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第五章 シークレア子爵領

第三百三十二話 造船所の見学に来た人

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 そして、予定通りにビクターさんとワイアットさんが造船所にやってきました。
 しかも、朝から部下を引き連れてやってきました。

「いやいや、こういうのは朝一で済ますのが良いかなと思った。他の公務も、基本朝一でこなしているのだ」

 こう言いながら、とってもワクワクしているビクターさんの姿がありました。
 ビクターさんがこうなると、誰にも止められないそうです。
 現に、ワイアットさんも他の部下も苦笑しかできません。
 でも、僕は普通にお仕事すれば良いだけなんだよね。
 ビクターさん達は所長と話をするそうなので、事務所に入って行きました。

 シュイーン、すぱっ。
 シュイーン、すぱっ。

 お仕事の時間になると、僕とシロちゃんは魔法を使って木材をカットしていきます。
 今週から型が代わって大きくなったので、間違わない様に気を付けて切らないと。
 色々な部品を組み合わせて、大きなお船を作っているんだね。
 別の作業場では、大きな木材を加工して外に運んで行っています。
 そして、所長さんとお話を終えたビクターさん達が、事務所から僕たちのいる作業場にやってきました。

「流石は黒髪の魔術師だな。シロちゃんも、凄い勢いで木材を切っているな」
「型通りに魔法で切っているだけなので、そんなに難しくないですよ」
「いやいや、型通りに切るのが大変なんだ。手作業だと、特に木材の加工は大変だぞ」

 僕とシロちゃんの魔法を見てビクターさんは驚いているけど、僕としては職人さんの細かい所を加工する技術のほうが凄いと思うよ。
 僕とシロちゃんは、大まかな加工しかできないもんね。

「おや、総司令官のダンナじゃないか。今日は視察かい?」
「おお、そうだ。王都からシークレア子爵領に着いて次の日に視察だ」
「ははは、それは大変だな」

 ベテランの職人さんもビクターさんの事を知っていて、部下とともに楽しそうに話をしていた。
 確かに、シークレア子爵領についたばっかりで造船所の視察は大変だろうなあ。
 すると、今度はビクターさんが造船所で働く小さな人に声をかけていた。

「君たちが、荒天で父親を亡くした子らか。色々と思う事はあると思うが、街にいる者を父親代わりだと思って頑張るのだぞ」
「「「はい!」」」

 ビクターさんは、父親を亡くした子ども達に話しかけていた。
 子ども達も事件が落ち着いて張り詰めていた気持ちが楽になったので、笑顔でビクターさんに返事をしていた。
 何にせよ、造船所は良い感じになっているので、ビクターさんも満足そうにしていた。

「では、私は軍の駐屯地に戻るが皆は引き続き頑張ってくれ」
「「「おう!」」」

 こうして、ビクターさんとワイアットさんは部下と共に造船所を後にしました。
 これから軍人を鍛えるために、訓練をするそうです。
 と、ビクターさんが振り返って僕に話しかけました。

「レオ君、今度怪我した軍人の治療を依頼する。また連絡するぞ」

 ビクターさんは僕にそういうけど、ワイアットさんと部下の人は思わず苦笑しちゃった。
 もしかしたら、訓練で怪我をしちゃった軍人を治療する事になるのかな?
 僕もシロちゃんも、一瞬そんな事を思わず思っちゃったよ。
 さてさて、僕もシロちゃんもお仕事を再開しないとね。
 そう思っていたら、ザンギエフさんが僕に話しかけてきました。

「そういえば、フランソワーズ公爵家のご令嬢に書く手紙は用意したのか?」
「あっ、買っていません。今度お店に買いに行きます」
「そっか、ならかーちゃんに言っておくぞ」

 ザンギエフさんはビクターさんを見て、僕がクリスちゃんからの手紙を貰ったのを思い出したみたいです。
 クリスちゃんに手紙を書くには、手紙を買わないといけないね。
 そんな事を思っていたら、職人さんがずーんってなっちゃった。

「フランソワーズ公爵家のご令嬢って、確かレオが治療した少女の事だよな」
「そっか、レオには既に文通する相手がいるのか……」
「俺には、誰も相手がいないのに……」
「こんな子どもに、俺は負けているのか……」

 あれ?
 職人さんが、昨日のザンギエフさんみたいになっちゃったよ。
 そして、とぼとぼと俯きながら仕事場に戻って行きました。
 うーん、一体何が起きたのだろうか……

「レオ、気にしなくて良いぞ。ここはそっとしてやるのが良いぞ」
「ザンギエフ、お前も人の事が言えないけどな」

 僕の肩をポンポンとするザンギエフさんに、所長さんが苦笑しながら話しかけていました。
 そして、この日は職人さんはずっと落ち込んでいて、食堂のおばちゃんにも激を飛ばされていました。
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