上 下
72 / 80
河童騒動の後始末

71 河童の助吉、その後…

しおりを挟む

―――人界の、河童の隠れ里―――

 我は、河童の助吉。
 あれからずっと、我と二匹の妾との生活は続いていた。
 二匹の妾というのは、渕に放り込まれてきた橋本と黒崎というヒトのメスだ。
 普段はすることが無いので、我は二匹に、竹細工を教えてやった。
 竹は、外の渕の周辺にたくさん生えている。切ってきて乾燥させ、割って細いひごにし、かごなどを編むのだ。
 二匹はなかなか器用で、直ぐ上達した。

 我は当初、女河童たちが来る前に二匹を喰うつもりでいた。
 取り上げられてしまうくらいなら、我が喰ってやった方が良いだろうと……。
 しかし、一緒に暮らしていて、喰うのが可哀想になってきた。
 助けてやりたい・・・。

 だが、それは、ここの掟を破ることになる。不要なモノとして投げ込まれてきたヒトは、喰うか連れ帰るかしなければならない。
 我が外に出してやるのは、やはりマズイ。

 でも…。こ奴らが、自ら逃げたのであれば……。

 ここから逃げるには、水中の通路を百メートル程度無呼吸で泳ぎ切らなければならない。
 我ら河童には造作もないことだが、普通のヒトには、難しいことだ。
 だから、もしもバレたとしても、「よもや逃げるとは思わなかった」と言い訳が出来る……。

 我は二匹に泳ぎを教えることにした。
 隠れ里内の、外に繋がる水路前は広い池になっている。この池の底近くに、外界の渕に繋がる水路があるのだ。
 この池で、我が教える通りに、二匹は真剣に泳ぎを練習した。
 我の精を受けて来たこともあってか、ヒトとしては速く泳げるようになり、魚も自分で捕まえられるようになった。
 女河童たちが来る一年前には、黒崎は百メートルを何とか無呼吸で泳げるようになった。ただ、ギリギリでは、途中で溺れ死ぬおそれもある。もう少しだ。
 橋本は、あと少し足りない。これでは、確実溺れる。期限内に、間に合えば良いが、どうであろうか…。


 我は、この里に居る間、人の世の情報収集に努めた。
 そして、二年毎の報告で、御曹司に情報提供した。
 御曹司は、最初の報告時の「書付」が大層お気に召したようで、我の情報を楽しみにしていてくれていた。毎度、熱心に聞いてくれる。
 我の任期が終了する前には御曹司が次期村主すぐりに就任することになるようだ。覚えがめでたくなれば、以後、良い扱いを受けることも出来るだろう。
 期待が持てそうだ。




 女河童たちが来る日が近づいてきた。毎回のことだが、異界の門が開く前日には、向こうから通信が入ることになっている。
 通信というのは、水晶の玉だ。これが赤く光り出すのだ。
 赤く光っている玉を布でよーく擦ると、光が緑に変わる。これが「了解」の返答だ。向こう側にも玉があって同じ状態になるようで、それを確認して、翌日異界の門が開かれることになる。
 だから、通信が入った日には、橋本と黒崎を逃がさなければならない。

 ……が。
 予定の日を過ぎても通信が入らない。
 橋本はギリギリ百メートルを泳げるようになったところでしかなく、時間的余裕が出来るのは有難いが、我は焦った。
 待てど暮らせど、玉は赤く光らない。
 予定より二十日過ぎても、まだ通信が入らないのだ。
 何かトラブルがあったのか…。
 しかし、こちらから、向こうへ通信する手段は無い……。

 一カ月遅れで、やっと玉が光り出した。やれやれ一安心だ。
 しかし、これで二匹とは別れなければならない。
 八年もの間、一緒に暮らしてきた愛らしい奴らだ。無性に寂しいが、仕方ない…。
 我は玉を緑色に変えさせ、返信する。
 そして、橋本と黒崎に告げた。

「明日、ここへ女河童たちが来る。
 奴らが来れば、其方らは喰われてしまうか、河童の里へ連行されるかのどちらかだ。
 本来は其方らを逃がすことは許されない。だが、其方らは、我に良く尽くしてくれた。だから、逃げ方を教えてやる。
 其方らが自力で逃げ出す分には、我が知らぬ間に起ったということにしてやる」

 橋本と黒崎は、涙を流しながら、我の言葉を真剣に聞いている。
 我は続ける。

「この池の向こう端の水中に、外へ繋がる通路がある。
 但し、百メートル程の長さの水路だ。
 この間、息継ぎは出来ない。よって、其方らに泳ぎを教えたのだ。
 位置を確認してから、十分に息を吸って一気に泳ぎ抜けよ。
 抜けられれば、其方らは自由の身だ。
 但し、この里のことは決して他言してはならぬ。
 ここが人に見つかれば、河童とヒトとの戦争になりかねぬ。
 我らもだが、ヒトの方も、多大な被害を受けることになろう。
 互いの為に、秘密にしなければならないのだ」

「わ、分かりました。ぜったい、内緒にします」
「あ、あの、だけど…。
 私たち、こんなんで、これからどうやって暮らしてゆけば……」

 黒崎の嘆きも無理はない。奴らは我の精を八年受け続け、体の色は人のモノではなくなっている。
 緑色…。水掻きは無く、尖った歯でも無いが、パッと見た目、我ら河童と同じだ。

 ちなみにヒトは、河童の頭に皿があって、背に甲羅があると思い込んでいるようだ。
 甲羅は戦闘用の甲冑で、普段は付けない。そして、頭に皿など無い。たまたま見られた河童が、禿げていただけだろう。

 黒崎の嘆き…。橋本も自らの手足を改めて確認し、同様に悲し気な目をしている。
 我は以前、御曹司から聞いたことを思い出した。

「その体では、もうヒトと一緒に暮らせないということだな。
 大丈夫だ。戻す方法を聞いたことがある」

「ほ、ホントですか!?」
「お願いします! 教えてください」

 我に取りすがって、目を潤ませる可愛い二匹に、我は、その方法を教示してやった。
 人魚様にすがるか、ヒトの聖巫女の排出物を喰らえば良いということを…。

「に、人魚…。そんなの、見たこともありません…」
「聖巫女って、それも、居るんですか?」

 人魚様の方は無理だろう。この二匹に可能だとすれば、ヒトの聖巫女の方だ。
 聖巫女は、特殊な力を持つ存在とされる。それには、心当たりがある。
 我は、入手していたヒトの世の雑誌というやつを二匹に与えた。
 二匹は、それを見て、「舞衣だ、舞衣だ」と騒いでいた。
 伊勢という聖地で奇跡を起こした女と書かれている。写真を見ると、容姿が人魚様にそっくりなのだ。聖巫女とは、この女で間違いなかろう。知っている者であるのなら、都合良いではないか。

「で、でも、舞衣の排出物って…。ナニ?」

「ヒトが出すものと言えば、糞しかないだろう」

「そ、そんな! そんな汚いモノ……」

「糞その物を喰おうとすれば、汚くも思えるかもしれぬが、ハラワタの中身と思えば、そうでもないぞ。ハラワタは、ほろ苦くて美味いモノだ。
 河童が尻子玉を抜くというのを聞いたことが無いか?
 実際に尻子玉なんて物は無いのだが、我らは、ヒトの尻からハラワタを抜いて喰うのだ。
 それを、尻子玉を抜くと言う」

「ハ、ハラワタって・・・」

 二匹は絶句した。が、元に戻るには、それしかないだろう。
 我は『尻子玉の抜き方』も伝授してやることにした。

「難しく考えるな。尻に手を突っ込んで、中で手を広げ、爪でグリッと肛門内部のハラワタを切り破くのだ。ハラワタは軟らかいからな。其方らの手も、我と同じように固くなってきておるから容易く出来る。
 そうしておいて更に手を奥へ少し入れ、切った先をつかんで、一気に引き抜く。
 掴むところを間違えるなよ。必ず切り破いた先を掴め。それを引っ張れば、途中で千切ちぎれることなくブリブリと太いワタから順番に綺麗に出て来る。
 可哀想だなどと思ってゆっくりやると、かえって苦痛を与えることになって暴れ出す。
 これは失敗の元だ。力を込めて、一気に引きずり出せ!
 そうすれば、不思議なもので、抵抗するどころか、自分からワタを出しやすい姿勢を取ってくれて、尻の穴もパックリ開くのだ。尻を突き上げて、脚も程よく開き、まさに、『出してください』という体勢を取ってくれるのだから面白い。
 こうなると、簡単に全てのワタを抜き出せる。血もそれ程は流れ出ないから、出し終わった体は綺麗なままだ。
 後は、出したハラワタを分け合って喰えばよい」

「そ、そんなこと・・・」
「内臓を抜き出したら、舞衣が死んじゃうよ・・・」

「それは、当り前だ。ハラワタを抜かれたらヒトは死ぬ。
 だが、一匹の犠牲で、其方らが元に戻れるのだぞ。
 …まあ、別に殺さなくても、糞だけ喰うのに抵抗無ければ、ハラワタごと喰う必要も無い。糞を出させて喰うだけのこと。その辺りは、其方らで考えろ」

「は、はい・・・」

「さあ、では、行け。外は夕暮れの時間だ。今の内の方が、人目につかなくてよいぞ。
 くれぐれも、この里のことは他言するなよ!」

「分かりました。お世話になりました」
「有難うございました。御恩は一生忘れません」

 二匹は泳いでゆき、その後、何度か潜って、通路を確認した後、我に向かって再度頭を下げ、水底へ消えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜の国の人間様

コプラ
BL
★ほのぼの異世界の禁断症状が出て、処方箋として書き始めました★しばらくちっちゃくて、キャハハうふふしてるので、癒しに飢えてる読者様におすすめします(〃ω〃) 主人公の幼い頃は、話の流れで他キャラのR18入ります💕 ★ じわじわとお気に入り1900⇧㊗️本当にありがとうございます💕 ★BLランキング最高位10位⇧ ★ムーンで同時連載中。日間BL連載ランキング最高位2位⇧週間BL連載ランキング2位⇧四半期連載7位⇧ 迷子の僕は、仙人めいたお爺さんに拾われた。中身と外見の違う僕は直ぐにここが竜の国だと知った。そして僕みたいな幼児の人型が、この世界に存在しないことも。 実はとっても偉い元騎士団参謀長の竜人のお爺さんと暮らす二人の生活は、楽しくて、ドキドキして、驚く様な事ばかりで刺激的だった。獣人の友達や知り合いも出来てすくすく成長したある日、お爺さんの元を訪れた竜人の騎士は、怖い顔で僕をじっと見つめて一番気にしている事を言った。 「一体あの子は何者ですか?信じられないほど虚弱だ。」 は?誰この人、僕こいつ大嫌いだ。 竜人や獣人しか居ない気がするこの異世界で、周囲から可愛がられて楽しく成長する僕の冒険の日々と恋の物語。

母の日お母さん体験のお話

あかん子をセッ法
SF
 母の日。近所の科学技術館の常連である少年が、そこで不思議な体験をするお話です。

Ocean

リヒト
恋愛
これは夢だ。 俺の見ている夢の中に違いない。 ある夜、見知らぬ部屋で目覚めた高校3年生の俺=岡田大海(おかだひろみ)は、月の光と聞き覚えのある声に誘われて、窓から外へ。 いつの間にかとても懐かしい場所に立っていた大海は、そこで測らずも幼馴染の佐々木菜花(ささきなのか)の生着替えに遭遇する。 ※このお話はフィクションです。実在する人物・団体等とは一切関係ありません。 一部実在のものを想起させる部分があるかも知れませんが黙って見逃してやってください。

拷問部屋

荒邦
ホラー
エログロです。どこからか連れてこられた人たちがアレコレされる話です。 拷問器具とか拷問が出てきます。作者の性癖全開です。 名前がしっくり来なくてアルファベットにしてます。

男装警官が触手を孕んで産んで快楽堕ちする話

うどんパスタ
ファンタジー
女性の連続行方不明事件を追って山中に足を踏み入れた、男装好きの女警察官。 池から、ごぽり、と泡が立ち、池の中に手を伸ばすと………触手が あらわれた!? 孕ませから出産まで、いちおう快楽堕ち要素もあるよ! ちなみにこの子は自慰経験ありだけど処女だ!() この小説には以下の成分が含まれます。 ・自慰経験あり ・処女 ・胸、膣弄り ・出産 ・導入→孕み→出産、快楽堕ち、の3ページでお送りします。 好きなところだけ読んでいただいて構いません。 ※2回目、かつ拙い性表現となりますが良ければご覧ください。

彼と彼女の十月十日 ~冷徹社長は初恋に溺れる~

幸村真桜
恋愛
「嘘でしょう......?」 婚約者に蒸発され、家も仕事も失った秋良は出会ったばかりの男性と一夜を過ごす。 一晩限りの関係だと思っていたのに、彼女の身体には新しい命が宿っていてーー。

【※R-18】αXΩ 〜男性妊娠 候補生〜

aika
BL
αXΩ 〜男性妊娠候補生〜 【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。男性しか存在しない世界。BL、複数プレイ、乱交、陵辱、出産、治療行為など】独自設定多めです。閲覧ご注意ください。 宇宙戦争により人類は滅亡の危機を迎えていた。 男性のみが残された世界で、人類存続をかけた「男性妊娠」のための研究が進んでいる。 妊娠させる能力値が高い者をα(カリスマ性があるエリートが多い)、妊娠可能な遺伝子を持つ男性をΩ(出産の能力が高い男性)と分類し、研究所において妊娠に向けた治療が行われていた。 とある研究所で妊娠出産を目指す、候補生たちの日々を描く物語。 4人のαには、気に入った候補生(Ω)を種付けする権利が与えられている。 α、Ωともに妊娠確率を高めるため、医師により様々な実験、治療が施されいた。 泥沼な人間関係や、それぞれの思惑が交差する、マニアックな物語になる予定です。。閲覧ご注意ください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...