上 下
21 / 80
美雪と早紀

20 野村医療研究所4

しおりを挟む
 検査の結果、早紀に精子は無かった。
 つまり、男性機能は無い、完全な女性だ。

 まあ、そうだろう。精子があれば精巣がどこかに隠れているということになる。
 そして、そうであれば、男性ホルモンも出ているということになる。
 となれば、どこからどう見ても女性らしい早紀の体つきは、説明が付かない。

 スミレに関しても同じであろう。だが、スミレの方は、男女一対一の関係であるから、特に調べる必要性もない。
 この日は、これで終了となり、慎也たちは帰宅。スミレたちは予約してあるホテルへ向かった。
 杏奈と環奈は名残惜しそうに、慎也たちを見送っていた。


 所用で研究所から出ていた徹が帰ってくる。すぐにそのまま、杏奈と環奈を駅まで車で送って行き、再度戻ってくると、亜希子がグッタリしていた。
 あの家族を相手にすると、疲れる…。悪い人たちではない。亜希子にも、徹にとっても、命の恩人たちだ。だが、常識が通じないというか、突飛なことが起きすぎるというか・・・。とにかく疲れるのだ。

 徹は、机に置かれている奇妙な液体が気になった。

「亜希子さん、これ何?」

「あ~、今日の患者の分泌液…。汚染物じゃないから、大丈夫よ。
 もういらないから捨てておいて~」

 こういうものは下水には流さず、処理箱へ入れて、焼却処分することにしている。
 汚染物であれば、もっと厳重な処理をするが、そうでないとのこと。徹は、特に考えも無く、普通の処分箱へ流し捨てた。二重にビニール袋が入れられていて、こぼれることは無い。枯れた花なんかも一緒に捨てられている箱だ。
 その、枯れた花に、早紀の分泌液がたっぷりとかかった。

 翌朝…。

 二人は処分箱を呆然ぼうぜんと見ていた。

 ふたが開いて、綺麗な花が咲きほこっていた。
 あたかも、大量の花を生けた花瓶のように・・・。




 朝から急遽、亜希子に呼び出された慎也たち…。
 案内されて通された検査室の、見事な花に見入っていた。

 スミレたちも帰る前に再度舞衣に挨拶に来ていて、研究所に異変があったということで同行していた。つまり、今ここにいるのは、研究所の亜希子と徹。そして、慎也・舞衣・祥子と、スミレ・総司である。
 双子と美雪・早紀は、それぞれ大学に行っている時間だ。

「え~と、亜希子さん。この目の前にあるモノは、ゴミ箱なんですよね・・・」

 舞衣の質問に、亜希子がうなずく。

「そうなんです」

「いつも花を飾っているのは徹さんですよね。ゴミ箱にも花を咲かせるという、斬新な芸術か何かですか?」

「ま、まさか! そんなことしませんよ!」

 亜希子は、どちらかというとガサツな方。一方、徹は、薬草研究を行っており、野山の植物も愛するナチュラリスト。この研究所は、いつ来ても色々な草花が飾られているが、これは皆、徹がしているのだ。
 しかし、ごみ箱にまで花を活けてしまっては、ゴミを捨てる事が出来なくなってしまう。当然、そんなことをするはずがない。

「処分箱には枯れた草花が入っていました。それが、今朝起きたら全て復活して、根まで生やして茂り、こんなふうに咲き誇っていたんです!」

「いったい、何をしたら、こんな風に?」

 慎也の疑問には、亜希子が答えた。

「あの、昨日の早紀さんの分泌液……。結構な量がありましたよね。検査ではそんなに使わないから、たくさん余っていたんです」

 徹が続ける。

「亜希子さんが、もういらないというから、俺がそこへ捨てたんです。そしたら一晩でこんなことに…」

「こ、これか…。ワラワに分からなかった早紀の力は……。主殿よ、これはすごいぞ。早紀の出す汁は、命を復活させる力を持つモノなのかもしれぬ」

 祥子の言葉を聞き、スミレと総司は、目配せし合った。そしてスミレが、オズオズと口を開いた。

「あ、あの~。昨日は娘さんの前でしたから、心配もされるだろうし、黙っていましたが・・・」

 皆がスミレを注視した。

「総司さんは、末期のがんを患っていたんです。手術しても無駄というくらいの…」

 驚いた視線が総司に向かったところで、あとを総司がつないだ。

「ですが、スミレちゃんと関係を持つようになって、彼女のアレを・・・え~とその、める・・・ようになりまして、進行が止まって痛みも消えたんです。で、もしかしたらと、二人で話して、ゴックンするようにしたら・・・半月で癌が完全に消えました」

「末期の癌が消えた…。凄いじゃない、スミレちゃん!」

「これで、ちょっとは総司さんに恩返し出来たのかなと・・・」

「いやいや、ちょっとどころではありませんよ。彼女は私の命の恩人なんです」

「もう、こういうことは、娘になる早紀ちゃんにも話してあげなきゃ!」

 舞衣が、恥ずかしそうにしているスミレの肩をポンポン叩いた。
 この舞衣の発言には、総司が決まり悪そうに弁明をする。

「い、いや、その・・・。娘に話すには、ちょっと生々しいかなと・・・。スミレちゃんのアソコから出るモノを、毎日飲んでいたなんて・・・」

「あ…。確かに・・・」

「まあ、なんじゃな。その話は我らの方で早紀に伝えるとしてじゃな。とにかく、二人の汁には大いなる力があるということじゃ。性を超越ちょうえつしかけた者の持つ力ということかもしれぬ。精液ならぬ、『聖液』といったところかの」

 表記が違っても音は同じ「セイエキ」。スミレは微妙な顔をしている。他の呼び名に変えて欲しいと思っているに違いないが、無視して祥子は続けた。

「じゃが、主殿の力と同じでな、この事はあまり口外せぬ方が良いぞ。こういう力は、狙われる元となる」

「そうだね…。亜希子さん、徹さん、宜しくお願いします。スミレさんたちも」

 慎也の真剣な表情に、亜希子・徹・スミレ・総司はうなずいた。
 大いなる力は、争いの元ともなりかねない。スミレや早紀が狙われるという事態は避けたい。
 何事も、用心するに越したことは無い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜の国の人間様

コプラ
BL
★ほのぼの異世界の禁断症状が出て、処方箋として書き始めました★しばらくちっちゃくて、キャハハうふふしてるので、癒しに飢えてる読者様におすすめします(〃ω〃) 主人公の幼い頃は、話の流れで他キャラのR18入ります💕 ★ じわじわとお気に入り1900⇧㊗️本当にありがとうございます💕 ★BLランキング最高位10位⇧ ★ムーンで同時連載中。日間BL連載ランキング最高位2位⇧週間BL連載ランキング2位⇧四半期連載7位⇧ 迷子の僕は、仙人めいたお爺さんに拾われた。中身と外見の違う僕は直ぐにここが竜の国だと知った。そして僕みたいな幼児の人型が、この世界に存在しないことも。 実はとっても偉い元騎士団参謀長の竜人のお爺さんと暮らす二人の生活は、楽しくて、ドキドキして、驚く様な事ばかりで刺激的だった。獣人の友達や知り合いも出来てすくすく成長したある日、お爺さんの元を訪れた竜人の騎士は、怖い顔で僕をじっと見つめて一番気にしている事を言った。 「一体あの子は何者ですか?信じられないほど虚弱だ。」 は?誰この人、僕こいつ大嫌いだ。 竜人や獣人しか居ない気がするこの異世界で、周囲から可愛がられて楽しく成長する僕の冒険の日々と恋の物語。

母の日お母さん体験のお話

あかん子をセッ法
SF
 母の日。近所の科学技術館の常連である少年が、そこで不思議な体験をするお話です。

Ocean

リヒト
恋愛
これは夢だ。 俺の見ている夢の中に違いない。 ある夜、見知らぬ部屋で目覚めた高校3年生の俺=岡田大海(おかだひろみ)は、月の光と聞き覚えのある声に誘われて、窓から外へ。 いつの間にかとても懐かしい場所に立っていた大海は、そこで測らずも幼馴染の佐々木菜花(ささきなのか)の生着替えに遭遇する。 ※このお話はフィクションです。実在する人物・団体等とは一切関係ありません。 一部実在のものを想起させる部分があるかも知れませんが黙って見逃してやってください。

拷問部屋

荒邦
ホラー
エログロです。どこからか連れてこられた人たちがアレコレされる話です。 拷問器具とか拷問が出てきます。作者の性癖全開です。 名前がしっくり来なくてアルファベットにしてます。

男装警官が触手を孕んで産んで快楽堕ちする話

うどんパスタ
ファンタジー
女性の連続行方不明事件を追って山中に足を踏み入れた、男装好きの女警察官。 池から、ごぽり、と泡が立ち、池の中に手を伸ばすと………触手が あらわれた!? 孕ませから出産まで、いちおう快楽堕ち要素もあるよ! ちなみにこの子は自慰経験ありだけど処女だ!() この小説には以下の成分が含まれます。 ・自慰経験あり ・処女 ・胸、膣弄り ・出産 ・導入→孕み→出産、快楽堕ち、の3ページでお送りします。 好きなところだけ読んでいただいて構いません。 ※2回目、かつ拙い性表現となりますが良ければご覧ください。

彼と彼女の十月十日 ~冷徹社長は初恋に溺れる~

幸村真桜
恋愛
「嘘でしょう......?」 婚約者に蒸発され、家も仕事も失った秋良は出会ったばかりの男性と一夜を過ごす。 一晩限りの関係だと思っていたのに、彼女の身体には新しい命が宿っていてーー。

【※R-18】αXΩ 〜男性妊娠 候補生〜

aika
BL
αXΩ 〜男性妊娠候補生〜 【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。男性しか存在しない世界。BL、複数プレイ、乱交、陵辱、出産、治療行為など】独自設定多めです。閲覧ご注意ください。 宇宙戦争により人類は滅亡の危機を迎えていた。 男性のみが残された世界で、人類存続をかけた「男性妊娠」のための研究が進んでいる。 妊娠させる能力値が高い者をα(カリスマ性があるエリートが多い)、妊娠可能な遺伝子を持つ男性をΩ(出産の能力が高い男性)と分類し、研究所において妊娠に向けた治療が行われていた。 とある研究所で妊娠出産を目指す、候補生たちの日々を描く物語。 4人のαには、気に入った候補生(Ω)を種付けする権利が与えられている。 α、Ωともに妊娠確率を高めるため、医師により様々な実験、治療が施されいた。 泥沼な人間関係や、それぞれの思惑が交差する、マニアックな物語になる予定です。。閲覧ご注意ください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...