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第二章 バスク子爵領

第六十話 新たな仲間と攻略の糸口

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「さて、今日も元気に朝の特訓だぞ」
「シルよ。事件が佳境になりそうだから、暫く休みでもいいんじゃない?」
「却下だぞ。こんな時こそ、基礎が大事だぞ」

 シルの言っている事は正しいので、何も反論が出来ない。
 今日も魔力循環の訓練に、魔法障壁の訓練。
 うーん、魔法障壁の全体展開が上手くできない。
 自身を包むのは出来るけど、イメージの問題かな?
 魔法障壁を上手く使いこなせないと、いざという時に困るからなあ。
 ミケに聞いても、「うーんと、ぱあって感じ」だから全くわからない。
 明日にでもルキアさんに聞いてみよう。

「お、お兄ちゃんオオカミさんいたよ」
「ちゃんと待っていてくれたな。ご褒美にオーク肉をあげようか」

 朝食後に準備をして、予定通りにブルーノ侯爵領へ続く街道沿いに行くと、昨日と同じ場所に子オオカミが待っていた。
 先ずはご褒美にご飯をあげて、その間にこっちも準備をしよう。
 準備の間、ミケは子オオカミの頭を撫でていた。

「マリリさん、確認ですけど本当にタコヤキと意思疎通ができるのですか?」
「大体は。ジェスチャーとかで何となく分かりますよ」
「すげー、じゃあミケとシルがいなくてもいいですか?」
「大丈夫ですよ。お任せくださいな」

 マリリさんとタコヤキの組み合わせなら、魔物とある程度意思疎通できるのはありがたいなあ。
 タラちゃんとかと交流出来ればこういう問題も解決できるから、偵察も早く解除したい。
 
「あ、主人はまた森だぞ」

 はいはい、分かりました。
 けれど、たまには馬車側もやってみたいなあ。

「サトーさん、ちらほら冒険者の姿が見えますね」
「早速ノームさんが動いてくれたみたいですね。間違ってフォレストオオカミを攻撃しないように、こちらも早めに動かないと」

 子オオカミの案内で、順次オオカミの治療を行いながら魔物討伐を行う。
 ここの所頑張って魔物討伐をしていた為か、若干魔物との遭遇率が下がっているように感じる。
 魔物の種類も、ウルフ系ではなく熊とかが増えてきた。
 移動速度の問題もあるが、足の遅い魔物が増えたと言う事は魔物も後少しだと判断できる。
 集団ならフォレストウルフでも熊も倒せるので、後は冒険者の力も借りれば何とかなると思いたい。

「ふう、ただいま。あれ? その盗賊になんでご飯あげているの?」

 お昼の時間となり馬車の所に戻ってくると、ミケ達と一緒に何故か盗賊っぽいのが涙を流しながら昼食を食べていた。
 ちなみに今日のスラタロウの逸品は、テリヤキバーガーの様だ。
 よく手持ちの調味料でテリヤキバーガーを作ったよ。
 エステル殿下が、「お父様にも食べさせたい!」と言っていたので、きっとそのうち国王陛下に披露する事になるだろうなあ。
 付け合わせと冷えたお茶を飲みながら、ビアンカ殿下に聞いてみた。

「ふむ。こやつらは元はブルーノ侯爵領の領民じゃったのだが、重税が払えず逃げてきたそうじゃ」
「重税って、そんなに苛烈なのですか?」
「ああ、こんな税率は聞いたことがないのじゃ。明らかにおかしいし、税率は国に報告義務がある。と言うことは嘘の報告をしている可能性があるのじゃ」
「ここにきて新たな問題が出てきましたね。それで領から逃げてきたと」
「うむ、やむなく盗賊になったのじゃが、元はただの領民じゃ。荒事はできぬ。たまたま妾達に捕らえられたと言うわけじゃ」
「普通の騎士や守備兵に捕まったら、処罰の対象になりますからね。ある意味運がよかったのでしょう」

 この人達は盗賊行為は目を瞑って、難民キャンプに誘導するんだな。
 もしかしたら、また逃げてくる人がいるかもしれない。
 想像以上にブルーノ侯爵領はヤバいかも。
 ルキアさんがだいぶ思いつめた表情になっているので、ここは早く動かないと。

 食事が終わった所で、逃げてきた人に生活魔法をかけて馬車の中に案内したら、直ぐに寝息を立てて寝てしまった。よっぽど精神的にも体力的にも疲れていたのだろう。
 馬車の周辺は今度はリンさん達に任せて、ビアンカ殿下とエステル殿下とミケとシルと一緒に森の中に入る。
 子オオカミの話では、あと二、三グループ治療がおわれば全て完了になるとの事。
 こう言う事は、早めに終わらせてしまおう。

「ミケ、だいぶ格闘術にも慣れてきたね」
「うん、熊も一発だよ!」

 ここの所、魔物との戦闘が続いたおかげか経験と危険察知が上がった気がする。
 ミケもだいぶ格闘術に慣れてきて、俺も魔法剣に慣れてきた。
 エステル殿下もビアンカ殿下も、対魔物戦に余裕が出てきた感じがある。
 ルキアさんも一度に複数魔法を発動して、一気に倒している。
 あれだけの毎朝のシルのしごきに加えて、これだけ戦闘をこなせばいくら何でも効果は出てくるよね。

「お兄ちゃん、オオカミのグループの治療はこれで終わりだって。それで最初のグループに行くみたい」
「そうか、これでオオカミも元気になったか」

 最後のグループの治療が終わり、最初のグループに戻る事になった。
 一日半かかったけど、成果は大きかった。
 最初のグループのボスに、また色々話を聞かないと。
 
「あれ? 馬車の所に戻っちゃったよ」
「きっとオオカミがここで待っているのだろう。ほら、タコヤキと何か話しているよ」

 子オオカミに連れてこられたのは、俺達が馬車を停めていた所だ。
 群れのオオカミが勢揃いしている。
 その中から大きいボスオオカミがこちらに歩いてきた。

「我らオオカミが世話になっただって」
「こちらも魔物討伐を手伝ってもらって色々助かったよ」
「我らからお願いがあるんだって」
「何だろう?」
「この子がお主らを気に入ったらしいので、一緒に連れて行ってやってだって」

 この子オオカミか。
 そういえば随分他のメンバーにも慣れていたし大丈夫だな。

「一緒にくるかい?」
「ウォン」
「よし、じゃあ今日から仲間だ!」
「ウォン!」
「わーい!」

 小さいオオカミに念の為聞いてみたけど、一緒に来るという。
 ミケは大喜びだ。

「この子には名前がないので、何かつけてやってくれだって。ミケも名前考える!」

 ボスオオカミが子オオカミに名前をつけてくれとお願いしたが、うちのメンバーは全くネーミングセンスがない。

「うーん、ハチ公は?」
「ケガワはどうでしょう」
「うーん、オコノミヤキはどうでしょう」
「いやいや、ここはラム肉はいかがですか」

 あかん、ネーミングセンスが悪い方がとんでもない名前をつけている。
 子オオカミも微妙な表情になってきた。
 これは、できるだけはやく何とかしないと。

「森の緑になぞらえて、エメラルド、もしくはベリルはどうでしょうか?」
「オリガさんの意見採用。この子はベリル」
「ウォン!」
「「「「えー」」」」

 オリガさんナイス!
 名前の由来もバッチリ。
 子オオカミも納得しているし、この子はベリルで決定!
 外野の意見は聞きません。

 ボスオオカミと子オオカミもといベリルは何かを話した後、ボスオオカミがこちらにひと鳴きして群れは森の中に帰っていった。

 さて、今日の討伐は終わり、領から逃げてきた人も含めて帰り道に。
 逃げてきた人と盗賊は守備兵に任せて、ギルドでベリルの従魔登録も済ませた。

 お屋敷に帰ってきたら、テリー様とリーフが玄関で待っていた。

「サトーおかえりー。お、子オオカミを仲間にしたんだー」
「ああ、ベリルって名前だ。所でどうかした?」
「ちょっとあってねー、直ぐに話したいのー」
「色々な動きがあったのだ。サトー殿にも話を聞いてほしいのだ」
「分かりました。直ぐに話をしましょう」

 ベリルはミケに任せた。
 生活魔法できれいにしたから問題無いだろう。
 早速リンさんとビアンカ殿下とエステル殿下と一緒に、テリー様の執務室に向かう。

「実はサトー殿の監視と我々の内偵で、ワース商会が違法奴隷をあつかっている可能性が高くなった」
「違法奴隷ですか? すみません、この辺の事は良くわからなくて」
「ふむ、一般市民には分からないことじゃな。この国にも奴隷はおるのじゃ。犯罪や戦争に関わった犯罪奴隷と、借金を背負った借金奴隷じゃ」
「違法奴隷は、文字通り違法に奴隷にされた人を言うの。もちろん犯罪よ。多くは希少種の子どもがさらわれる事がおおいの。貴族の玩具にされたりと」

 つまりワース商会は、貴族や金持ち向けに違法奴隷をやっていると。
 闇ギルド以外にも汚い話が出てきたぞ。

「残念ながら我が領の守備兵に賄賂を渡して、他の荷と偽って門を通過させていたのも分かった。先程、守備兵は拘束した」
「となると、その守備兵の尋問次第で明日にも強制捜査ですね」
「ああ、そうなる。こちらの都合で申し訳ないが、明日は一日体をあけてくれないか」
「分かりました。ちょうど街道の対策も目処がついたのでちょうど良いタイミングです」

 今日オオカミの治療も終わったし、冒険者も動き始めたから本当にタイミングが良かった。
 明日は直ぐに動けるようにしよう。

「バスク卿、事は複数の貴族が絡む可能性がある。お父様に連絡してもよいか?」
「是非お願いします。我が領の範疇を超える可能性が高いものです」
「直ぐに連絡を取ろう」

 逐一アルス王子と連絡を取っていたが、もう一段階レベルが上がった。
 テリー様の許可を取って、直ぐにビアンカ殿下が国王陛下に連絡を取り始めた。

「テリー様、我々の監視も引き上げていざという時に備えます」
「サトー殿にお任せする。こちらも内偵を引き上げて、周囲の監視に切り替えよう」

 ワース商会がいつ暴発するか分からないから、それに巻き込まれない様にしないと。
 テリー様も監視体制を変更するそうだ。

「お、早速お父様から返事があったぞ。何々、明日朝にアルスお兄様がこちらに来るそうだ」
「また飛龍部隊ですか?」
「うむ。バスク卿よ、悪いが到着の手配をしてくれんかのう」
「直ぐに動いて下さり、非常に助かります。直ぐに騎士に対応をさせます」

 取り敢えず、明日の事はこんなもんだろうな。
 またアルス王子は、一人張り切って飛龍をぶっ飛ばすのだろう。

 テリー様との話が終わり廊下に出ると、足元にベリルが飛び込んできた。
 尻尾をお腹に隠してブルブル震えている。
 一体何があったんだ?
 その答えは直ぐにやってきた。

「うふふ、ベリルちゃん。あっちでお着替えしましょうね」
「怖くないよ。何も怖くなーい」
「キュンキュン」

 とってもいい笑顔のご婦人が二人現れた。
 ああなった奥様ズだと、例え熊でも逃げるだろう。
 実際にベリルは更にブルブルし始めた。

「あのー、この子はまだ仲間になって間もないので、ゆっくりさせて上げてください」
「うーん、サトー様にそう言われると何もいえないわね」
「なら、服を沢山作っておきましょう。採寸は終わってますし」
「そうですわね。うふふ、何がみなぎってきたわ」

 あかん、俺も背筋が寒くなってきた。
 今の二人なら、熊じゃなくてオーガやサイクロプスも逃げるだろうなあ。
 ベリル、いきなり怖い目にあわせて申し訳ない。
 だが俺でもどうにもならない。諦めてくれ。
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