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有香の切腹の章

1 切腹します!

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 私は新瀬有香と申します。美森女子高等学校の2年生で、17歳です。

 突然ですが・・・、

 私、これから・・・・・、


 切腹します!!





 薄手の着物“白小袖”を着て、家具の置かれていないガランとした部屋の中央に行儀よく正座した状態。
 視線を落としたうつむき加減で、静かに『その時』を迎えようとしているところ。
 正に、緊張の時間です。

 張り詰めた中の静寂しじま。室内は物音ひとつせず、静まり返っています。
 トックトックと鼓動する、自分の心臓の音が聞こえてくるくらいに。

 しかし・・・。

 この心臓の鼓動音も、まもなく消えます。
 今から私は自らのお腹を切り開き、体内の臓物をグチャグチャに掴み出し、痛みに悶え、真っ赤な血に塗れて、死んでゆくのです。


 目前に、お膳が運ばれて来ました。
 頭を取り去った魚の塩焼きと、ご飯の湯漬けと、お酒……切腹膳。これが私の、人生最後の食事です。

 え? 17歳がお酒はダメだろうって?

 いや、もう、死んじゃいますからね。
 最後なんだから、別に良いじゃないですか。儀式としての形式的なものですしね……。


 先代会長であり、憧れの先輩であった谷本美紀さんから引き継いだ、女子切腹同好会。
 無事に会員も増え、一年半。ついに、私も切腹できる時が来たというコトなのです。
 お膳を出してくれたのは、私の後の会長に就任する美森高校1年の後輩。
 後ろで刀を持って立っているのは、同級生で副会長の柴田百合。お腹を切った後の私の首を斬り落とす、介錯役です。
 その他、壁際には数人の会員が並んで坐り、私の人生の終わりを見届けてくれています。

 ホントは私、美紀さんの後すぐにでも切腹したかったのですけどね。やっぱり、後継者が必要でしたからね。こんなに経過してしまいました。
 長かったな、やっとですよ。


 出された最後の食事。
 一口ずつ、ゆっくり噛み締めます。

 これが、最終・・・。
 もう、私、食べられなくなるんだ・・・。

 コクッと飲み込むと、口の中の咀嚼物は咽喉から食道をスーッと下って、お腹の左上部、胃の中へクチュッと納まります。
 私の胃は、それをゆっくりと捏ね始め、ジワーッと分泌した胃液とシッカリ混ぜ合わせ、ドロドロに消化して腸へと送ってゆく・・・。

 魚と湯漬けは普通に美味しいね。
 でも、初めて飲むお酒、ちょっとむせてしまいました。正直、美味しくない。まだまだ私は、お子様なのかな?
 お酒は半分残してしまって、ちょっと無作法ですが、お許しください。
 美紀さんみたく、何から何まで全て優雅にというのは、やはり難しいですね。

 でも、この後は、きっちり決めて見せますよ。但し、美紀さんとは少し違う切腹で。
 だって、私なんかに、あんな素敵な切腹は無理ですよ。

 美紀さんの切腹動画を見返すたびに思いました。ああ、私には、こんな優雅で華麗にはできないって……。
 じゃあ、どうするか。私らしく切腹すれば良いのです。何も、全く同じようにする必要は無いのですからね。
 私の切腹は、あくまで私の切腹。「私らしく」で良いのです。


 切腹・・・。

 それは、体内に秘匿している生命維持の為の必須器官“内臓”を、自らの手で曝け出し、その生命を昇華させてしまうという行い。
 自らの命を自ら強制的に燃え尽きさせるという、人間としての至高で究極な示威行為なんです。

 ……であるならば、私は、体内の臓物をより一層盛大に曝け出してから果てたい。なんといっても私、“内臓フェチ”ですもんね。

 具体的には、美紀さんのした『臓物内の汚物を出さないようにする』のではなくて、臓物までも完全に開いて、その内部や中身も全て見せつけるということ。
 これって、究極の切腹だと言っても良いでしょ?

 ああ。見せつけると言ってもですね、体内物を口から吐いたり、お尻から漏らしたりするのはNGですよ。それはゲロであり、ウンチですからね。
 同じものであっても、内臓を開いて直接取り出すなら、それは『内臓の内容物』ということになり、切腹の中の切腹=切腹の最上級行為となりうるのです。

 え、言ってる意味わかんない?

 ゴメンナサイ。これは私の勝手な理論です。変態女の言うことですから、笑って見逃してくださいな。
 とにかく、私はそんな切腹を、これから行うのです。
 これは、“内臓フェチ女”としての、命を捧げての挑戦なんです。


 着物は……。美紀さんと同じく私も脱ぎますよ。全てを曝け出すのですから。
 壁際にキッチリ正座する会員たちの真っ直ぐな視線の中、立ち上がり、小袖をスルッと脱ぐと、既に下着は着けていない状態。
 プルルンと膨らんだ胸の両の乳房も、少し控え目気味で上品(?)なアンダーヘアも、手で隠したりせず完全に露出させた全裸になりました。

 他人に、一糸まとわぬ裸体を曝す・・・。

 モデルさんのような極上な肢体ではありませんが、私も一応、ピチピチの女子高生。
 肌は滑々して綺麗な方、乳房の形も良い方、太すぎず細すぎずの標準的女性体型で、決して見るに堪えない姿では無いはずです。上から下、隅から隅まで、どうぞジックリとご覧くださいな。これが、“最後”なんですから。
 覚悟決めた私は、別にもう、恥ずかしくもありません。同性しかいませんしね。
 それに、これから裸以上のモノを、盛大にさらけ出すのですからね。
 ある意味、私ってば、究極のヌード公開しちゃうんですよね。


 しゃがみ、用意された三方の上の刃物を取り、三方はお尻の下へ固定。
 腹筋を切断しますので不安定になります。バランスを崩して途中で仰向けに倒れたりすると、悲惨なことになってしまいます。そうならないようにする為の用心です。

「第14代会長、新瀬有香。これより切腹いたします。私のお腹の中身、しかと、ご覧あれ!」

 開始宣言を終え、刃物を構えます。
 薄手でよく切れそうな、同好会の特別製切腹専用刃物です。

 さあ、いよいよ……。
 切っちゃいますよ。ザックリと、このお腹を。

 切腹、しちゃいます!!

 左手で左脇腹の皮をグッと延ばすようにしておいてから、右手の刃物をブスッと刺し込む。硬く冷たいモノがお腹の中に入り込んだのを感じながら、間髪入れずに両手でシッカリ握り直し、一気に右へズバッと引き切ります。

 ん! んぐうううううう~っ!!

 う、うう・・・う・・・・うん?
 あ、あれ・・・?

 い・・・、痛くない?!

 なんだか、お腹がジーンと痺れたような感触がします。そして、痛くない……。

 血がタラーッと流れ出てきている。間違いなく切った。私、お腹をザックリ横一文字に斬りましたよ。
 これって、普通は猛烈に痛いよね。何が起きた?
 局部麻酔したりすると、こんな痺れた感じになるかもしれません。でも私は、そんなのしていません。
 ランナーズハイならぬ、切腹ハイ??
 脳内麻薬ってやつ?
 ドーパミンって言うんだっけ。βエンドルフィンだったかな?
 私の脳内で変な物質でも大量分泌されて、痛みを感じなくしてる?

 よく分からないことが起きていますが、これはラッキーですよ。出来れば、この後も、このまま……。
 刃物を一旦抜き、今度はお腹の中央上部へ突き刺す。
 一気に下までサクッと押し切って、十文字腹!

 やっぱり痛くありません。切り口がジーンと痺れたような感じがするだけです。
 神様からの、人生最後のプレゼントですか?!
 どういうことか分かんないけど、感謝します!!
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