額を弟の額に打ち付けた。

「痛!」
「ああ、俺も痛い」
「ヴィー、なにすんだ!」

 ゲニーはいきなり頭突きをしてきたヴァイスハイトを睨みつける。

「それはこっちのセリフだ! お前は何をしてるんだ! 稀代の天才魔法使いの弟がこんな情けないやつだとは思わなかった! アンジュが聖女? だから何なんだ! 好きな女くらい自分の手で守れ!」

 いつも淡々としているヴァイスハイトがこんなにも声を荒げる姿を、ゲニーは生まれて初めて見る。

「ははっ。そうだな、そうだよな! 奪われたくなければ、守ればいい。なんたって僕は稀代の天才魔法使いだからね!」

 憑き物が取れたようにゲニーは大笑いする。そんな弟を見て、ヴァイスハイトはホッとしたように微笑む。それでこそゲニーだと、本来の明るく楽観的な弟に戻ったと安心したのだった。
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