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恵美と河童
60 狙われた月影村1
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治太夫は走った。
…リナと河童たちに、自分の所業が知られてしまった。すぐに大規模な追っ手が掛かるはずだ。
とにかく、神島から脱出する。
漆黒の海を泳いで童島に渡り、自分の屋敷の門を潜ると、灯りのついている主殿の中から怒声が聞こえてきた。父の声だ。
「な、何というトンデモナイことを、あのバカ息子め!
奴に村主職を継がせるのは撤回だ。すぐに捕らえよ。抵抗するなら殺しても構わん!
各部落に、至急の通達を出せ!」
これはマズイことになってしまった。
まさか、殺しても構わないとまで言われるとは・・・。
現在の村主は父親。治太夫は、まだ就任していない。
その父親の命令となれば、全河童が従う。治太夫には、まだ何の権限も無いのだ。
河童の社会を救うどころか、河童の敵とされてしまった…。
神島の方は既に警戒されているから人魚を襲うのは不可能だ。
となると、残される道はただ一つ。当初の計画通りに、やはり鬼の神鏡を奪うしかない。
異界出入りの力さえ手に入れば、治太夫は不死の身だ。後は何とでもなるのだ。
各部落への緊急通達は、港のあるこの部落から二人の伝令が、それぞれ左回り、右回りで順次伝えて行くことになっている。集落は全て島の海岸沿いにあるからだ。
伝令が出るのは、これから。今なら、島の正反対側の部落へ直行すれば間に合う。
その部落は、村第二の勢力で屈強な男が揃っている所。鬼ヶ島から逃げ戻ってきた三太の居る部落でもある。
通達が届く前に男たちを招集し、鬼ヶ島へ渡るしかない。
治太夫は見つからないように屋敷を出て、暗闇の中、真っ直ぐ島の反対側に向かって駆けだした。
森を抜け、内陸を通る最短の道をひた走った。
目的の島東北端の部落に着くと、夜ということもあり、ひっそりしている。
治太夫は村役屋敷に駆け込んで、男たちの緊急招集を命じた。
村主の御曹司直々の緊急命令だ。事情をまだ知らない村役は慌てて従った。
だが、急がせても、既に寝床に入らんとする夜の事…。集まってくるのには時間が掛かる。
伝令が到達する前に、島を出てしまわなければならないが、焦りながらも治太夫は、通された座敷で待つしかなかった。
案内された座敷…。
治太夫は、床の間前に置かれた座布団にドカッと坐った。
その床の間には、珍しい物が飾ってあった。古い甲冑だ。
昔のヒトが使用していた物だろう。おそらく、人界で誰かが拾ってきて村役に献上したのだろうが、屈強な者が多いこの部落には、ふさわしい飾り物と言えた。
治太夫は、昔のヒトの武将が使っていた武具にも興味を持って、詳しく調べたことがある。しかし、実物を見るのは初めてだった。
目の前の甲冑は良い素材で丁寧に作られており、上級の武将が使用した物と思われる。
だが、その割には飾りの少ないシンプルな造りだ。
ヒトの武将は、己の武功を誇示する為に派手な物を好んだと聞いていたが、こんな地味な物もあったのかと、触りながら観察する。
顔面を守る面頬と、喉を守る咽喉輪の部分が無いが、その他の部位は全て揃っていて、持ってみるとしっかりして頑丈で、かなりの重量…。
こんなものを着けて戦っていたとは…。
これでは重くて自由に動けず、不利では無いかとも思う。河童の甲冑は亀の甲羅で作られていて、軽量で動きやすいのだ。
しかし、相手も同様のモノを身に付けて居れば、お互い様なのか…。可笑しなものだ。
そうこうしていると、三太が招集に応じて、いの一番に出て来た。
彼は一度鬼ヶ島に行って、逃げ帰ってきている。だから、これから治太夫が何をしようとしているか、おおよそ見当がついていた。
他にも次々と集まって来るが、それらの連中は訳が分からない状態。夜中の突然の招集で、眠い目を擦り擦りの二十七河童…。
そして、もうそろそろ、伝令が到達してもおかしくない頃合いとなった。
時間の限界を感じた治太夫は、村役とその配下三河童も入れての合計三十二河童を引き連れ、島東北端の海岸に向かった。
詳しい事情は話さない。ただ、「河童族の未来のために働いてもらう。恩賞は弾むぞ」とだけ告げた。
海に入り、三太に案内させて鬼ヶ島に向かい、進軍を開始した。
伝令が部落に到着したのは、その五分ほど後の事だった。
右回りの伝令と左回りの伝令が、ほぼ同時に到着した。
二人の伝令は頷き合い、一緒に村役の屋敷に駆け込んだ。
だが、既に屋敷にも、また、部落にも、女子供と老河童しかいなかった。
そして・・・。
村役屋敷の床の間に飾られていた甲冑から、兜が消えていた・・・。
…リナと河童たちに、自分の所業が知られてしまった。すぐに大規模な追っ手が掛かるはずだ。
とにかく、神島から脱出する。
漆黒の海を泳いで童島に渡り、自分の屋敷の門を潜ると、灯りのついている主殿の中から怒声が聞こえてきた。父の声だ。
「な、何というトンデモナイことを、あのバカ息子め!
奴に村主職を継がせるのは撤回だ。すぐに捕らえよ。抵抗するなら殺しても構わん!
各部落に、至急の通達を出せ!」
これはマズイことになってしまった。
まさか、殺しても構わないとまで言われるとは・・・。
現在の村主は父親。治太夫は、まだ就任していない。
その父親の命令となれば、全河童が従う。治太夫には、まだ何の権限も無いのだ。
河童の社会を救うどころか、河童の敵とされてしまった…。
神島の方は既に警戒されているから人魚を襲うのは不可能だ。
となると、残される道はただ一つ。当初の計画通りに、やはり鬼の神鏡を奪うしかない。
異界出入りの力さえ手に入れば、治太夫は不死の身だ。後は何とでもなるのだ。
各部落への緊急通達は、港のあるこの部落から二人の伝令が、それぞれ左回り、右回りで順次伝えて行くことになっている。集落は全て島の海岸沿いにあるからだ。
伝令が出るのは、これから。今なら、島の正反対側の部落へ直行すれば間に合う。
その部落は、村第二の勢力で屈強な男が揃っている所。鬼ヶ島から逃げ戻ってきた三太の居る部落でもある。
通達が届く前に男たちを招集し、鬼ヶ島へ渡るしかない。
治太夫は見つからないように屋敷を出て、暗闇の中、真っ直ぐ島の反対側に向かって駆けだした。
森を抜け、内陸を通る最短の道をひた走った。
目的の島東北端の部落に着くと、夜ということもあり、ひっそりしている。
治太夫は村役屋敷に駆け込んで、男たちの緊急招集を命じた。
村主の御曹司直々の緊急命令だ。事情をまだ知らない村役は慌てて従った。
だが、急がせても、既に寝床に入らんとする夜の事…。集まってくるのには時間が掛かる。
伝令が到達する前に、島を出てしまわなければならないが、焦りながらも治太夫は、通された座敷で待つしかなかった。
案内された座敷…。
治太夫は、床の間前に置かれた座布団にドカッと坐った。
その床の間には、珍しい物が飾ってあった。古い甲冑だ。
昔のヒトが使用していた物だろう。おそらく、人界で誰かが拾ってきて村役に献上したのだろうが、屈強な者が多いこの部落には、ふさわしい飾り物と言えた。
治太夫は、昔のヒトの武将が使っていた武具にも興味を持って、詳しく調べたことがある。しかし、実物を見るのは初めてだった。
目の前の甲冑は良い素材で丁寧に作られており、上級の武将が使用した物と思われる。
だが、その割には飾りの少ないシンプルな造りだ。
ヒトの武将は、己の武功を誇示する為に派手な物を好んだと聞いていたが、こんな地味な物もあったのかと、触りながら観察する。
顔面を守る面頬と、喉を守る咽喉輪の部分が無いが、その他の部位は全て揃っていて、持ってみるとしっかりして頑丈で、かなりの重量…。
こんなものを着けて戦っていたとは…。
これでは重くて自由に動けず、不利では無いかとも思う。河童の甲冑は亀の甲羅で作られていて、軽量で動きやすいのだ。
しかし、相手も同様のモノを身に付けて居れば、お互い様なのか…。可笑しなものだ。
そうこうしていると、三太が招集に応じて、いの一番に出て来た。
彼は一度鬼ヶ島に行って、逃げ帰ってきている。だから、これから治太夫が何をしようとしているか、おおよそ見当がついていた。
他にも次々と集まって来るが、それらの連中は訳が分からない状態。夜中の突然の招集で、眠い目を擦り擦りの二十七河童…。
そして、もうそろそろ、伝令が到達してもおかしくない頃合いとなった。
時間の限界を感じた治太夫は、村役とその配下三河童も入れての合計三十二河童を引き連れ、島東北端の海岸に向かった。
詳しい事情は話さない。ただ、「河童族の未来のために働いてもらう。恩賞は弾むぞ」とだけ告げた。
海に入り、三太に案内させて鬼ヶ島に向かい、進軍を開始した。
伝令が部落に到着したのは、その五分ほど後の事だった。
右回りの伝令と左回りの伝令が、ほぼ同時に到着した。
二人の伝令は頷き合い、一緒に村役の屋敷に駆け込んだ。
だが、既に屋敷にも、また、部落にも、女子供と老河童しかいなかった。
そして・・・。
村役屋敷の床の間に飾られていた甲冑から、兜が消えていた・・・。
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